上 下
25 / 37
第2章

王道「魔王と互角の力を持つ俺を倒すとは…。しかし道のりは長いぞ勇者よ。多分次に戦うであろう男は魔王を凌ぐ強さだ。絶望の前にひれ伏すがいい」

しおりを挟む
——村を後にした2人は真っ直ぐに王都へと向かった。
一香はナナに村を出発する際、
可能な範囲で聞こえた物音を伝えてほしいと伝えた。
何やら幻術は規模が大きくなるほど耳鳴りがひどくなるという話をリズから聞いた。
多分これで遭遇せずに行ける……はず。
「そういえばナナちゃんは獣人族なんだっけか?」
「……そうよ」
「あれ?なんか落ち込んでるように見えるけど。勘違いするなよ?獣人族ってのは誇りなんだ」
「誇り……」
「その通り。いいか?猫耳と人類の宝!!され以前にユウナは俺の宝だ。自分の長所で落ち込まれていては困る」
「……気持ち悪い」
「思いの外、ストレートで……。いやね、外角低めはくると思ってたんだよね」
「意味分からないし。気持ち悪いし」
「……何か怒ってらっしゃる?」
「別に怒ってないっての。気持ち悪っ」
——完全に怒ってるよなぁ。これ。
「…縁あなたと話してると調子が狂う。……だから言葉を発さないで。」
「こんな可愛い子と話すチャンスなのに話せないなんて地獄だよ。まぁ地獄なら壊すけど」
「……つまりは喋るってことね」
「おうよ。それで、耳鳴りの方は大丈夫か?」
「……ええ、特に何もないけど」
「ではでは。ナナお嬢様。こちらにお乗りください」と一香はユウナの目の前でしゃがんで言った。
「……分かった。でも変なことしたら首を食いちぎるからね」
「それはそれでいいかもだが……。チキンな俺にそんな度胸はないよ。安心してくれ」

——変なことをするな。とか偉そうに言っておきながら当の本人は完全にもたれかかる状態で寝てしまっている。
まれに「むにゃ」と言う声が耳元で聞こえるのが個人的に満点だ。
「……さて。ナナに変えたとはいえ近づくのは危険だよな」
一香は遠くに見える木の門を見てそう呟く。
「だが勝手に動かれると対処がないし……どうしたもんかね」
とか言いつつも一香は近くの木の根元にユウナを降ろした。
「よし、とりあえず

——幻術の町はいつでも同じことが起きる。
考え方によっては平和で。
とても退屈な場所だ。
幻術の町はある日を境に変わった。
幻術の町の正午、
上空から1人の青年が降ってきた。
その青年は空中で何回転もして踵を地面に叩きつけた。
その超巨大な衝撃によって幻術が消えかかった。
「覇王の加護。最強シリーズ第1巻、『幻術破壊ビジョンブレイク~』」
一香はもう一度跳躍してさっきよりも速く強く重い一撃を地面に加える。
地面にかなりの亀裂ができるとその少し上に設置されていたであろう幻術は霧のように消えていった。
当然、周りにいる人も骨になり崩れてゆく。
しかしその中に1人だけ立っている骨がある。
「……Rってのはお前か」
「あぁ…?なるほど、そうだな。アァ!!
そうだとも俺がまさしくRだ!!」
Rは地面から生えてくるように現れた骨の杖をとり、
それを一香に向ける。
「1つ訂正しておくが……の力は幻術ではない!!」
「俺の力は夢だ!!俺は幸せな夢だ!!」
しおりを挟む

処理中です...