第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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街のはずれの老夫婦

繋がる怨嗟

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 穏やかな陽光が窓に差す中でツィンブリアは、優雅に紅茶を啜っていた。

「こっちに来てるのに教えてくれないなんて、水くさいね~スリング~」

 ゆったりと話すツィンブリアにスリングは、何も言えず苦笑いをこぼした。
 調査の1件から1週間後に突然、仕事があるから首都に戻るねっと去って以降約2週間ぶりの再会になるがあまりにも早い再会、どうしたものかと思案する。

「いや、あくまで休暇で来てるだけなんで、わざわざ師匠のお時間を頂くなんて事は…」

「昨日、軍警と揉めたらしいね、それに監察も動いている、何したの?」

 この人には、多分嘘なんてものは、通じないのだろう。
 サクッと本丸を撃ち抜かれ、スリングはあえて話題を逸らそうと試みる。

「師匠こそ、なんでこの店に?」

「それを聞く?知ってるのに?」

 逸らす方向を完全に間違えたかもと思いながらも軌道修正をしてみる。

「俺達は、師匠の数多い弟子のウチの何名ですよ?」

「それでも、弟子は大事な身内だよ、その身内の大事なモノなら守ってあげたいってのが師匠心てヤツでしょ?」

 グゥの音も出ない簡潔な返しにスリングは、何も返せず黙ってしまった。

「それで、スリングは何をしているのかな?」

「調べ物を…」

「どんな」

「とある、事件についてですかね…」

「どんな事件」

 流石にその応酬に耐え切れず、スリングは首都に来る前にそして来てからの事を話してしまっていた。

「つまり、部下の様子がおかしいと探り入れたら自分に心当たりがあって調べに来たと、そういう事だね」

「心当たりって程でもないですよ、一応自分の中である程度の結末は抑えましたから」

「一生物の怪我を負わせたって報復だけどね」

 説明の中では確かに落ちて一生物の怪我をしたとしたか言ってないがアッサリとバレてしまった。

「それで、スリングは、これからどうするの?軍警には目をつけられ、マフィアも動くんじゃない?」

 どうする、正直な話、スリングの中で今回の落とし所が見つかっても居ないのが本音だ。

「今スリングの中でユラシアを殺した薬物は麻薬の顔を被った毒物でその製作者はゴルガン夫妻、そう考えてるんでしょ?」

「恐らくですけど」

 あくまで恐らく、証拠がない以上そこに絶対はない。

「でも、ほぼ確定と言っていい、もし彼等が逮捕されればそれ相応の罪に問われる事になる、下手したらエレン・ゲイブが何を仕掛けてくるか分かったもんじゃない、一時の力を失ったとはいえ、腐ってもまだ上級貴族、その手の影響力は残ってる」

「下手したら、裁判にかける前に殺す可能性があると?」

「そうね、闇から闇へ葬ろうとするだろうね」

 確かにそうなる可能性が充分高い、だがスリングに何が出来るのだろうか?
 恐らくユラシアの中毒死は、夫妻による毒殺でほぼ間違いないのだろう。エレン達がシランを追う理由も彼等との繋がりがあると踏んでの事だ。
 そして、彼等は今イトにいる、イトは軍警の管轄範囲外だ、だからエレンは、夫妻の捜索に難航している。
 だが、それも時間の問題だ、恐らくシランがユラシアに薬物を渡していたのならもっと痕跡が残るはずだ、しかしマスターのあの強気な発言を考えるとシランがユラシアに接触していた可能性は低いと見られる。
 だとするとあの夫妻の居所がバレるのも時間の問題だ。シランが受け渡しに関与しているならまだ時間は稼げるがそれが違うとなれば厄介なのは相手がそれをそういう物だと認知してなかった場合だ。
 何も知らず、売人を続けているならいずれはエレンに捕まってしまう。
 そうなれば尋問や拷問の数々を受けて、そうして吐いてしまう。もし売人があの夫婦のことを知らなかったとしても荷物が何処から運ばれてきたのか調べる事などエレンからしたら造作も無い事だろう。腐っても軍警が付いているんだ、捜査の為だと言えば嫌でも向こうは言う事を聞く。
 このままだと向こうの思うつぼだ、これらをどう切り抜ける?
 そもそもあの夫妻はどう切り抜けるつもりだった?
 息子の復讐は、もう済ませている。エレンの事を念頭に入れてなかった?そんな筈はない、息子の死の時にあの夫妻に煮え湯を飲ませたのは誰でもないエレンだ。
 ユラシアの罪と引き換えに薬と捌く組織を売り、息子の事件を闇に葬った。
 その存在を忘れていたは、到底思えない。
 何を狙っている?

「とりあえず、まだ情報が足りないんじゃない?」

 ツィンブリアの一言にスリングの思考を止めた。

「そうですね、とりあえず今は無事に帰る事だけ考えます」

 スリングがそういうとツィンブリアは、ゆっくりと首を横に傾けた。

「無事には、帰れるでしょ、ヒラスがスリングを敵に回すと思えないし」

 それも気づいていたのね、そう言いそうになるが向こうの反応を思い返せばそれはそうか、此方を注意深く警戒していたがこの店に嫌がらせの一つもしてこなかった、この店の娘であるウルアが警戒していたのを鑑みれば以前は、それなりの嫌がらせをしていたのだろうが今はそれをしなくなった。
 何故か、答えは簡単だ、今目の前で優雅に紅茶を啜っている人が現れ、追っ払ったからだ。
 オマケに相手は、ヒラス、姐さんの顔は知らなくてもこの人の顔は嫌でも知って居るはずだ。

「とりあえず、今日の夜には、話をつけてきますよ」

 スリングがそう言うとせき込む声が自然と視線が向く。

「ウルア、大丈夫!?」

 トロアが慌てて近づき様子を見ている、呼吸の様子がおかしい、その音が気になり自然とツィンブリアの方に視線を向けるとそこにツィンブリアの姿はなく気づけばウルアに近づきその背中を擦っていた。

「苦しい?ゆっくり息をして」

 ツィンブリアは、優しい声を掛けながらも手に纏った水の魔力でその体の状態を整えていた。しかし水の魔力は、あくまで外傷や身体的な調整でしかない、内臓や気管の炎症等の病気は水よりも薬などを扱うの土の元素が有効な手立てだ。
 特にウルアが出している今の咳は、喘息、気管支炎だ。
 本来なら薬を飲ませる方が良い、これがあるならニーナを連れてくれば良かったと少し後悔しながらもツィンブリアの魔力が全て無駄と言う事でもない、炎症を少しだけ抑える事は出来る、そうして呼吸が落ち着き咳は、収まったがまたぶり返してもいけないと思ったのかトロアは、店の奥の家の方へ連れて行った。

「喘息っすか」

 戻って来るツィンブリアにそう問うとツィンブリアは小さく肩を竦めた。

「ルミちゃんがイトに向かってから発病したんだよね、ルミちゃんにはこの前、行った時に伝えては、あるけど、少しだけ後悔してたかな」

 そりゃそうだろ、自分が風と水とはいえ、炎症を抑える程度ならいくらでも面倒が見れるがこうも離れていたら何も出来ない。

「喘息の原因は、気温とか空気中のゴミなんかが原因で起きますよね?」

「そうね、車が走った時の粉塵と…煙草もね」

 いや、一客として喫煙可の場所で吸っている時ぐらいは、許してほしいものだ。

「元々、そこら辺が強くなかったのもあるんだろうけど環境が良くないのもデカいよね」

 ツィンブリアの言葉にスリングは自然とカフェの窓から街の様子を見た。
 多くの人に魔鉱石で動く車は、排気ガスがなくとも多くの車が行き交えば土埃が舞う、お世辞にもいい環境とは言えない。

「だからスリングに一つ、お願いがあるんだよね」

 ツィンブリアのその一言にスリングの背筋に悪寒が走るがそれを否定できる程に薄情でもない。

 ツィンブリアとの話を終えて、その後もチールの買い物に付き合わされホテルに帰る頃には、陽が傾いていた。
 そのまま夕飯と行く前にホテルのカフェで少し時間を潰したがカナイは、現れる事はなかった。
 薬の検査に手間取っている、そう考えたがそれにしても様子が変だ。
 しかし、今のスリングにはそれを調べてる余裕はなく、夕飯を済ませるとアルニアに向かった。
 商業区のメイン通りにある、キャバレーアルニア。
 歓楽街ではない、この街で1、2を争う、夜のお店だ。
 毎晩行われるショーと女性従業員による接待がメインとなる店だ。無論、歓楽街にも同じ様な店は沢山あるがこの店は、女性従業員の接待よりもショーに力を入れている幾分か健全な店だ。
 スリングは、店内に入ると名前を告げて席を取ろうとしたがそれよりも早くヒラスが席を取っていたらしく従業員に案内された。ワンホール吹き抜けの2階建て、その風景は何処かの大きな劇場の様で平日にも関わらず多くの客で賑わっていた。
 案内された席は、2階の舞台をど真ん中で見られるボックス席でスリングが到着する時には、1人の男と2人の女性従業員が座っていた。
 細身で短髪の男の顔には、眼帯が目印になっていた。
 黒革のジャケットにスーツパンツ、そこまで決めておきながら中には灰色のV字ネックのシャツというラフなのかそれともオシャレなのかわからない出で立ちで男は、スリングを見るなり立ち上がると両手を広げて仰々しく挨拶をしてきた。

「これは、これは英雄様、お久しぶりでございます」

「きも」

 スリングが簡潔に返すと眼帯の男は、豪快に笑いだした。

「相変わらず、辛辣だな、兄弟!それでこそお前だ」

「兄弟になった覚えもねぇよ、あくまで同期だろ」

「何言ってんだ、俺とお前そしてカナイと言えば悪辣三兄弟だろ」

「お前、カナイにそれ言ってみろ、同じ返しが待ってんぞ、ヒラス、いやゴーウス」

 そう言うと眼帯の男、ゴーウスは再び豪快に笑いながらスリングを隣に座らせた。
 ゴーウスが適当に飲み物を頼み、スリングが煙草を咥えると女性従業員が火をつけてくれた。
 こういうのに慣れないスリングはいつもの癖で自分で点けそうになったが慌ててそれを止めて火をつけて貰い燻らせる。

「相変わらず、こういう店には来ないのか?」

「来ねぇよ、お前はこの店のオーナーになって何年になる?」

「4年だ、お前がティク国と戦ってる最中にコイツが原因で軍を除隊、親父の家業を継いで6年かな」

「6年で今や首都で五本の指に入るマフィアのボスか、大出世だね」

 ヒラス、本名、ゴーウス・マシテアは、スリングとカナイと同時期に士官学校に入った同期だ。
 平民の出でありながら親のコネを使い同じ歳で士官学校に入学したがティク国との戦争より前にツィール国との国境戦で負傷し、除隊した。

「それであの店に手を出すなってわざわざ少将殿の伝言を言いに来たのか?」

「それもあるが…」

 スリングがそれから先の言葉を告げるとゴーウスの表情が困惑のものへと変わった。

「条件は?」

 スリングがハンドサインでそれを見せるとゴーウスは、眉間に皺を寄せた。

「それは、いくら何でもよぉ」

「先を見据えたら安いだろ?」

「向こうは飲むのか?」

「それは、師匠次第、俺はお前との交渉を頼まれただけだ」

「つまり、無しって事もありえる?」

「勿論、だが断れば別なところにいく」

 スリングの応えにゴーウスは、暫く黙ったまま舞台の方を睨み付けた。

「もしその話がまとまれば、それで来るんだな」

「そこは、保証してやる」

「なら、のった、裏切るなよ」

「そん時は、お前ごと潰してやるよ」

「それ俺のセリフじゃねぇか?」

 そう言われてもこっちには、あの師匠がいるのだ。首都で五本の指に入るマフィアとは言えども敵にしたら怖いのは、あのお方だ。
 スリングは、ゴーウスとの話し合いを済ませると従業員が席に少し足早の様子で現れるとゴーウスに耳打ちをした。
 その内容を聞いたゴーウスは、少しだけ目を丸くするとスリングに対してハンドサインを見せる。
 呼んだか?
 誰を、と思いながらスリングが首を横に振るとゴーウスは、従業員に対して呼ぶ様に合図した。
 スリングも最初はわからなかったがゴーウスがこの場に呼んで尚且つスリングに呼んだかと訊く人物が居るとしたら1人しか頭に過ぎらず、そしてそいつは、当たり前の様に現れた。

「よぉ兄弟!悪辣三兄弟ここに揃ったな!」

 ゴーウスがそう言いながら両手を広げて仰々しく挨拶するが当人は、それをフル無視して当たり前の様に席に座った。
 予想の斜め上を選びやがったコイツ。

「無視は、ねぇだろ、カナイ!」

「暑苦しいお前には、丁度いいだろ」

 カナイがそうケラケラ笑いながら応えるとゴーウスは、少し拗ねた表情をしながら座った。
 これが同期で付き合いがあるとかどうなのだろうかと一瞬考えてしまったが今さらそれを考えてもしょうがないので諦めた。

「随分時間かかったな」

 スリングがそう聞くとカナイは、片眉をあげた。

「今は、軍警総出で大変な事になってんだよ」

「は?」

 なんの事やらわからずに聞き返すとカナイの表情が一気に険しくなった。

「証拠のGTグール・タブレットが消えた」

「はぁ」

 思わず盛れた声にカナイは、呆れた様子で背もたれに体を預けた。

「向こうが何を考えているのかわからないけど、証拠品を全部持っていくなんて何考えているんだか」

「軍や法に任せる気がないんだろ、裁きを」

 スリングがそう答えると同意なのだろう、カナイも呆れた様な声を出しながら運ばれてきた酒を豪快に呑んだ。

「それで向こうは、この先どうすると思う?」

「運び屋を探しているだろうな、よくこの1ヶ月見つからないでいると思えるが」

「お前ら何の話してんだ?」

「「お前には、関係ない」」

 スリングとカナイが揃って言うがゴーウスは余計に食い下がってくる。結果的にスリングが折れて詳細は避けながらもエレンについて調べていると言うとゴーウスは何かに気づいたか目を細くしてスリングに近づいた。

「やっぱり、お前も関わってたんだなアレ」

「はぁ?なんで?」

「だって、あれ南西方面に向かう、郵便配送員が売人だぜ?南西の端って言ったらお前の駐屯するイトじゃねぇか」

 今コイツ、なんて言った?
 ゴーウスの一言に自然とスリングはその胸倉掴んでいた。

「どうして、お前がそれを知ってる?」

 突然のスリングの行動に背後で数名の手下が動く気配がするがゴーウスがそれを手で制止する。

「落ち着け、どうした?」

「いいから、教えろ、どうしてお前が売人の事を知ってる?」

「そりゃ、曲がりなりにもこの界隈のマフィアをやってんだ、そこら辺の情報は嫌でも耳に入るさ」

「それで、その売人は今どこだ!?」

 スリングがそう訊くとゴーウスは、バツの悪そうな表情を浮かべた。
 その表情だけで状況がやばい方向に向かっているのだけは、察する事が出来る。

「これは夕方の最新情報だが、どうやらゲイブの手下に追い回されているのを開店準備していた、他の店のヤツが見かけてる」

 夕方に開店準備となれば、その店は夜の店だ、そしてここら辺でその界隈と言えばここから目と鼻の先の裏路地の店だろうか、スリングは立ちがるとゴーウスが慌ててスリングの腕を掴み止めた。

「落ち着けって、今更行っても何もねぇよ、一応捕まったって情報もないからまだ大丈夫だろうよ?」


 ゴーウスの言う通りだ、しかし今のこのタイミングを逃すとは間が悪すぎる。
 スリングは、歯を食いしばると再び席に座った。

「いやぁ~まさかお前本当にユラシア・ゲイブを殺すとは、そこまで嫌いだったか?」

「んなわきゃねぇだろ、俺はなんの関与もしてねぇよ」

「なら、なんでここに来たんだよ? 」

 危うく、口を滑らしそうになったがゴーウスはスリングの過去も目の事も知らない。説明しようにもどう言うべきなのか迷った。

「いつもの勘だよ、覚えてんだろ、気持ち悪いぐらいにあたるコイツの勘」

 カナイがそっとフォローするとゴーウスは、納得した様に何度も頷いた。

「あぁ~化け物じみたあれかぁ~本当に相変わらず化け物じみてんなぁ~お前」

「うるせ、それでその郵便配送員は、どんなヤツだ?てか良く1ヶ月間もエレン・ゲイブから逃げてたな?」

「そりゃそうよ、なんせ元々は品行方正な配送員だったからな、だけどアイツのせいで人生が狂わされたと言っても過言じゃない 」

「どういう事だ?」

「アイツ、お前の駐屯地イトにいるゴルガン夫妻に娘の命を助けて貰ってたんだよ、薬でな、完治は出来ないけど薬がある無いは大きい、だが息子さんの件で、あの夫妻さ1ヶ月近く軍に拘留されてたんだよ」

 初耳の情報にスリングは、カナイに視線を向けるとカナイも初耳だったのか目を丸々と広げていた。

「その1ヶ月の間にその病状が急変して亡くなったんだ、まぁ薬があれば助かったわけでもないがあの親からしたらやりきれなかったんだろうよ、そしてその後あの夫妻はイトに向かった」

 その1ヶ月で何があったのか、そんなのは嫌でも想像は出来る。
 そうでなければ話の辻褄は合わない。

「だから、政治が絡むと碌な事にならねぇんだよ」

 スリングがそう言うとカナイも大きな溜息をつきながら首を横に振った。

「それにしてもお前もよくその情報を黙ってたな」

 カナイの問いにゴーウスは、肩を竦めた。

「当たり前だろ、誰がアンナ奴等にこんな情報を渡したいよ、金を積まれても俺はゴメンだね」

「それでも、マフィアとして向こうに貸しを作れただろ?」

「そんなもんは、いらんね、俺がマフィアをやってんのは、自由でいたいからだ、軍生活が嫌だったって事はねぇけど、上の考えは気に食わなかった。だから俺は俺の軍を作る事にした、ただそれだけだ」

 ゴーウスの一言にスリングもカナイも苦笑いを零してしまった。

「まぁお前らも軍やめたくなったらいつでもうちに来な、良い待遇で面倒見てやるからよ」

「「キモイから、お断り」」

 2人同時に断るとゴーウスは、額を叩きながら盛大に笑っていた。
 多分、こんな気質の2人だから同期の中でもコイツらとは、つるんで居られるとスリングは改めて実感する。
 1人は、諜報部になり、1人は、マフィアになっても今も付き合いが続けられるのは、こういう部分で似ていると素直に思えるからだろう。

「そういえば、あの夫妻といえば、息子の嫁さんになる筈だった、シランって歌手、あの子は本当に有望だね、惚れ惚れする!何時ぞやのアイレアを思い出すよ~」

「黙れ」

 まぁ付き合いが長い分、土足で踏み入れて欲しくないところまで入ってくるのは、玉に瑕だが。
 それから、ゴーウスとの会合を終えてホテルに戻ったのは、23時を回っていた。
 正直、落ち着いて寝る気には慣れなかったがそれでも無理矢理に目を閉じて仮眠を取った。
 半分意識が残りながらも脳は、ある程度休めたのかスッキリとしない朝を迎え、朝食の為に下のカフェに向かうとそこには、スーツケース片手にツィンブリアが優雅に紅茶を啜っていた。

「おはよう、昨日は眠れなかったみたいだね!」

「朝から何してんすか、師匠?」

「ん?明日から再びロングバケーションになったから、弟子の所にでも遊びに行こうかと思ってね」

「そうですか、だけど何故、スーツケース片手にこのホテルにいらっしゃるんでしょうか?」

「それは、勿論、準備は早いに越したことはないでしょ?だから今日から早めに準備して明日に備えようと思ってね、それでスリング、例の話はどうなった?」

「概ね、良い方向へ運んでおります」

 スリングは、そう言いながらツィンブリアの対面に座ると朝食を注文した。

「つかぬ事をお聞きしますが師匠」

「何?」

「明日から何処のお弟子さんに会いに行かれるんでしょうか?」

 スリングがそう聞くとツィンブリアは、ゆったりと笑みを浮かべた。

「南西の方にね、物件を見て回ろうかなって思ってるんだ」

「そうですか、南西の方で物件を…はっ物件!?」

「そう、いやこの歳になると別荘の一つも欲しくなるじゃん、だからそれをついでに見に行こうかと」

「ついでってなんのついでですか?」

「秘密」

 あぁもう、こうなるとこの人は止まらない、物凄い嫌な予感しかない。

「それよりもスリング、どうやらお客さんが来てる様だよ」

 ツィンブリアにそう促されて魔力感知を巡らせるとホテルの外からコチラへと向かってくる1つの集団をキャッチした。
 人数は5人、規則的で迷いのない足取り、ホテルのロビーまで来るとスリングはその姿を確認した。
 軍服を身にまとった5人組がフロントと何かを話していたが1人がスリングの姿を見つけるとこちらへと向かってきた。

「バインド少佐でありましょうか?」

 年は、スリングよりも年上だろうか、しかし胸に掲げられている印章が示す階級は大尉、スリングよりも下である。

「そうだが、そちらは?」

 それがわかるとスリングもそれなりの対応を取らねばならない。

「私は、軍警捜査第一室の第5係長トルドル・ハイス大尉であります、お話を聞きたいので軍警まで御足労お願い出来ますでしょうか?」

「軍警の捜査室係長が私になんの用で?」

 スリングが聞き返すとトルドルは、少しだけ周囲に視線を送ると会釈して失礼しますと言いながらスリングに顔を近づけてきた。

「昨晩、ブルーン・テレン中尉が遺体で発見されました、その件で2、3お尋ねしたい事があるのです」

 ブルーンが死んだ!?
 その言葉にスリングが驚くとトルドルは、顔を離して再度スリングに対して頭を下げた。

「お願いします」

 スリングは、それに頷き返すと一旦準備の為に部屋に戻ってから軍警へと向かった。


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