シンミトロア物語【異世界転生ビルダーの紀行】

山月 春舞《やまづき はるま》

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ツナグ

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「しかし、これは本当に面白いものだな、扇風機と言ったか、あと何台作る気だ?」

 唐突にとんでもない発言をしたアステマラにゼンは慌てて首を振った。

「何台って、そんなに作れないですよ!?そもそもの素材が足りないし」

 恐らく作れても4台が限界だろうとそれがゼンの目測だった。

「素材?何が足りないのだ?木は沢山あるであろう?」

「風聖草などのマナを内包した素材ですよ、そのベルトを稼働させる為にある程度の風聖草を使いました、これからもいざとなったら使うので、おいそれって簡単に沢山は作れませんよ」

 ゼンのその言葉にアステマラは、ニッコリと笑顔を浮かべるとゼンを腕引っ張り外へと連れ出した。
 中庭を抜けて奥の森へ向かうと「少し辛抱しろよ」っと言うといきなり周囲にマナを張り巡らせた。
 いきなりのマナの本流にゼンはその場で跪き、周囲の木々も大きく揺らぎ、鳴き声の様な音を鳴らし始めた。

「これでよいかの?」

 アステマラは、そう言うと1本の木に触れ、そこに手に集めたマナを流し込んだ。
 すると先程まで青々茂った葉も幹も白くなっていく。
 ゼンは、自分が何を見せられているのか最初はわからなかったが以前に師であるレイメイから言われた言葉を思い出した。
 聖の物質、風聖ふうせ火聖かせい土聖どせい水聖すいせいは、そのエレメントの司る聖霊獣の力によって生み出されている。
 つまり、その聖霊獣がその場である一定の力を使った痕跡なのだという。
 つまり、今それをゼンは目の前で体現するのを見ていたのだ。

「こんなもんで足りるか?」

 アステマラの無邪気な笑顔にゼンは呆気に取られながら気を取り直す様に首を横に振った。

「足りるとかじゃなく十分なんですが、これっきりにしてくださいね」

 ゼンがそう言うとアステマラは、不思議そうな表情をした。

「お前もか、何故だ?我はそんなに苦労しておらんぞ?」

「そういうも話では、無いんですよ!これは我々にとってすんごい希少品です、それは一国を買える程にしかし逆を言えばそれを良くない方向に使う者もいます、今回みたいな簡単にやるのはお控えください!ってかお前もかってどういう事です?」

「エルフの村の皆同じ事を我に言うのよ、そんなに大したモノでも無いのだがな~」

 ゼンの脳裏に何故か監視者達の慌てふためく姿が想像ができた。
 今頃、慌てているのだろう。彼等からすれば人間は短命で欲深い生き物だ、こんなものを見せられあまつさえその聖霊獣に気に入られているのだ、これを金儲けに使うと思われても仕方がない。
 きっと普通の人間ならばそうするだろう、しかしゼンはそれを良しとしない側の人間だった。
 自分を含めた人間がろくでもないモノだと言うことは、ゼンは痛い程よく知っている。
 だからこそ。

「お願いでございます、今度この様な事をする時は必ず、ハリートレイ殿やシャリオ殿の了承を得てくだい、彼等は貴方を祀る民でございます」

「どうしてもか?」

「どうしてもです。もし約束を守って貰えぬのなら今後、作る物をお見せいたしません、それでも足らぬなら私はこの村を出て行きますので」

 ゼンがそこまで言うとアステマラは、口をへの字に曲げながら渋々頷いた。
 それからアステマラにおはぎと煎茶を振る舞い、夕方になる頃にはまた来ると言って森の中を文字通り飛ぶ様に去っていった。
 ゼンは、その背中を見送ると森の奥から静かなマナをゆらぎを感じて目を向けると木からゆっくりと人影が現れた。
 杖を着いた老婆、シャリオだ。
 ゼンは、それに気づくとゆっくりと頭を下げる。

「少し話をしたいんだが、良いかね?」

 以前見せていた敵対心がなりを潜めているのを感じ、ゼンが頷くとシャリオはゆっくりと森の奥へと歩き出しそれに続いた。

「さっきの話、どういう意味かね?」

 目的地は、先程アステマラが1本の普通の木を風聖木ふうせいぼくへと変えた場所だった。

「先程の話というのは?」

「聖物質を作る際に私やハリートレイの許可を貰う様に言ったことさね」

 あぁ、聞かれていたのか。
 ゼンは、そう思うと静かに横たわる1本の木に座る様にシャリオに促した。
 シャリオは、それに素直に従いゆったりと座るとゼンはその前に胡座で座った。

「言葉の通りです、きっとあの方はあなた方の言う事を素直に訊いてくれないでしょう。だから私から大事な事だと思ったので制約として言わせてもらいました」

「それがわからんのよ、聖物質はお前さんら人間にとっても希少品だろ、大量に欲しい筈さ、それを我等エルフに何故、選択権を与えた、我らが許さなければお前さんはこれ以上手に入らないんだよ?」

「それならそれでいい、大量にあれば欲深い人間はもっと求める、薬と同じです、適量を間違えれば死に至る」

「自分は、間違えないと思わないのかい?」

「思いませんよ、人間は欲深い、それは自分を含めた人間と話しているつもりです」

「なら、我らはエルフはどうだ?」

「もし、そうならとっくに人間は滅んでる、あなた方エルフは調和の大事さを知っている、今までそれを体現してきたではないですか」

「口の上手い男よ、それも本心なのだろうが、まだ何かを隠している、違うかい?」

 こっちが口の上手い人間ならそっちは洞察力の鋭いエルフだよ。
 ゼンは、そう思いながら苦笑いを浮かべると小さく溜息を漏らした。
 だが、逆にこれはゼンにとっても都合のいい場面でもあった。

「私は越境者えっきょうしゃと言われているモノです、前の私の世界で言えば転生者と言うんですけど元々はこの世界の人間ではありません。魂の話なんですけどね」

「ほぉ、これはまた面白い話だ、続けろ」

「そこで私はかつてしがない物作りの会社員でした、そして同じ歳の恋人も居た、ですが私が30歳を迎える時に彼女は大病を患い帰らぬ人になりました、そんな彼女に似ているんです…アステマラが」

 最初は好奇心からなのかシャリオは何処か面白半分で聞いていたがゼンの言葉にゆっくりとその顔から表情が消えていった。

「元々苦労してたヤツで、ろくでもない親に振りまされて散々苦労して、人が良いから騙されそうになって、それでも曲がらず腐らず真っ直ぐなヤツで…おはぎが好きで…そんなアイツの顔を思い出して、泣いて欲しく無いんです、アステマラに、似てるだけって思うかも知れないんですけど…どうしてもそれだけは避けたいんです…だからその為には俺は何でもしたいって思ってて」

 ゼンは、そう言うと言葉に詰まり、気づくと頭を下げていた。
 何とも阿呆な言葉を並べているのか、自分で言ってて恥ずかしく何とも情けなくなる。
 かつて惚れていた女性と彼等にとって神に近い存在を並べて話すなどシャリオからすれば逆に貶められていると感じてもおかしくない。
 溜息か罵倒がきっと頭上から降り注ぐとゼンは覚悟した。しかし、シャリオから出てきたのはどちらでもなかった。

「お前さんもだいぶ溜まってたみたいだね、成程、トレイがアンタを気に入るのもわかる気がするよ」

 シャリオは、そう言うと優しくゼンの頭を撫でた。

「アンタ、母親は?」

「血の繋がった母は、私が赤子の頃に亡くなりました、継母は、私をちゃんと教育して下さった優しい方です、口調はかなり厳しいですが、筋の通った真っ直ぐな方です」

「人に恵まれてるんだね、この前のお付の2人といい、この村の人間といい」

「本当にそう思います、ですから私は裏切りたくないのです」

 ゼンがそう言いながら頭を上げるとシャリオは優しい笑みを浮かべていた。

「そうかい、アンタの心情しかと受け止めた。そうさねアステマラ様の行動は出来るだけこちらで何とかしよう、それにたまにはこうして話を聞きに来るが良いかね?」

「勿論、ですが一報ください、茶菓子ぐらいは準備させて頂きたいので」

 ゼンのその言葉にシャリオは鼻をひとつ鳴らしながら笑うとそっと立ち上がり、森の奥へと消えていった。
 ゼンは、その背中を見えなくなるまで見送り、消えるとそっと空を見上げた。
 群青の波がゆっくりとオレンジ色を染めていく。
 その空を見ながらまた彼女の横顔を思い出した。




 ゼン・ヤマダル
 自分がその名前だと知ったのは、赤子の頃だ。
 ゼンが記憶している最初の記憶の話。

 一閃の閃光と衝撃、かつての最後の記憶だ。
 それから目の前が暗闇に染まり、何が起きたかわからなかった。
 しかし、意識はあった。
 暗闇は、何処までも続き、何処までも深い。
 寒いも暑いも、痛いも痒いも、臭いも良い匂いも、辛いも甘いも、煩いもいい音色も、何も感じない真っ暗な暗闇。

 時折、細い翡翠の糸が何本も空を泳いでいるのをみた。
 丸い星の様なモノも見た。

 何が起きたのか、ここは何処なのか。
 意識と思考だけはある、不思議な世界だった。
 死んだのか、だとしたらここがあの世なのか?
 そんな事を考えていると雫が水面に落ちる音が聞こえた気がした。
 そして、全身を暖かい感覚に覆われ、次に感じたのは揺らされている感覚。

 気づくと目が開くのがわかり目を開く。
 しかし、視界はボヤけ何がなんだかわからない。

「貴方は絶対、死なせないからねゼン…」

 言葉が違うのに内容は直ぐに理解出来た。
 何故、ゼンって誰だ?
 俺はどうした?
 何が起きてる?
 唐突にもたらされる五感に戸惑いながらゼンは必死に思考を回した。

 ゼンって誰だ?俺は……


「ゼン様!!」

 セリーナの鋭い声にゼンは反射的にベッドから起き上がった。

「今日は珍しく寝坊ですね?」

 そう言いながらセリーナは、ベッド横の机に冷たい紅茶とタオルを置いた。
 ゼンは、まだ呆ける頭を掻きながらセリーナに礼を告げて冷たい紅茶を一気に流し込むとタオルをとってベッドから出るとそのまま集会場へ水浴びに向かった。
 頭から水を被り、寝汗と共に呆けた頭も定まっていく。
 昨日は久しぶりに深く眠った気がする。
 試作用の扇風機が風を循環させて気持ちよかったのを覚えているがここまで眠りが深くなるとは思ってもみなかったので少し驚いてもいた。
 そして、何よりも見た夢がまさか過去の夢というのが何とも言えない気持ちにもさせていた。
 恐らく昨日のシャリオとの話が連想させたのだろうと思うが、今になってもう名乗ることの無い名前を思い出すとは、何処か自分の中の何かをむず痒くさせていた。

 水浴びを終えるとゼンは、ウィンドルを自分の部屋へ呼んだ。
 長身で体もそれに伴ってガッシリとした体躯のウィンドルだが、ゼンと話す時は妙に小さくなる傾向がある。
 しかし、それに構っていては日が暮れるのでゼンは要件を素早く済ませる為にウィンドルを応接用のソファーに座らせると目の前のテーブルに扇風機の設計図を置いた。

「この木の板を4枚、3台分だから計12枚作って欲しい」

 ゼンのその言葉に不思議そうにしながらウィンドルは、設計図を眺めていた。

「それは出来ますけど、いつまでに?」

 ウィンドルが恐る恐る尋ねてくる。

「出来るだけ早くがいいが焦らないでもいい、実際この板のこの角度が大事でな」

 ゼンは、そう言いながらプロペラの軽い原理を話しながらウィンドルに伝え、ウィンドルは何が何だかわからない様子で頷き訊いていた。
 大量生産は流石に無理だが、ある程度の台数なら作れる。
 とりあえず、3台あればある程度の村人達の眠りも快適に出来る、そう踏んでいたのだ。
 それから1週間後には、3台の扇風機を作り上げ、それぞれの寝床になっている村長であるウズロの家に1台、洋館の1階に2台置いた。
 その頃には暑さの中に涼しさも入る秋の足音がより深まっていった。

 ゼンは、その頃から同時進行で森に潜るとその目で鑑定しながら色んな木の枝を持ってきて整形していた。

「何をしてんだ?」

 そんな作業を中庭でしているとクリフに声をかけられた。

「これか?これは燻製に必要な木材を整形してんだよ」

 ゼンがそう言いながら整形を終えた木材を投げるとクリフはなんてこと無くそれを受け取った。

「燻製?あれかベーコンとかか?なんの為に?」

 何ともクリフの間の抜けた言葉にゼンは呆れた溜息を漏らした。

「冬の食糧の為だよ、保存食、お前達の取ってきた肉とかを腐らせない様にする為にだよ」

 そんな当たり前の事を言うとクリフは感心したのだろう変な声を上げた。

「なるほどねぇ~へぇ~知らなかった」

 知らないのかよ。
 まぁ無理もない。
 元々はシグモ国の貧困街の出だが食糧は貴族や平民達の残飯漁りをしていた筈だし、騎士団に入ってからは寮に入り、朝昼晩と飯も出ていた。
 この村に来てからだってセリーナや他の村人達が準備したのを食べているのだからその事を知る機会もなかったのかもしれない。

「ちょうどいい機会だ、手伝え」

 ゼンは、そう言うとクリフを集会場の調理場へ連れていった。
 あからさまに面倒事に巻き込まれると察しているのだろうクリフの顔は良いものでは、なかったがそこは気にしないで連れていく。
 調理場では、丁度ウィンドルが包丁片手にクリフが捕まえてきた山頭猪マウンテンピッグの解体をしていた。

「ウィンドル、山頭猪マウンテンピッグは、あと何匹解体する?」

 ゼンの言葉にウィンドルを包丁を置き、丁寧に頭を下げると後ろの方を覗き込んだ。

「あと、3体です」

「んじゃあ、クリフにもそれ教えてあげてくれ」

 ゼンのその言葉に2人同時で驚いた声を上げたがそんな2人を指差しながら。

「領主命令な」

 その一言で全てを片付けると調理場を後にした。
 洋館に戻るとセリーナに声を掛けて大量の塩を調理場へ準備しもらう様に声をかけた。
 次に家の建築等で余った木材を見つけると村人何人かに声を掛けて、簡単な掘っ建て小屋を作り上げた。
 四方2mの簡易的な囲いが出来る頃には、解体も終わりそれぞれの部位へと変化していた。
 慣れた作業だったウィンドルに比べクリフは明らかに疲労した様子で集会場の長椅子に寝転がっていた。

「ご苦労さん、ウィンドル、一部は今日の晩飯にするから切り分けて置いもらっていいか?」

 ゼンの言葉にウィンドルは頷き、クリフはのっそりと起き上がると嫌そうな目でゼンを見ていた。

「クリフ、これから塩を擦り込むから手伝え」

 その嫌な予感を的中させる様にゼンが笑顔で言うとクリフは溜息を漏らしながらまた長椅子に体を放った。

「こりゃ、また、すんごいなぁ…」

 グチグチと言いながらもクリフは、塩を肉に擦り込んでいる。
 ゼンもその横で塩を擦り込み、それを終えると荷車に乗せて、ゼンは魔術でゴーレムを呼び出すとそれを冷蔵機能のある保管庫へと持っていった。
 それからそれを棚に5日間寝かせ余計な水分を取ると桶に張った水の中に1時間寝かせ塩抜きすると小屋の中に吊るしその中に取ってきた木を燃やして入れ密閉した。
 煙突替わりにつけた天井の穴から立ち上る煙を眺めながらゼンとクリフはパイプを吸いながら一休みした。

「これで完成なのか?」

 クリフは呆然とゆったりと紫煙を吐き出しながら見上げ、ゼンはゆっくりと首を横に振った。

「まだ足らんから、もう少し作るけどな」

 今回は取れた山頭猪マウンテンピッグの肉は約150kgで村人達が総勢54人、そこにゼン立ちなどを入れると約60人、まだまだ冬を越すには、食糧が足らない。

「良い匂いだな、これはいつ食うのだ?」

 そして、最近増えたと言っても過言ではないのがもう1人。
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