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45 魔王
しおりを挟むルウが用事を済ませてくる、とどこかへ行ってしまったから、一人で街を歩く。
本当にルウが言っていた通り、活気のある街に戻っている。
お城で何かしてきたのかな……
「よぉ! ハル、よく来たな。お、ようやく服を買ったんだな、似合っているじゃないか」
ありがとう、ファルも元気だ。
「ファル、今日はお肉を持っていないのだけれど……」
ただ様子を見に来てしまった。
「なんだ、心配してくれたのか? この前はすまなかったな。あまりいい値段で買い取れなくて」
と申し訳なさそうに笑うファル。
そんなこと、気にしていない。
「それよりも、元の生活に戻ったみたいで良かったよ」
本当に一時的なことだったのか……
「元の生活に戻ったっちゃぁ戻ったんだが」
ファルがそう話す途中でお店のドアが開いてお客さんが入って来る。
「いらっしゃい! ハルすまない、少し待てるか?」
今日は私はお客さんでもないし、邪魔をしては悪いから
「また今度寄らせてもらうよ。ティファナとミリアとララのお店にも行ってくるね」
そう言うとファルが悪いな、気を付けてな、と見送ってくれた。
ファルは何を言いかけたのかな、と考えながらティファナのお店に向かう。
「いらっしゃい。あら、ハル。素敵なワンピース、似合っているわ」
ニコリと微笑むティファナの顔からも不安な様子は消えていた。
「こんにちは、ありがとうティファナ。さっきファルのお店にも寄ってきたよ」
街の様子が元に戻って良かったね、と言うと
「そうね、でも変わったこともあるのよ。ファルから聞いたかしら」
変わったこと? ファルが言いかけたことかな。街を歩いていても全然気が付かなかった……なんだろう?
「魔王が誕生したらしいわ」
…………
「へぇ…………」
マオウ……って魔王?
「あら、もう聞いていたかしら」
反応の薄い私を見て少し首を傾げるティファナ。
そうじゃないんです。頭が追い付いていないんです。
「どうやらお城にある魔力を溜める魔道具が壊れて魔力を溜められなかったらしいの。だから魔道具の高騰や魔石への魔力補充を渋っていたのね」
そうだったのか……
「それでね」
とティファナが話しかけたところでお客さんがくる。
ミリアとララのお店にも寄るからまた今度お邪魔するね、と手を振りティファナのお店を後にする。
また話が途中になってしまった。
「いらっしゃぁい」
なんかいつもと雰囲気が違うねぇ、と首を傾げるミリアにこんにちはと声をかける。
「服がね、いつもと違うんだ。さっきファルとティファナのお店にも寄ってきたよ」
おぉ、本当だぁ、といつもと変わらない様子のミリアにそう言うと
「魔王のことはもう聞いたぁ?」
と言われてティファナから聞いたところまで話すと、
「そぉそぉ、それでねぇ、お城に突然現れたんだってぇ」
魔王が?
「んー? 魔王だったかなぁ……魔王の側近だったかなぁ……」
とにかく偉い人がお城に来たのかな。
「それでぇ、壊れた魔道具を直して魔力も提供してくれたんだってぇ」
だらか元の生活に戻れたのか。
「魔王って魔族の王様ということだよね? ずっと前からいるのかな」
魔族の王様って……
「聞いたことないかなぁ。こんなこと初めてだよぉ」
今まではいなかったのか……
「魔族は人間みたいに集団では生活しないからねぇ」
そんなことをルウからも聞いたような気がする。
「魔力が少なくてぇ、私達とあまり変わらない生活をしている魔族の人達も街の端の方に住んでいるくらいだからねぇ」
それじゃぁ……
「魔族の国はないんだね」
うーん……と首を傾げながら
「それがねぇ……」
と、ミリアが話しかけたところでお客さんが入って来た。
邪魔をしないように、ララのお店に行って来るね、とミリアに言うと
「うん、またねぇ。ワンピースも似合っているよぉ」
変なタイミングで褒められて笑いながら手を振ってお店を後にした。
不安から解放された街はちょっとしたお祭り状態だ。
どこのお店もいつもより忙しそう。
街を歩いていると確かに何か買いたくなる雰囲気だ。
「ハル! いらっしゃい!」
店内にはすでにお客さんがいる。
これは……お喋りをしている暇はなさそう。
パンをいくつか選んでお会計をお願いしながら今度またゆっくり話そうね、と言ってお店を出る。
ララのパン屋を出てから以前一本だけお酒を買ったお店に行ってみようと思いついて歩き出す。
「いらっしゃいませ」
前に来たときもお店にいた上品な雰囲気の背の高い初老の男性が接客をしながらこちらに視線を向けて微笑む。
店内を見て回りながらお金がいくら残っていたかと考える。
そういえばみんなお酒は飲めるみたいだけれど、どんなお酒が好きなんだろう。
果物のお酒や蜂蜜のお酒みたいに甘くて飲みやすいものが私は好きだけれど……
適当に五本選んでお会計をお願いする。
「素敵なお召し物ですね。上品でとてもよくお似合いですよ」
と、上品に褒められた。
ありがとうございます、と上品な言葉遣いに少し緊張しながら
「あまりお酒に詳しくないのでまた今度お勧めのものを教えてください」
とお願いしてみる。
「もちろん、喜んで」
そう言って優しく微笑む姿にどこか懐かしさを覚える。
なんだろう……祖父のような父のような包容力というかなんというか……とにかくそういう懐かしさ。
またお待ちしております、と見送られてお店を後にした。
たまにはいいよね、みんなでお酒を飲むのも。
ルンルンとご機嫌で歩いているとフワリ、と背中が温かくなる。
「ハル、待たせてしまったかな」
ルウが後ろから抱きついてきた。
周りにはルウの姿は見えていないから変に動けない。
「ルウ、用事は済んだの?」
「あぁ、ハルも行きたいところへはいけた?」
うん、と小さな声で話ながら人気のない場所へ移動する。
「それじゃぁ、帰ろうか」
ルウが来たときと同じように魔力を使って空を飛んで帰る。
家に着くと庭でライオスがアオを撫でている。
「ただいま」
「……おかえり」
みんなに、ただいまとおかえりを教えてしばらく経つけれどライオスはまだ少し恥ずかしそうに……けれども毎回ちゃんと言ってくれる。
身体は大きいのにみんな所々こういうところがあるから可愛い。
「ライオス、みんなは?」
「レトは別館にいる。あとは知らない」
そっか、
「夜ご飯にはみんな帰って来るかな?」
すっかりみんなでご飯を食べるのが当たり前になっているけれど……迷惑じゃないよね……
「あぁ、ハルの作る飯はうまいからな。みんな帰って来るだろ」
そう言って自然に笑うライオスが珍しくてつい見つめてしまう。
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「ありがとう、嬉しい」
そう言って私も笑うと顔を背けられてしまった。
「ハル、行こう」
ルウにそう言われうん、と頷きライオスにまた後でね、と言って家に入った。
「お茶でも飲もうか」
と手を洗ってお湯を沸かす。
私がキッチンに立つといつもルウも隣にきてくれる。
「お茶くらい一人でいれられるよ」
と笑うけれどうん、とルウも微笑み結局いろいろと手伝ってくれる。
「ハル、街で変わったことはあった?」
そうだ……
「ルウが言っていた通り、街の人達の生活が元に戻っていたよ。それから魔王が現れたって……ルウは知っていた?」
お茶をテーブルに運びながら聞いてみる。
ルウの知り合いだったりして……
「うん、安定した魔力供給の見返りにこの土地をもらったらしいよ」
へぇ……ん? この土地って……この森?
お茶を一口……
「そう、ここを魔族の国にするんだって」
魔族の……国!? お茶を吹き出しそうになり咳き込む。
「だ、大丈夫? ハル……」
背中をトントンしながら珍しく慌てるルウ。
「うん……ケホッ……大丈夫……それよりも魔族の国? 国ができるの? でも魔族は……」
集団では生活しないって……
「あぁ、別にわざわざ魔族を集める訳ではないらしいよ。いたい者はいればいいというだけのことだから今までと変わりはないんじゃないかな」
そうは言っても国だよ?
「わ、私ここに住んでいていいのかな?」
魔族の国には人間も住んでいいのかな……
「もちろん大丈夫だよ。街の人達もこれまで通り森には入れるらしいし」
そうなんだ……良かった。
「じゃぁ、魔王様にご挨拶とかした方がいいのかな」
ルウが面白そうにクスクスと笑う……
「大丈夫だよ。堅苦しいのは好きではなさそうだし、滅多に人前には姿を現さないみたいだからね」
ルウの話し方……直接は知らないけれど知っている人から聞いたような感じだ。
「ルウは魔王様のことを知っているの?」
そう聞くと優しい顔で私を見つめ私の髪に触れながら首を傾げて
「さぁ……どうだろうね」
と曖昧な返事をもらった。
えー、ここに住んでいる人間って私だけなのだけれど……
「本当に私、このままここにいてもいいの?」
知らない間に不法滞在とかになっていたら嫌だよ?
「大丈夫。ハルはここで僕と暮らすのだから」
うん……みんなも変わらずお隣さんだよね。
「これまでと何も変わらないから」
そうルウが言うのなら…………
少し落ち着かないけれど、私はルウの言葉を信じることにした……
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