第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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 鳥居式の坑内支柱の通りを抜けて広がる空間を見上げながらスリングは、感嘆の声を上げてしまった。
 あの時は、戦闘中なのもあってこの空間をしっかりと見る事が出来なかったが改めてこの空間を見るとその広さと崩落防止の支柱の精巧さに驚いてしまった。
 柱と柱の間に✕字で組まれた支柱に鎹、確か建築関連の仕事に就いたことは知っていたがこういう細かい仕事が出来るのはやはり維と言うべきなのだろうかと感心してしまった。
 灯との再会とゼン・ヤマダルの正体を知った日から3日後、デンシアの提案でチール、ニーナ、シエル、マミナスは、鉱洞に研究の為に向かう事になった。
 その報告をニーナから受けたスリングは、了承して空いた手を振るとニーナが怪訝な表情を見せた。

「お前も行くんだよ」

「なんでだよ」

 反射的に応えるとニーナはあからさまに呆れた様な態度を見せた。

「あの鉱洞内は、ゼン・ヤマダルの遺産でしょ、お前の義弟の」

「だから?」

「お前にもその構造の説明ぐらいできるだろって話だよ」

「出来ねぇーよ、アイツは建築関連で俺は公務員関連だぞ?」

「それでも、元がこれじゃないかってことぐらいはわかるでしょうに」

 その言葉にスリングは否定を続けたが、結果的に連れてこられてしまった。
 そこで改めて鉱洞内の支柱に張り巡らされている電線ならぬ魔導線に、維の制作力に驚かされてしまった。
 確か機械いじりが好きだったからな、そんな事を思い出しながらスリングは、鉱洞内の配線を見ていた。
 仕掛け的には、魔力の発生源を岩人形ストーンゴーレムから引っ張っていたのだろう、今は盗賊の魔導機でその発生源を代用していた。
 だが燃料の魔鉱石は何処から持ってきていたのだろうか?
 魔鉱石は確かに大きさと消費量にもよるが、一度入れれば最低でも数年はもつが、それでも数百年は、持たない。
 例え、それが殆ど動かなくなったとしても100年単位は持続不可能だ。
 そんな疑問を抱きつつ、鉱洞内を見学していた。
 鉱洞で取れるのは、鉄、ミスリル、らしく、特にミスリルは、地下深く掘らないと取れないとの話だった。
 しかし、ミスリルが取れるとなると王宮も黙っていないだろう。
 ミスリルは、鉄、銅よりも希少性も高いが何よりも魔導系の武器道具を使用する際に最も重要な役割を担っていると言っても過言ではない。
 基本的な硬度は、鉄より強く、鋼より弱いが、鋼よりも魔力の通りが良く、魔力の力を発揮しやすい。
 その為に兵装によく用いられる。
 兵装は、鉄か鋼にミスリルを7対3の割合でそしてゴムとミスリルを9対1で混ぜて形成される鎧だ。
 動きやすさ、着やすさを重視した見た目でウェットスーツの様な伸縮性の高いスーツに胸当て、手甲、足甲を着けた、シンプルな装衣だ。
 そこで使われるミスリルは、ランクにも依るが頻度は、高い。
 混ぜて薄くはなれど、箇所が多く、全ての部分にミスリルが関わっている。それ故にミスリルの重要度は高く、国家でもミスリルの鉱山が見つかれば採掘所は、国家機密にすらなってしまう。
 スリングにとってそれは、今の国家にバレるのは、宜しくない方向に向かう為、取れる量と頻度を考えなければならない。
 次に鉄や銅は、今の生活基盤のベースにもなっているのでここら辺も取引となれば引く手は数多だと言ってもいいだろう。
 問題があるとすればエネルギー面、魔鉱石だ。
 この世界にも重油、石炭等の火熱エネルギー物質は存在しているが魔鉱石もそれの1つで何よりも強力なエネルギーを持っている。
 1kgの魔鉱石で魔導機が5年は稼働できるので微量でもかなりの力を発揮する。
 魔力回路を作る為にもg程度の魔鉱石を銅線やミスリル線に混ぜるだけでも魔力の流れが変わり、より多くの力を発揮する事も出来る。
 魔鉱石の発掘は、鉱山だけではない。
 無論、地層の奥深くに存在する事もあるが怪物の体内にも発生する事がある。
 特に高ランク帯の体内には、kg単位で見つかる事もある。
 だからこそ軍部の仕事やギルドの仕事の中に怪物討伐が存在しているのだ、怪物自体が街を襲うからでもあるがその体内の魔鉱石が生活に欠かせない物になっているからだ。
 だが、相手は怪物だ、一朝一夕で倒せる程、簡単なモノではない。
 スリング達、軍人は兵装や魔導武器を持っているから出来るがそれでも人数が居なければ勝てない可能性も高く、酷ければ多くの死者を出すなんて事もよくある話だ。
 それを兵装や魔導武器を殆ど持たないギルドなら尚更の話だ。
 しかし、一度取れれば生活が一変するという魅力もあり、討伐隊に志願する者も少なくない。
 怪物の素材の希少性も相まっての話だからこそ討伐ギルドになりたがる者も少なくない、なんらな軍人になって除隊してからの再就職先が怪物ギルドなどと言う話はよく聞く方だ。
 スリングは、ある程度の鉱洞内の様子を見終えると鉱洞の外に出て、煙草を燻らせた。

「何さぼってんすか?」

 鉱洞出入り口を警備しているフルーテルがニヤニヤと笑いながら絡んできた。

「俺は、休養中なの、本当はここにいる筈ないの、わかる?」

「それでも、サボりは、サボりじゃないっすか、姐さんに言いますよ?」

「お好きにどうぞ」

 スリングは、頭を掻きながら通信機が置かれた休憩室へと足を向けるとある事を思い出し足を
 止めた。

「なぁフルーテル」

「なんすか?」

「サボりと一昨日の果実の盗み食い、どっちが姐さんに怒られるだろうな?」

 スリングのその言葉にフルーテルの表情がにやけたまま固まった。

「そいつは、卑怯ですぜ旦那」

「お互い上手くやろうな」

 スリングは、そう言ってから休憩室に入ると椅子の背もたれに体を預けた。
 簡単な作りの掘っ建て小屋で内装はシンプルだが骨組みはしっかりとした設計になっている。
 これを3日でデンシアのギルドの炭鉱夫達は建てた。その技術の出所は言わずもがな維なのだろうがそれをこうも素早く正確に作れるのは、流石のエルフいったところだろうか。

「分隊長」

 しばらく休んでいると、通信機から魔力の揺らぎを感知すると同時にマミナスが部屋に入ってきた。

「少しよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 そういうとマミナスは、スリングの対面に座った。

「何故今回の鉱洞調査に許可を頂けたのでしょうか?」

「なんで?調査は普通だろう?」

「しかし、岩人形ストーンゴーレム構造を鑑みれば慎重になるべきだと思います、特に軍部にバレたくないのなら尚更です」

「何かみつかったのか?」

「そこまででは、無いのですが、配線のそれがどうしても精巧過ぎるので見る者が見ればその配線に違和感を覚えると思います」

「見る者が見ればな、しかし本隊にそれらしい人物がいるのか?」

 スリングのその問いにマミナスは、口を噤む。

「それは、お前の報告次第では、どうにでもなるんでないか?」

 スリングが続けて言うとマミナスの視線が強くなった。

「その場合、分隊長の書類確認と管理責任が問われると思いますが?」

「別に、前にも言ったが俺は出世に興味ないの、俺の責任で済むならお前の好きしろ」

 スリングは、欠伸しながら部屋の隅に置かれた荷物の方に向かい水筒を取り出して飲み始めた。

「本気ですか?」

「冗談に聞こえるけど本気だ」

 スリングは、そう言いながらマミナスに煙草を差し出した。
 少し躊躇いながらもマミナスは、それを受け取った。

「俺の考えはな、長が付く者が全ての責任を負うものだと考えている、だから部隊の全員に命令が出来る、その俺が任せているんだ、好きにしろ」

 マミナスは、煙草を燻らせながら目を瞑ると首を横に振りながら目を開けた。

「この小隊の隊長の名前知ってますか?」

「知らん」

 スリングの返答にマミナスは、驚いて目を丸々と広げた。

「正気ですか?基本ですよね?」

 マミナスの言う通り、本来分隊ならその上の小隊、中隊、大隊の長は、上官であり頭に入れておかなければならない。しかしスリングは、この部隊が出来たきっかけを考えると向こうはこっちに殆ど干渉してこないと思い重要視してこなかったのである。
 実際、大隊長、中隊長には、挨拶されたが小隊長は、挨拶するのはこっちから出向けとの態度だったので無視をした。
 忙しさアピールなのか知らないが、、大隊長の計らいでこちらの負担を無くすために中隊長達まで呼んでいるのに下である小隊長が出向かないなどという礼儀知らずなのだ、ならこちらも礼儀知らずで返すだけだ。
 未だに呆気に取られているマミナスは、我に返ると苦笑いを零した。

「ドアール・アケカス、トモフリア戦線の英雄と言われている一人です」

 スリングは、その名前に聞き覚えがなく、眉間に皺を寄せながら首を横に傾けた。

「俺もその戦線いたが、初めて聞く名だな」

 そもそも、英雄と言う割には、小隊長の時点でその話には何か裏があるのを感じた。

「クイブヘア拠点の一番槍の英雄と呼ばれてます」

 クイブヘアの名前を聞いて、スリングはその話とその名前を何故自分が知らないのかの合点がいくと嫌な記憶が蘇り微かに肩を震わせた。

「どうかなさいました?」

 スリングの異変にマミナスが訊ねたがスリングは、苦笑いしながら首を横に振った。

「なんでもない、戦場の恐怖を思い出しただけだ、それでそのアケカスがどうした?」

「小隊長でもあるんですが私の元旦那でもあるんです」

「それで?」

「3日後の調査に恐らくここに来ると中隊の知り合いから知らせが届きまして…」

「それは、会いたくないと言う事か?」

 スリングのその問いにマミナスがゆっくりと頷いた。

「わかった、配慮しよ」

 スリングがなんてことなく答えるとマミナスは、顔を顰めた。

「多分出来ないと思います」

「なんで?」

「あの男は、横暴で自制が効かない男です、もし言う事を聞かなければ何をするかわかりません」

「なら、お前はアイツの言う事を聞いた方がいいと言うのか?」

「確かに分隊長の方が階級は上ですが、あの男に階級なんて関係ありません、自分が立場が上だと思えばどんなことでもしてきます」

「どんな事でもね~」

 スリングは、マミナスの言葉と共に自分の記憶にある、無茶苦茶をする人物達の顔を思い浮かべながら首を横に傾けた。

「とりあえず、アケカスの件は理解した、まぁそれはこっちに任せてくれ」

 スリングがそう言うとマミナスはまだ疑心暗鬼なのだろう、表情を変える事はなかった。

「最悪、私を前に出してもらって構いません、だけどチールだけは、あの男から離してください」

 それだけを言い切るとマミナスは。休憩所を出て行った。
 スリングは、その背中を見送りながら煙を溜息の様に吐いた。

「それで、何がどうなのか後で説明してもらうぞ、チール」

 スリングがそう言うと通信機にノイズが走る。

『なんで聞いてるってわかったの!?』

 通信機から驚いたチールの発声された。

「機械の仕組みは明るくないが、それらを繋げているのは魔力だ、俺の魔力感知は特別製でな、盗賊の一件以降、通信機とお前の間に変な魔力の繋がりが見えてな、まぁ今までは何もなかったから言わなかっただけだ」

 スリングのその返答にチールは、言葉を失ったのか何も返ってくる事はなかった。

「それとニーナに一足先に帰る事を伝えておいてくれ」調べたい事が出来たんでな」

 スリングは、そう一方的に言うと休憩所を出るとフルーテルにも同じ様に告げて歩いてイトの街へ帰った。
 イトの街に到着するとその足でギルドに向かい、地下に用意されている牢獄に向かうとそこには、監視官を任せていたクロバルとハセルがカードゲームに勤しんでいた。
 スリングの到着に気付き慌ててカードを片付けていたが予想外の登場に慌てすぎてカードが一部、床に落ちていた。
 スリングは、その光景に溜息を漏らした。

「暇なのは、わかるが程々にな、これが姐さんに見つかったら、特殊訓練させられるぞ」

 スリングのその一言にハセルは、少しだけ首を横に傾ける。

「個人的には、そっちの方が楽しいので…」

 ハセルのその一言にクロバルも同意なのか苦笑いを零した。
 ハセルは基本的に暇など動かない事に堪え性が低い、それよりも訓練で体を動かす方が性に合っているのだろう、特に姐さんの訓練は、普段の訓練では培われない経験が出来る。
 だけど、手加減しているとはいえ、素直にルミスとの訓練の方が良いとは、スリングはとてもじゃないが言えない。
 恐らく、魔力の量や四元素エレメントへの接続の有無でルミスも力の加減をしているからこう言えるのだろう、だがスリング相手ならルミスは、絶対加減なんてせず確実に叩き潰すつもりで来るのは、明白なので相手にしたくもない。
 なんと幸せな事か、と少しだけハセルを遠い目で見ながらスリングは、牢屋の様子に目を向けた。

「盗賊の奴等に話を訊けるか?」

「それなら、大丈夫ですよ、飯食って寝てるだけなので、元気だと思います」

 3日後に小隊が来る目的は、調査もあるのだが盗賊の一団の受け渡しも兼ねているのだ。
 ユーランド共和国には、警察という組織はなく。
 警察と同じ仕事をしているとすれば軍警備部だ。
 こちらは、主に犯罪者を取り締まる部門になるが国全体に配備が出来ず、配置された部隊がその任務を兼務している。
 しかし、実際の裁判に掛けるには、各法務局がある街でしか行えず、その為に軍部が捕まえるとその法務局の街まで連行する事になっている。
 その間に部隊が尋問等をする事も任務になるのだが、それは、結局法務局でも行われ、報告書の意味がなされていない事からしない、または、適当にする側の隊員も多い。
 今回は、時系列に話を訊いたが肝心な部分では、黙秘をされて結局は、彼等にエルフの子供達を攫ってくる様に命じた者の名前を聞き出せずにいた。

「タルフを尋問室に連れてきてくれ、話がある」

 スリングがそう命令するとハセルとグロバルは、敬礼をして牢屋へ向かった。スリングは、一足先に尋問室で待っていると壮年の男、タルフがハセル達に連れられ、スリングの正面に座らされた。
 スリングは、煙草を燻らせ、タルフに1本差し出し、それを受けったタルフは、ゆったりと煙草を燻らせた。

「中尉殿、まだ私に雇い主を訊くおつもりで?」

 タルフ・デコン、盗賊の一団の団長であり、元軍人でかつては、スリングの部下でもあった、男だ。
 スリング自身は、顔を見たことある程度でしか覚えてなかったが当時の戦線で同じ部隊でしか知らない筈の話を知っていた。

「訊いて応えるならもう応えてるだろ?」

 実際、タルフは、ここに連れてこられてから尋問は、受けていた。
 無論拷問などの手立ては、使ってない。
 ただし、ニーナとルミスに関しては、お説教用の新薬の実験がしたいと言われたが、そこは流石に必死で止めた。
 もし使っていたら口を割っていただろうが、その口から出た名前次第では、こちらも無事で済まなくなる気がしたからだ。
 火の粉を被るのが自分一人なら殺すのも視野に尋問をしたのだろうが、隊員全てに被せるのは、違うと判断したのが理由だ。

「なら、今回は何を?」

「クイブヘア拠点侵攻戦時にドアール・アケカスって名前に覚えはあるか?」

 スリングがその名を出すとタルフは、目を大きく広げた。
 タルフがスリングの部隊に居たと言っていた時の話だ。

「これは、懐かしい話しですな、貴方が一人で陥落させた拠点の名前じゃないですか、それにスゲープゴートとして英雄扱いされたのが、そいつですよ、お忘れで?」

「忘れるもクソも、俺は誰がそれを表で被ったのか知らん、あの時は、それどころじゃなかった 」

 あの時の独断専行は、後に教官であり師匠でもあるツィンブリアによる、盛大な説教と地獄の様な訓練をさせられるという拠点侵攻戦よりも酷い地獄を味わっており、その後の話等、スリングの耳には、入ってくる事はなかったのだ。
 むしろ、調べたくもない、思い出したくもない、そんな風に封印をしてきたのだ。
 嫌な記憶にスリングは、表情を顰めると溜息を漏らして話を戻す事にした。

「それでアケカスってのは、どんな人物か知ってるか?」

「知ってますよ」

「どんな奴だ?」

「シンプルに言えば、小物ですね、階級は気にしませんが立場関係は、気にするタイプです」

「って言うと、中隊長には、逆らえないが少佐で分隊長なら逆らえると?」

「えぇ、幾ら階級が上でも、所詮階級ってヤツですので、逆に自分が大尉でも相手が中尉の中隊長なら逆らえないですね」

「それの割には、大隊長の集合には、集まらなかったな」

「なんの話です?」

「俺が分隊長としての挨拶をする時の話だよ、大隊長が各中隊長や小隊長を集めて挨拶の手間を省いてくれてな、その時だけヤツがそれに参加しなかったんだ」

「珍しいですね、大隊長がそんな事に手を回すなんて」

「まぁ、俺が少佐で左遷されてきたからな、ゴマすり程度な事もあるんじゃないか?」

「大隊長の方が立場が上でも大体の階級は同じでしょ?それなのに中尉殿が少佐で左遷されてきたからってそんな事します?」

「もし、俺が元王宮警護官だとしたら?」

 スリングがそう言うとタルフは、納得した様に頷いた。

「何かあれば上級貴族とのパイプを作ろうと考えて覚え良くしようとしますね、というか、中尉殿は少佐になられて、王宮警護官にもなれていたんですね、出世街道まっしぐらじゃないですか」

「望んじゃいないがな、だけどその大隊長の命令には、従わなかった、これをどう見る?」

 スリングの問いにタルフは、首を横に振った。

「アイツは、馬鹿です、階級を上げる為には、試験を受けるか実績をあげないといけない。特に階級だけ上げてる頭でっかちの奴をアイツは、嫌う傾向が高いです」

「つまり、俺はガリ勉軍人で弱者と判断されたと?」

「えぇ、アイツの考えは動物なので、強ければいいってのがあります。特に軍人なら強さが資本だとすら思っているでしょうね」

 脳筋、その言葉が似合うタイプかと察すると徐に溜息が漏れた。

「ありがとう、参考になったよ」

 スリングは、そう言うと立ち上がるとタルフが慌てて呼び止めてきた。

「今からでも、俺を逃がしちゃくれませんか?中尉殿?」

「俺がそれをすると思うか?」

 その返しにタルフは、苦笑いを浮かべ肩を竦める。

「ですよね、まぁ気をつけてくださいよ、エルフを狙うのは、俺達だけじゃない、俺達の様に仕事の無い元軍人は、沢山いるんですから」

 タルフは、そう言うとハセル達に連れられて牢屋に戻った。
 あの男は、この後も大隊に連れられて拷問を受けても口を割る事はないのだろう。
 スリングは、その背中を見送りながらそう確信していた。
 今の言葉から恐らくタルフは、スリングにヒントを寄越したつもりなのだろう。
 仕事の無い元軍人達、結果を考えればそう多くは、ないというのがスリングの応えだ。
 だが、軍人の頃と同じ生活をできる給料をと言うのなら話は、別だ。
 軍人達の給料は、他の職種に比べれば命懸けの分だけ高いと言えるだろう。
 恐らく次に高いと言えば怪物討伐専門のギルド員だろうか。結果どちらもが多額のお金を貰える分、命懸けになるのは、変わらなない。
 なんなら元軍人でそちらに多くの人間が流れる傾向なのは、よく聞く話だ。
 だが、タルフは、そうじゃなく、より簡単で多額が手に入る人攫いに加担した。命よりも金を優先したのだ。
 あの戦場を知っていれば命を懸けるのが馬鹿らしくなったのだろう。そこは、理解出来る。
 だが、生活での金銭面を考えなかったのがアイツらの盲点だとも言えた。
 恐らく、その感覚に付け込まれたのだ。
 相手は、財力とコネクションを持っている人物でエルフを異様な程に欲しがっている。
 元々御伽噺の様な存在だ、奴隷、研究材料、取引材料、考えられる理由は、山程ある。
 だからこそ、そんな眉唾な話に多額な金をつぎ込むとなると人物は、絞られてくる。
 そこまで考えるとスリングは、余計な事だと察して少しだけ首を横に振り、ハセル達に小言を告げてから牢屋を後にした。
 何にしてもそれを探るのは、今では、無い。
 そう頭を切り替えると、拠点である洋館へと向かい歩き出した。

「あっ分隊長~」

 途中、チダルに呼び止められて振り向くと、ムステルと2人でこちらに向かい歩いていた。
 後ろに誰か居る様だが2人に阻まれて見えなかった。

「よう、街の警邏かご苦労さん」

 スリングがそう言うとチダルがあっと言ってからスリングを指差し、スリングはその指を握ると外へと曲げた。

「人を指差すな、んで今のあって何だ?」

「いででで、すいません!すいません!!あの、この子を拠点かギルドまでお願い出来ないかと~」

 素直に謝る、チダルの指を離すとスリングは、2人の背後に目を向けた。

「げっ…」

 反射的に出た言葉に背後に隠れていた小柄な女性は、2人より1歩前に出るとスリングの腕を掴んだ。

「なに?今のげって?」

 血の気が引き、体も引きたいがそれは、腕を握った女性が許さなかった。
 金色にボブカットの髪を揺らしながら和かな笑顔を小柄な女性は、スリングの右手を見ると掴む手をより強く引いた。

「なんか、また怪我してるね、スリング、これはどうしたのかな?」

「これは、名誉の負傷であります、少将殿」

「ほぉ…」

 掴む手に魔力が帯びるのを感じる。
 ヤバい!!
 咄嗟に判断して掴む手を離そうとするがそれよりも早く、放たれた魔力が電流となりスリングの全身を走った。

「いおt34ほ4hjふぽぐn」

 言葉にできない声を漏らしながらスリングは、その場でのたうち回るがツィンブリアの電撃は収まる事はなかった。

「おかしいな、確か報告だと、落盤事故って聞いたんだけど、今名誉の負傷て言ったよね?」

「おいhfwおいhでhhhc」

「それは、つまり何かを報告してないって事だよね?」

「うfひおhqhv」

 スリングなりに報告をしようと試みるが電流のお陰でまともに話せず、ツィンブリアも電流の力を弱めるつもりはないらしい。

「まぁいいや、とりあえず、洋館に行こうか?このままで」

「れいぐぃうvうぇf!?」

 ツィンブリアは、そう言うとのたうち回るスリングを引き摺りながら洋館へと歩き出した。
 その間も電流は、スリングの体を走り続けた。
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