LINK

山月 春舞《やまづき はるま》

文字の大きさ
4 / 108
【PW】AD199905《氷の刃》

急襲者

しおりを挟む
  友坂への挨拶を済ませ、暁は自分のデスクへ戻るとデスクの上には、5つ別れた紙の束が置かれていた。

   班員達が集めた捜査資料だ。
   暁は頭の中で事件の概要を反芻しながらそれぞれの資料に目を向けた。

    事件が起きたのは、今から3日前の5月12日、夕方5時半頃。
    発生場所は、閑静な住宅街のある志木市白硝子町。

   被害者は、現場近くにある白硝子高校に通う2年の女子高生、藤 恵未ふじ えみ

   被害者は、部活を終えて、1人で帰宅している途中、曲がり角を曲がった際に突然棒状の様な物で頭部を強打されそのまま転倒した。

   意識は、あったものの突然の衝撃と激痛、そして脳震盪も起こしていた為に被害者は、ほとんど何も見えてない状態だった。

   唯一見たものがあるとすれば足元、茶色いシューズに青いジーンズのみ。
   次に藤は、そのままその場で意識を落とし、次に目にしたのが病院の天井だった。

   被疑者の姿を目撃したのは、同じ高校に通う1年の女子高生、星見 香樹実ほしみ かずみ車木 和之くるまき かずゆきだった。

   藤の数10m後ろを歩いていて、突然の物音に慌てて向かい現場に遭遇した。
   現場を目撃した車木が大声を張り上げ相手を威嚇し、被疑者はそのまま逃亡、すぐさま星見が近所の家に声をかけ110番をして、事件が発覚した。

   2人の目撃証言から被疑者は、男性で20代から40代の男性、事件の時に着ていたのは、深緑のパーカーに青いジーンズ。人相はパーカーを被っていた為に不明。

   特徴的な部位は、なし。

   ある程度のあらましを読みながら次にそれぞれの捜査の成果を見ながら暁は、報告書をパソコンで打ち込み始めた。

   ざっくり言えば成果は、ほとんど無いと言っても良かった。

   カンドリ(被害者の関係者からの聴取)もジドリ(発生現場周辺からの聴取)からも被疑者に繋がる証言が得られていなかったからだ。

   何故、藤は襲われなければならなかったのか、そしてもう1つ資料に書かれている事で目撃者にも妙な点が一つ浮かび上がった。

   星見と車木は、中学生からの同級生であり、2人が住んでいるのは、上福岡市だ。

   帰路に向かうとすれば志木駅から、4つ下った先にある上福岡駅へ帰る筈、それなら駅に向かうのが自然の流れだ。
   しかし、現場は駅からは真逆の方向にあるのだ。

   多感な思春期の子供だ、もしかしたら2人っきりなる場所または、施設に向かおうとしていたのかもしれないと考えたがそんな場所も施設もない。

   少し進んだところに公園があるが閑静な住宅街の真ん中にポツンとある在り来りな公園だ。ムードもへったくれも無い。

   そんなところにわざわざ向かうだろうか?

   だが、被疑者が逃げたであろう、範囲の目撃証言で同じ格好した男が現場から走っていたという情報もあった。
   つまり、一概に嘘をついていると決めつけることも出来ないし、カンドリからの情報からも星見達と藤とは、面識が無かったらしい。

   つまり、動機が無い。

   だが、不自然だ。

   暁は、頭の中で情報を整理しながら5人分の調書をまとめあげた頃には、時計の針は16時半を差していた。

   やる事を終えた暁は、タバコを咥えながら現場周辺の地図を眺めていた。
   志木駅から約1km半離れた白硝子高校生付近の閑静な住宅街。
   物取りの犯行とは、考えにくい。
   なら、色恋沙汰の揉め事?
   0では、無いだろうがそれなら被害者との間に何らかの接点もあるだろうし、カンドリでそんな話も出て来る筈だが…

   別の考え方も出来る。
   暁は、ふとあることを思いつき、時計を確認すると立ち上がり、デスクを後にした。

   場所は、署内の地域課の少年犯罪係だった。

「島さん」

   暁は、デスクで頭を掻きながら報告書を書いてる、少年犯罪係の島を見つけると近づき声をかけた。

「なんだい、捜査課の班長さんが直々に?」

   島は、寂しくなった頭を一つ叩きながら返してきた。

「東口の商店街でさ、最近有名なグループとかになんか動いてる噂とか無いすか?」

   そう聞くと島の緩く垂れ下がった目が鈍く光った。

「どういう系の噂?」

「売買系」

「何か掴んだの?」

   島にそう聞かれ、暁はゆっくりと首を振りながら自分達のおってる事件のあらましを話した。

「その事件は、しってるがそれがなんだってんだい?」

「もし、こっちの被疑者がヤク中でお薬が切れたタイミングでって可能性があるだろう?」

   暁がそう言うと島は、顎を擦りながら首を横に振った。

「そいつは、無茶じゃないか?もしそうならとっくに捕まえることできるでしょ?そこまで行くとどこに居ても不安になるから目につくし、逃げ果せるとは、思えないけどね」

「なら、そういうグループに追われてる可能性は?」

   暁のその言葉に島の口が閉まった。
   どうやら、何か琴線に触れたと暁は確信した。

「こっちとしては、被疑者さえ捕まればいいんだ、手柄はそっちに渡すからさ、情報くれないっすか?」

   暁は、そう言いながら柔和な笑顔を浮かべ島に対して拝むポーズを取った。

    島は、そんな暁をじっくりと観察する様な視線を向けながら何かを諦めたかの様に小さな溜息を漏らした。

「大浦さんって飲める口だっけ?」

「人並みかと」

「東口に個人経営店の【睦月の宴】って居酒屋があるんだけどさ、お酒もおつまみも最高よ、行ってみたら?今夜辺りさ」

   妙な返しに暁は、直ぐに察した。

「なら、島さん案内してくださいよ」

   暁がそう返すと島は嫌らしい笑顔を向けてきた。

「ゴメンねぇ、今日は先約入っててさぁ~」

「そいつは、残念。じゃあ後で誰か誘って行ってみますよ」

   そう言いながら、暁は島に頭を下げると地域課を後にして自分のデスクに戻り、直ぐに地図に目を向けた。

   睦月の宴の名前は、直ぐに東口商店街を少し外れた雑居ビルに囲まれた一角にあった。
   しかし、地図から読み取れるのは、それ以外何なく、煙草を咥えながら少しだけ思案した。

「ただいま戻りました」

   その声が聞こえて暁は地図から目線を上げると班員の壮年の男性刑事の田子たごと若い女性刑事の村瀬むらせの2人が帰ってきた。

「あれ?2人だけ?岩嶋いわしまは?」

   暁がそう聞くと村瀬が肩を竦めた。

「署に帰る前にコンビニに行きました」

「昼食えなかったの?」

   暁は田子に視線を向けてそう聞くと田子と村瀬は首を大きく横に振った。

「昼に牛丼屋よってたらふく食べましたよ、アイツは食いすぎなんだよ」

   田子が呆れ声で応え、村瀬は苦笑いしながら肩を竦めた。

「もぉふぉりまぉしたぁ~」

   そんな田子の後ろからおにぎりを頬張りながら体格のいい大男の岩嶋が現れた。

「物食いながら喋んな、バカ!」

   田子の平手が岩嶋の頭を軽快に引っぱたき、岩嶋はしかめっ面をしながら頭を軽く下げた。

「とりあえず、何か成果は?」

   暁がそう聞くと、3人の表情が深い疲労感を含んだものに変わった。

「通り魔の線で追ったけど、多分これは見立て違いですね、白硝子町付近の町内にそんな話も無いし、事件以降怪しい人間の目撃情報もなしでした」

   田子が溜息混じりに応え、それに釣られる様に村瀬と岩嶋も小さな溜息を漏らした。

   暁はその報告に納得しつつも天井を見上げた。

「戻りましたぁ」

   次に満永と吉原も帰ってきたがその表情を見るからに関係者も完全に空振りをしているのが見て取れた。

「とりあえず、捜査会議始めますか」

   暁はそう言いながらホワイトボードを引っ張り出し手をひとつ叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...