第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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金色の長

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 ツィンブリア・コロッソ、階級は少将であり、魔導師隊の中でも5本指に入る実力者である。
 年齢やその他の情報も機密事項として扱われる存在で表向きは魔導師隊の教官をして後進の魔導師兵を教育している。
 その中でも彼女に目を着けられた者は金色の魔導師団と言われてもいる。
 ツィンブリアこそがスリングがこの世界に来た越境者と言うを一番最初に気が付いた人物でもあった。
 洋館に到着してツィンブリアに引き摺られるスリングを見るとルミスは、何かを納得した様に頷くとツィンブリアに近づいた。

「久しぶりだね、師匠」

「久しぶり、元気そうで何より」

 その言葉から始まる2人の会話は、スリングの状況など見慣れた様子で目にもくれず朗らかなモノだった。
 実際の話、見慣れているのだ。スリングがツィンブリアに電撃を食らうのは今回が初めてでは、ない。むしろ日常茶飯事だったとも言える。
 漸く電撃の痺れから回復したスリングは、ヨタヨタと立ち上がるとツィンブリアが視線を向けた。

「それで、深い理由て何?」

 先程の電撃中にスリングが言った言葉をちゃんと聞けているあたりは、流石の師匠だとスリングは、感心してしまった。

「とりあえず、3階の部屋までお願いします」

 そう言うとスリングは、未だに痺れが残る足を引き摺りながら3階のスリングの部屋に到着すると書類仕事していたミツリがツィンブリアを見ながら戸惑った表情を見せた。

「安心しろ、上官だ」

 スリングは、それだけの説明を終えるとミツリに部屋から出て行って貰い、2人きりになったのを確認してから事の顛末を話した。

「つまり、鉱洞には、ゼン・ヤマダルの遺産があって、それを今の軍部には、渡せないと思って嘘の報告をしたと」

 全ての話を終えるとツィンブリアは、顎に手を当てて何かを考える様に視線を上に向けた。

「はい、大臣のゲールとハウルン少将の動きも気になりますし、何よりも最近友好的になりつつあるツィール国との戦争は、どうしても納得がいかないんです」

「相手が獣人なんかの亜種人種の国だとしも?」

「俺からしたら亜種とかよりも同じ人種でも姑息な手を使うティク国の方が信用出来ませんけどね」

 スリングの嘘のない言葉にツィンブリアは、クスリと笑うとルミスが3人分の紅茶とおはぎを運んできた。
 おはぎにツィンブリアは、驚いた表情でそれを見つめていた。

「ルミさんや、これはなに?」

「おはぎと言って、コイツの元の世界の有名なお菓子らしいですよ」

「それをどう再現したの?確か似てるものはあるけど同じものがないから再現できないって言ってたよね?」

 ツィンブリアの視線がスリングに向いた。

「それも順番に説明しようと思っていました、岩人形ストーンゴーレムの討伐依頼をしてきたギルドマスターがエルフとのハーフでこれの元となる食材を持っていたんです」

 その説明にツィンブリアは、顔を顰めた。

「だとしても、この食材をスリングに渡すのおかしくない?だってこれは、別世界の食材でしょ?それなのにこれを持っていることもましてやスリングに報酬で渡すのも変じゃない?」

「渡してきたのは、デンシアですけど渡す様に言った別の人物が居たんです」

「それは?」

「ゼン・ヤマダルです」

 スリングの言葉にツィンブリアは、呆気に取られたのか顰めた表情のまま止まってしまったがスリングは、その間にも自分とゼン・ヤマダルになった多々見 維との関係性、そして聖霊獣のアステマラとの関係を話した。

「あっへぇ~~なんか凄い事になってんねぇ~スリング~」

 全てを話し終えてから中身を理解したであろうツィンブリアは、感心した様に頷きながらマジマジとスリングを見つめた。

「別段、越境者ってのは、珍しくないのよ、魂の海は、どんな世界とも繋がってるし、前世の記憶を持つのも珍しくない。だけどそれに合わせて潜在的な別の力が着くのは、また別な話なの、だから私はスリングに目をつけたけど…まさか伝説の存在が義兄弟で聖霊獣が妹って中々だよね~」

 ツィンブリアに改めてそう言われると我ながら何とも奇妙な人生だとも思った。
 中級貴族の次男坊で家督は、継げず。制服姿の凛々しさに憧れて入った軍部で前世の記憶と能力の使い方を教えられ、そしてかつての世界での妹とその旦那と再会した。
 改めてまとめて見ると中々濃い話だと思った。

「それで、スリングは、どうするの?」

「どうするとは?」

「このまま、この地の分隊長を続ける気?」

「無論暫くは、続けるつもりですよ」

 スリングのその答えにツィンブリアの片眉が上がる。

「今嘘ついたね」

「えっ?」

 その返答に図星を突かれたスリングは、ツィンブリアから視線を逸らした。

「本当は、このまま、ここでのんびりするつもりでしょ、それこそ死ぬまで」

 流石は、師匠と言うべきなのかスリングの腹の底は、読めている様だった。

「実際は、そうしたいですね、正直、あんな柵だらけな世界は、願い下げですけど、そう言ってられないのが現状とも言えます」

「ゲールの事?」

 その応えにスリングは、頷いた。

「正直言って今回の件は、どうも嫌な感じがして気になるんですよね」

「それは、直感?」

「はい」

 スリングの真っ直ぐな答えにツィンブリアは、暫く沈黙すると小さな溜息を漏らした。

「わかった、ならこっちでも少し探りを入れてみるよスリングの直感は、その眼の事を踏まえると眉唾とは、考えにくいからね」

 そう言うとツィンブリアは、おはぎを頬張ると紅茶を啜ってからおはぎを指差した。

「いい案配で甘くて美味しいけど、スリング、これちゃんと?」

 一瞬何を言っているのか理解できなかったがツィンブリアのその問いにスリングは、左目に魔力を集めて観察した。
 そこには、見た事のない白い魔力によっておはぎが覆われているのがわかった。
 その光景にスリングが声を詰まらせ、それを見ているツィンブリアは、小さな溜息を漏らした。

「今の話から察するに、これは聖霊獣が創造した物が原材料だよね?」

「はい…」

「それなら、これも聖遺物に該当するとは思わなかった?」

 ツィンブリアの一言にスリングは、首を横に振った。

「すいません、懐かしい食材だったもので…どうようして見ていませんでした…」

 スリングの返答にツィンブリアも納得した様子で鼻をひとつ鳴らす。

「まぁ幸いにも、力はあるけど、あくまでも水の癒しが主だから、体内の回復と異物の除去っていうのが本来の力みたいだね、だけどそれは、分量が正確ならの話、量を間違えれば毒にもなる、それが薬、回復が異常な物になるとどうなるかね?」

 ツィンブリアの指摘にスリングは、黙っておはぎから目を離せなくなっていた。
 冷静に考えればわかった事だ、しかしスリングは、その冷静さを欠いていた。もしこれを発見したのがツィンブリアではなく。戦争推進する側だとしたら、それはこの街を危険に晒す事にも繋がりかねない事でもあったのだ。
 これ程の魔力を有した食べ物は、存在しない。
 それが何を意味するか、これを別な物へと変化させる研究だ。
 今ツィンブリアが言った異常な回復をする食べ物となればどんな物が出来上がるのか想像すらだけで寒気がした。

「これは、豆や麦の様な小さな実が原材料名だよね?」

 スリングの嫌な想像を遮る様にツィンブリアが続けた。

「はい…」

「なら、それが幸いしたね、粒一つ一つ自体に対した魔力は、ない。それ以上の効力を発揮するとなると何百億とかの相当な粒を濃縮しないとそこまでの効果は、発揮しないから」

 ツィンブリアのその言葉にスリングは、少しだけ安堵したが直ぐに自分の立場の危うさに気づいた。
  
「それよりも、それにまだ気づけないって事は、スリング…魔術の修行サボっている様だね?」

 そして気づく時は、もはや手遅れの時が多い。
 ツィンブリアは、和かな笑顔をスリングに向けているがその背後から赤黒い雰囲気が漏れ出していた。

「曲がりなりにも金色の魔導師団の団員である君がそんな為体だと困っちゃうなぁ~~」

 あぁ詰んだ、これは確実に詰んだ。
 スリングは、苦笑いを浮かべながらルミスに視線を向けるがルミスは、ツィンブリアに向かってグッドサインを出していた。

「まぁ今日、だし、明日から始めよっか、まだ療養期間だし問題ない」

 ツィンブリアは、そう言いながら席を立ち上がるとルミスに部屋の用意を頼んだ。
 無論、わかっていたのだろう、ルミスは準備が出来ていると言って案内を始め2人は部屋を出ていった。
 スリングは、ギブスをした右手を持ち上げ少しだけ手を動かした。
 電流を流された時から気づいては、いたが。
 相変わらずの荒療治にスリングは乾いた笑いを漏らすしか出来なかった。
 そこから部屋を出したミツリに戻っていい事を告げたついでにギブスを壊す為に鍛冶場に向かうと監察任務を終えた、クロバルがタイプライターを弄っていた。

「ご苦労さん、手ハンマー無いか?」

 スリングの問いにクロバルは、少しだけ不思議そうな表情をしながら渡してくるとギブスを壊そうとするスリングを慌てて止めた。

「いや、分隊長!!?何してるんですか!?怪我まだ治ってないでしょ!?」

「それが治ってるから、ギブスを壊すんだよ」

「え?」

 スリングの応えに止めるクロバルの手が緩み、スリングは、そのタイミングでギブスにハンマーを振り落として破壊した。
 何度か手を握ったり開いたりしてから、数度拳を振り、次にハンマーを持って振る。

「本当に治ってる…どうしたんです、それ?」

「俺達の師匠が来て、治してくれたんだよ」

 スリングが溜息混じりに応えるとクロバルは不思議そうな顔をした。

「いい事じゃないですか~それなのに何でそんなに暗いんです?てかどんな方なんですか?」

 なんでそんなに暗いのか…それは明日から始まる地獄を想像するだけでも憂鬱な気分になっているからだ。
 そう説明したいのは、山々だがこの会話を何処で聞かれているかもわからないので下手な事は、言わないでおく。

「どんな人かは夕食の時にわかるよ」

 それだけ言うとクロバルが直していたタイプライターに目を向けた。

「ところでそれは、壊れてるのか?」

「あっえぇ、少しだけ、文字打つところに漏れたインクが垂れて固まってしまったので分解して直してます」

 クロバルは、そう言いながらタプライターの修理に戻った。

「クロさーん、ちょっといい~って分隊長、お疲れ様で~す」

 その様子を眺めていると罠を持ったタイロンが鍛冶場に現れた。

「お疲れさん」

 スリングがそう言いながら手を上げるとタイロンは、驚いた表情を見せた。

「あれ、右手治ったんすか!?」

「今さっきな」

「それなら、期待していいんですかね?模擬戦」

 タイロンの言葉にスリングは、確かにこれなら早く出来ると思い、数度頷いた。

「そうだな、これなら確かに…」

 もしかしたら、楽ができるかもしれない。
 そんな一縷の望みも出てきた。

「それと、クロさんこれ、起動できなかったんだけど何でだと思う?」

 スリングが邪な考えをしているのを尻目にタイロンは、1つの罠を鍛治台に置いた。四角い小さな箱型の罠だ。

「これは?」

「通信型地雷です、ちなみにニーナさん策の痺れ薬が粉状で噴出されます」

「通信型ってなんだ?」

 スリングがそう言うとタイロンは、手のひらサイズの金属板を見せてきた。
 魔力が流れている事からミスリルとの混合板なのは、わかるがそれよりも気になったのは、魔力の紐がそれと結びついているところだ。

「まさか、遠隔で操作で爆破する気か!?」

 スリングの応えにタイロンは、正解と言う用に指を立てた。

「その通り!面白くないですか!?」

 遠隔で魔術を発言させるのは、別段不思議な事では、ない。
 しかし、それはあくまでも四元素エレメントを使えた場合の話だ。
 タイロンは、明らかに基礎魔力しか使えない、だがそれを魔導回路で補おうとしているのだ。
 それは、未だに開発されてもいない技術であり、その発想の柔らかさもだがそれを体現する知識にスリングは、感心して空いた口が塞がらなくなった。
 本来なら止めるべきなのだろう、しかし止めてばかりでは、何も進まないのも確かだ。
 それにこれは、タイロンの独自の技術だと言える。
 スリングは、戸惑いながら地雷を手に取るとその中身を開けた。
 回路手順に問題は、ない。あるとすれば回路の通信が阻害されやすいのだ。

「これは、もし使用されなかったら回収できるのか?」

「勿論、スイッチで位置を把握出来ますし、何よりも素材は無駄にしません」

 タイロンが自信を持って応えた。
 その顔を見ると自然と笑けてしまった。
 それは、かつての維を思い浮かべていたのかもしれない。

「あくまでも、非殺傷武器としての制作としていいか?」

「勿論」

 タイロンが自身を満々に応えるとスリングは、中身の一部を指差した。

「この通信の回路だろ、これの周波とスイッチの方の魔力の周波が少し違う、回路は他の誰かに頼んだのか?」

 その指摘にタイロンとクロバルがお互いを見合った。

「自分が爆弾の方の回路を制作しました」

「なら、今一度今度は逆の回路を作ってみろ、そうすれば恐らく上手くいくと思う」

 スリングのそのアドバイスに2人は、目を輝かせて早速回路の制作を始めた。ミツリからのタイプライターの事が気になったが水差す気にもなれずそのまま鍛冶場を後にした。
 この後、夕食後にクロバルが少しだけミツリから非難を受けていたがそれはスリングのあずかり知らぬ事だ。
 夕食後、今日の報告書を作戦本部で確認しているとそこにチールが訪れた。
 昼間の一件を思い出してスリングは、目の前の席に座らせると次にニーナ、ルミス、ダーナ、そしてツィンブリアが当たり前の様に入ってきた。
 3人の登場は予想内だろうがツィンブリアの登場は、予想外だったのだろうチールは戸惑いを隠せずにスリングに視線を向けていた。

「この人は、大丈夫、もしかしたら力になってくれるかもしれない」

 スリングがそう言うとチールは、少し戸惑いながらも口を開いた。

「まず、なぜあんな物を通信機に仕掛けた?」

 スリングがそう訊くとチールは困った様に頭を掻いた。

「緊急用、もし通信機を使いたくても使えない状態の時にそれを使えば部屋の様子がわかると思て」

「敵に利用される事は、考えなかったのか?」

「一応、特殊回線使ているから本当だったらバレないと思って、現に分隊長も最初の方は気づいてなかったし」

 チールの進言にスリングは、顔を顰めた。
 それを割く様にニーナが手を上げた。

「すいません、話が見えないんですが?」

 その進言にルミスとダーナも頷くがツィンブリアは、素知らぬ顔で紅茶を啜っていた。

「昼間、鉱洞の拠点の通信機から特殊な魔力を感じてな、まぁ最初は黙って居たんだがマミナスとの会話の時にそれを感じてそれの説明をチールに求めてる」

「特殊な魔力てなにさ?」

 ルミスが訊ね、スリングがどう応えるか思案しているとチールが諦めた様に呟いた。

「通信機のボタンを押さなくても蓄えた魔力で音声を発信できる装置を付けたの」

「ちょっとそれって…」

「盗聴器だね」

 ニーナが戸惑いの声を上げるとそれに応える様にツィンブリアが冷静に応えた。

「また、なんでそんな真似を…」

 ルミスが呆れにも似た困惑の声で訊ねるとチールは、俯いた黙ったしまった。

「スリング?」

 答えがわかっているんでしょ?と言う様にツィンブリアに名前を呼ばれスリングは、少しだけ天井を見上げた。

「恐らくマミナスの動向が気になったんだろ、特に俺達の扱い如何では分隊を追われる可能性もあったそれが気になった、違うか?」

 正解を引いたのだろう、チールが驚いた表情で顔を上げた。

「ここの所、アイツとは報告の如何で話し合いをする事が多かったからな、それで気になったんだろう」

「そう、マミナスは生真面目だから、黙っておけばいい事を変に突っ込む癖があって、それで男性上司に生意気だって揉める事が多くてさ、今回も同じ事になっているんじゃないかって不安になって…」

 チールの応えにスリングは、納得して頷いた、岩人形ストーンゴーレムの観測結果をスリングが軍部の研究部に報告するなと命令して、マミナスが反論してきたのがそういう風に見えたのだろう、スリング自身にもマミナスと同じ様な扱いを受けた経験がある、それはこの軍部だけではなく、前世である警察官の時もあった。
 疑問を聞いて、それが都合悪いかまたは、自分自身も理解していないから答えられない。だけどコチラはその説明を求める、だが知らないとは、プライドが邪魔して言えないから力技で黙らせてくる。
 こういうのは縦社会で上の言いなりでしかない上官がやるケースが多く、特に軍部や警察など命令絶対の社会では、頻繁に起こる傾向が高い、そしてそれは部下との間に敵対心や疑心などの軋轢を生む事も多く、それを元にトラブルや敵等を作る。
 だからこそスリングは、出来うるだけ筋の通った質問には、真摯に応えていた。
 いらぬ敵を作るよりもこっちの方がいい結果を生むと信じているからだ。

「ちなみにその心配は、ない。少なくとも俺からアイツを外すなんて事はない」

 スリングがそう答えるとチールは、少しだけ安堵の溜息を漏らした。

「その上でお前に訊いておきたい事がある」

「アケカスの事でしょ?」

「今度は誰?」

 チールの答えと同時にニーナが口を挟んだ。

「マミナスの元旦那で、暴力が酷かった男だよ」

「その男が何よ?」

「うちの小隊長でしょうが」

 ニーナの続けての質問にルミスが呆れながら応えるとニーナは嘘!?と言いながらスリングの顔を見たがそれに対して肩を竦める事しか出来なかった。

「お前」

 ルミスの一言が響くがスリングは、首を横に振るだけだった。

「これは、スリングも知らなかったね、直属の上官なのに」

 ツィンブリアが追撃し、スリングは、静かに首を横に振るだけだった。

「とりあえず、2人は後でお話があるので覚悟しておいてね」

 ルミスの言葉にスリングとニーナは、肩を少しだけ震わせた。

「それでそのアケカスが何なの?」

 その話を誤魔化そうとしているのかそれとも話の続きが気になるのかニーナが先に進む様に促した。

「3日後の調査に来るのがその小隊長殿なんだよ」

 スリングがチールの代わりに応えるとニーナは口を噤んでしまった。

「昼間、マミナスに自分を売ってもいいからチールだけはアイツの前に出さないで欲しいと言われた。それは何故だ?」

「多分向こうは私を恨んでいるからだと思うから」

「なんで、アケカスがお前を恨むんだよ?」

「それは、私が逃げてきたマミナスを匿って軍にアケカスの行動を密告して、2人を離婚させたから」

「なにそれ!!?」

 その内容に憤慨したのはニーナだった。

「要は、本当の原因は向こうの暴力で離婚したのにそれを匿ったて理由だけで逆恨みっておかしくない!?」

「落ち着きなさないな、そんな倫理観が通じる相手ならこんな事には、なってないでしょうに」

 憤慨するニーナにルミスがゆったりと諭す、その言葉にニーナは少しだけ冷静さを取り戻すが中は、まだ憤慨しているのには変わりはない。

「それでどうする気なのさ?」

 ルミスが黙っているスリングに訊いて来るがスリングは肩を竦めた。

「どうしようかね、俺がやってもいいけど、それだとつまらないよね、なんせ相手様は英雄なんだし」

「英雄?どこの?」

 ニーナが睨みを効かせてスリングの方を向いた。

「クイブヘア拠点」

 その一言にルミス、ニーナが怪訝な表情を浮かべて何かを思い出したのかツィンブリアがあぁ~と声を漏らし、スリングを見た。

「なんか聞いた名前かと思ったらそうか、スリングのスケープゴートに使ったヤツの名前か」

「どういう事?師匠?」

 ツィンブリアの言葉の意図が掴めずニーナが訊き返すとそれで全てを察したのか代わりにルミスが応えた。

「この人、あの時、ティク国の新型魔導機を単独で破壊して直ぐに敵の中隊が居たあの拠点をほぼ1人で陥落させたでしょ、それで余りにも目立ちすぎだってあの拠点の1件に関しては、魔導師隊が代わりの人物をその拠点陥落の英雄に仕立てあげたのよ、確か」

「それがアケカス」

 ルミスの応えを穴埋めする様にスリングが応えるとニーナは、呆れ声を漏らした。

「ちょっと、まって!アケカスてクイブヘアを陥落させた立役者じゃないの!?」

 チールが困惑した様子で訊くと2人は、どう応えるか迷ったのか自ずとスリングに視線を向けた。

「正確には、違う。ソイツが拠点に来た時には、俺が相手の戦力をほぼ削ってたし、後に来ても残兵の始末しか残ってなかった筈だ、だから未だに小隊長止まりなんだよ」

 スリングの説明にチールは、驚きながら背凭れに体を預けた。

「つまり、分隊長達ならあの男を止められるの?」

「達じゃなくても、余裕、この3人なら大隊ぐらいなら半壊できるんじゃない?」

 チールの応えにツィンブリアが冷静に応えた。

「なら、マミナスを助けてよ…あの男は多分、またマミナスに嫌がらせをしてくる…下手したら無理やり連れ帰るかもしれない」

「任せ…」

「それは、どうなのかな?」

 スリングが請け様とするとツィンブリアがそれを止めた。

「ここは、あくまで軍隊であり、縦社会、上の命令を聞かないとならないのが本来の常、何処ぞのおバカくんは、それで無茶して何回私の説教をくらったんだっけ?」

 ツィンブリアの一言にスリングは、片眉をあげた。

「確かにそうですが、聞くべきものとそうじゃないものというのが個人的には、あると思っています」

「事と次第によっては、反逆罪にもなるよ」

「小隊長の不遜な振る舞いを止めるのがそれにあたるのでょうか?」

「それは相手の証言しだいで変わる、都合が悪い事は、でっち上げてハメるなんて、上層部がよくやる手口、今だってスリングのスケープゴートにアケカスを使った話をしたばかりでしょ?」

「つまり、師匠は俺にこの件で手を出すなとおっしゃているんでしょうか?」

「勿論、ややこしい事になるのは明白なんだし手を出さない方が良いに決まってんじゃん」

「それは、部下を見放せと?」

「それでしか部下を救えないならそうかもね」

 その言葉にスリングは、言葉を詰まらせた。これは叱責ではない、そう気づいたからだ。
 そんなスリングの態度に気付いたと察したのかツィンブリアは、立ち上がった。

「まぁこれで問題になったら私がスリングをしばくだけだけどね」

 恐ろしい一言と共にツィンブリアは、部屋へと戻って行った。
 その後の部屋には、妙な沈黙が流れた後に解散となった。
 みなが部屋に帰ってからチールの一言にフトした疑問があるのを思い出した。

「現に分隊長も最初は気づいてなかったし」

 その言葉をそのまま解釈すれば盗賊の一件の前からそれを仕掛けている事になる。
 チールがプライドで嘘ついていたとも思えない、なら自分に何らかの変化があったと言う事のなのだろうか?
 少しだけ考えたスリングは、答えを出せぬまま煙草を燻らせながら窓の空へと目を向けた。
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