シンミトロア物語【異世界転生ビルダーの紀行】

山月 春舞《やまづき はるま》

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兆し

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   結局、少しの休憩の後にゼンの説得によりセリーナの足に風の魔術を纏わせて運ぶ事になった。
   それからの道程は早く、鬱蒼とした山道を抜けると巨木の森に着いた。

   村は、まだ先なのだろう。
   ハリートレイ達は、巨木の森の中を慣れた足取りで進んでいく。
   幹は、3mはあるであろう巨木は、往々しく立ち、ゼンは見上げながら感嘆の声を上げてしまった。

「おい、気づいたか?」

   クリフが静かに後ろから近づいてくると訊いてきた。
   勿論気づいている。
   周囲に通常のマナとは違う、別のマナが漂っている。
   エレメントは、恐らく土と風だろう。

「恐らく幻術だ、これに感知できなかったら回れ右をさせられてるんだろうな」

   ゼンがそう答えるとクリフは、肩を竦めた。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ、俺達に下手な真似は出来ない、したらそれこそ自分達の首を絞める事になる」

   それは、ゼンは迷いなく応えることが出来た。
   ハリートレイは、決して愚かなタイプでも無いし何よりも村を大事に考えている筈だ。
   そうで無ければ今頃ナカル村は壊滅するかエルフに操られている村になっている筈だ。
   しかし、ゼンにも読めない事がある。ハリートレイの行動の意図だ。ダスティンの推薦があったとしても知りもしない、新参者の領主の元に現れるなど相当な危険な行為だ。
   自分がハリートレイの立場ならこんな事をしないだろう。
   だがもし、自分がそんな行動するとしたのならどんな時だろうか…?

   暫くすると森の風景が変わっていく。
   巨木達が避ける様に立ち並ぶ開けた空間が現れた。
   その中心には一見の堅牢な城壁が聳え立っていた。
   こんな森の中に城壁?
   ゼンは、視線を周囲に走らせ、そしてその城壁に感覚と目を凝らすとそれは石ではなく木で出来ているのが解った。

「まさか…これって…」

   ゼンがそう口走るとハリートレイがゆっくりと振り返った。

「こちらは、御神木の切り株でございます、とある方が降臨された時にこの様になりましたがそれ以前は巨大樹として居たと聞いております」

   降臨、そんな言葉にゼンは何故ハリートレイが自分をこの場に呼んだのか何となく掴めてきた。
   そんなゼンの考えがわかったのかハリートレイは、優しい眼差しでゼンを見ながら緩く頷くと巨大樹の切り株へと歩き出した。
    ハリートレイが切り株へ迷いなく向かいゼン達もその後を追った。切り株へ近づけば近づく程にその大きさが如実になる。
   高さは10m以上はあるだろう、横も200m程はもある。
   恐らくナカル村はスッポリと収まる程の大きさだ。根元の切れ間を進んでいく、門扉と言うより、自然と出来た隙間に出入りしやすい様に手入れされている様子だ。
   隙間の出入り口を抜けると高くそびえる枝葉の自然の屋根にホールの様に開けた空間が姿を現した。
   空間の中心には茂みと木々で囲われた公園の様な広場が見え、その広場を囲む様に木造の家々が建ち並び、緑の大地に石の道路が敷かれている、そこには多くのエルフ達が生活を営んでいた。

「ダスティン、ハリートレイ様」

   2人の姿を確認して、1人の女性が駆け寄ってきた。エルフではない、人の女性。ゼンは彼女を知っていた。彼女もまたゼンを見るなりゼンの前に駆け寄り膝まづいた。

「おいおい!どうした!?」

   ゼンが慌てて体を起こそうとしたが彼女は首を横に振った。

「以前の非礼、お詫びさせて下さい、領主様のお陰で今平穏にそして幸せに過ごさせてもらっているのです、なのにあの時の私きたら…」

「それは、それでしょうがない事だろう、ロベル」

   ゼンがそう言うと少しだけ彼女、ロベルの頭が上がる。ゼンもまたその頭を垂れるロベルに視線を合わせる様に膝を着いた。
   するとロベルも顔を上げ驚いた表情していた。

「いい顔をしてるな、とりあえず立ってくれ、目立ってしょうがない」

   苦笑しながらゼンがそう言うと慌てた表情で周りを見て恥ずかしそうにロベルは立ち上がった。

「も、申し訳ありません、私とした事が何も考えずに」

「いや、良いんだ、とりあえず2人とも元気そうで何よりだ」

   そう言いながらロベルに近づき肩に手を乗せるダスティンに声をかけると恥ずかしそうに少しだけ俯いた。

「これも、あの時の領主様のお陰です。本当にありがとうございました」

   ロベルは再びそう言いながら頭を下げ、ゼンは少し肩を竦めた。

「申し訳ありません、ゼン様。私もこればかりは予見できず騒ぎになってしまって」

   ハリートレイがゆっくりと横から話し掛けてきた。ゼンは、それに苦笑いをしながら首を横に振った。
   次にハリートレイは、ダスティンに視線で下がる様に促すと「また後ほど」っと言ってロベルを連れて下がると「どうぞこちらへ」っとハリートレイに村の中心の広場を避けながら村の奥にある1軒の家に案内された。
   荒削りされた様な木で造られた2階建ての家、アンバランスかとも思えたがまるで最初からそうであったかの様に上手く組まれている。
   ゼンは、その家の節々を見ながらその造りに感動していた。

「どうぞ、ゼン様のお宅と違い狭いですが」

   ハリートレイはそう言うと玄関に入り、そのまますぐ近くにあるリビングにゼン達を通した。
   暖炉にテーブル席、素朴な室内に幾つもの植物達が飾られている、暖かさを感じる部屋だった。
   ゼン達は、テーブル席へ案内され席に着くと奥から杖をついた老婆のエルフがゆったりとした足取りで現れた。

「トレよ、その人間達は何だね?」

   その問い掛けにハリートレイの表情が微かに曇るのをゼンは見逃さなかった。

「母さん、この方はこの領地の新しい領主のゼン・ヤマダル様です」

   極めて冷静にハリートレイが紹介するが老婆は、領主と言う言葉に片眉を上げると明らかにその周辺の空気が変わる。
   マナを集約してる。
    クリフがそっとセリーナの前に立ち腰元の剣の柄に手を持っていく。

「何が領主か、短命の人間ごときが、ここの大地の支配者は昔からアステマラ様じゃ…それを…」

   杖がユラリと仄かに光り始める。
   集まる速さと量が大きい、ゼンもまた腰元に持っていたリボルバーへ手を向けた。
   その時、ドンという音と共に老婆の杖からマナの気配が消えた。
    ハリートレイが自身の杖を使い、老婆の行動を止めたのだ。

「おやめ下さい、こちらはお客人で敵意は無いのです」

「ふん、そうやって、お前の父は人間に騙されたのをもう忘れたのか!?」

   その返しに言葉を詰まらせるハリートレイ、ゼンは本来ならここで下手な事を言えば火に油を注ぐのは、百も承知だが。膠着状態はお互い良くないのもわかっている。

「ならば、我々がここを出ていけば問題はないでしょう?直ぐにお暇いたします。それで今回は矛を収めて貰えないでしょうか?」

   ゼンがそう言うと老婆の目がキツく光る。

「ならぬ、この居場所を知られた今、お主らを返すワケには行かぬ」

「それはどうなのでしょ?確かにここの魔術結界は素晴らしい、ですが見る物には直ぐにバレてしまう、我々が行方不明になり、ここを探られない可能性は低いと思いますが?」

   あからさまな脅しだ。しかし、この村の雰囲気そして、何よりもあの巨大な切り株を目にした時からここは、恐らく彼等にとって掛け替えのない聖地であるのは、察する事が出来る。
   そこに人間の侵略が起きるとなれば老婆からしても許せるものでは、無い。
   ゼンも本来ならばこんな手を使いたくないがお互い無事に済まなければこれからの話が出来なくなる。

「見た目より、随分と肝が据わったモノ言だな小僧」

「これでも、王族ですし、何よりも昔から兄弟達に殺されかけてたので」

   ゼンが苦笑いしながらそう応えると老婆はゆっくりと杖からマナを離散させた。

「王族?ゴカン国か?」

「それは、100年前に滅亡しました、今はショグリーン国です。ゴカン国の系統を引っ張ってるとしたらギブル国でしょうか」

   ゼンの応えに何か満足したのか、老婆は鼻をひとつ鳴らした。

「そうか、滅亡したか…だが、根絶やしになったワケでは、ないのか…」

   そこには、何処か悔しさにも似た何かが見え隠れしている様に見える。だがゼンには今それを聞き出す事もそれによって何かをもたらしてあげる事も出来ない。
   とりあえず、今は何ら遺恨なくこの場を立ち去る事だけを考えていた。
   それを知ってか知らずか、マナは離散したが老婆の鋭い眼光は、相も変わらずゼン達に向けられていた。

「お前らがここに来た目的は何だ?」

「それは、私が招待したからですよ」

   老婆の問いにハリートレイが答えた。

「それでも来ないという選択肢はあった筈だ、しかしそれを来ると選択したのは小僧お前だ、それは何故か危険だと思わなかったのか?」

   しかし、老婆はそんなハリートレイに見向きもせずゼンを睨んだまま杖の頭をゼンへと向けた。
   下手な応えは見透かされる。ゼンはその眼光、そして今も周囲を漂うマナから察した。
   マナは、確かに離散している、だがそれがイコール警戒を解いたというわけでもなくタダコチラに悟られない様に隠したというのが正確な応えだろう。
   そして、そのマナはセンサーの様に察知する能力に長けている。
   ゼンは、これと同じ使い方をする人物を知っている。だからこそソレを逸早く知る事が出来ていた。

「興味、そして、何よりも欲しい種があったので貰い受けに来たってのが本音ですね」

「貰い受ける?略奪する気か?」

「報酬です、元からハリートレイさんともそう言う話でしたので」

   ゼンの応えに老婆は鋭い目付きをハリートレイに向け、ハリートレイはそれに応える様に頷いた。
   嘘は、ついていない。
   それだけは、信じて貰えた様だが、果たしてそれでこの場を離れられるか?
   正直ゼンの中でこの老婆がそう簡単に引き下がるとは思えなかった。
   いや、引き下がるわけにはいかない筈だ。
   かつて、彼等エルフと人間との間に起きた戦争はそれ程、悲惨なモノで多くのエルフ達が住居を追い出され殺害された苦い経験がある。
   なんなら200年経った今でも迫害を受けているのは間違いが無く、噂でしか聞いた事ないがギブルでは、未だにエルフだと言うだけで殺されているという話も聞くぐらいだ。 
   それを考えたらこの老婆からすればゼンの存在はとてつもなく危険な要因なのだ。
   本当ならばこの場で殺してしまいたいぐらいに。
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