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第2章

タイトル「……無念。」

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「夢?」
「そうさぁ!!俺はみんなの幸せな夢なのさ!!死んでもなお、幸せに生き——」
骨の杖を持っていた方の手が肩から消し飛ぶ。
「勘弁してくれよ。俺の連れがお前の宿に泊まっただけで死んじまったんだ。何が幸せだ?」
「ッ!!……お前は一体!!」
「もうお前が憎くて憎くて仕方ねぇんだよ。どうやって俺を殺したか知りたかったが変更だ」
近くに落ちていた大きな角材をまっすぐ振り下ろす。
「精々、作物の肥料にでもなるんだな」

——目が覚めるともう月が出ている。
自分にかけられている毛布をどけて辺りを見渡す。
少し離れた所に一香の姿があった。
「お、今起きたか」
「……骨と……土の匂い?」

「……すごい鼻がいいんだな」と一香は何か作りながら言う。
「……何を作ってるの?」
「ん?弓ってやつだよ」
一香は村で調達していた紐と木を使い弓を作っていた。
「…あなたほど強ければ弓はいらないじゃない」

「………うん。まぁそうなんだけど、むしろ強いから必要。っていうか」
一香は完成した弓を月明かりで照らす。
「うん、最初にしては中々の出来だな」
「……矢はどうするの?」
「あ~……考えてなかったなぁ。まぁどこかで買えばいいよ」
「……そういえばお金はどれくらい持ってるの?」
「600マニだよ。パン200個分ってとこだな」
「どこからそんな大金が」
「アルたんから貰ったんだよ。」
「…アルたん?」
「あ、言ってなかったか。アルたんは俺の主人さまだよ」
「……へぇ。そう。ご令嬢とあなたが。へぇ~」
「なんか怒って——」
「怒ってないし」

——翌日。
途中で出会った馬車に乗らさせてもらった。
「いや~ありがとうございます。」と一香は馬車を運転中の白髪の老人にお礼を告げる。
「いえいえ、『旅は道連れ世は情け』ですから」
「…縁え?」
「あ、そうでしょうな。ここの世界の方はご存知ないらしいので」
「……まさか。あんた異世界転生してきたのか?」
「いえ、私は異世界転生とやらをしたわけではありませぬ。私の使える主人がそういった境遇でして。よくお話をき——」
「その人に会わせください!!」
「……なるほど。確か主人も他の転生者と会いたいと言っていましたね。ええ、構いません」
馬車が王都に着くとそのまま中央街を抜け
城をぐるっと回り大きな屋敷の前についた。
「ここがシュタイン様のお屋敷にございます。」と白髪の老人は重々しく言った。
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