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11.冒険者ギルドでのテンプレ!

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「コケーッ、コケーッ、コケ―ーーッ!」

 怒り心頭の大ニワトリは、突進を繰り返しながら鋭いくちばしの突きを何度も放ってくる。その怒涛の攻撃を、私は神速のスキルを使用し、右に左に華麗に回避していく。

「ふっ、当たらなければどうということはない!」

 ピロテース様へのお触り目的で習得したスキルであったが、かなり有望のようだ。何度も攻撃を躱され、苛立った大ニワトリの攻撃は徐々に大振りで乱雑になっていく。チャンス到来とばかりに、私はピロテース様の動きさえ封じたあのスキルを使用するのであった。

「秘技、影縫い!!!」

 その辺に落ちていた棒を拾うと、大ニワトリの影が映る地面に深々と突き刺す。途端に大ニワトリの動きはピタリと止まるのであった。

「えーーっ、おにいさん――何でコケッコーが動かなくなったの? これもおにいさんのスキルか魔法なの?」
「アハハ! 詳しい事は教えられないけど、そんな所かな。さて、卵もあるし――親子丼がいいかな。いや、ジューシーなフライドチキンも捨てがたいな」
「ねーねー、おにいさん――それって料理の名前なの? 何だか、美味しそうな名前だね。……ジュルリ」
「コケーーーーーーッ!!!」 

 剣呑な雰囲気を察知してか、大ニワトリは大慌てで逃げ出そうとしている。しかし体は動かず悲痛な声を上げるのが関の山であった。

「それじゃあ、早速風魔法で首チョンパ(死語)して血抜きして……えっ?!」 

 私が風魔法を放とうとすると、ピヨピヨと鳴きながら三羽のヒヨコが大ニワトリに駆け寄る。そして大ニワトリを庇うように私の前に立ちはだかるのであった。

「おにいさん――何だか可哀そうだよ。見逃してあげようよ」
「うっ、そうだね……」

 弱肉強食が世の常とはいえ――巣を壊して卵を奪った上に、健気なヒヨコの前で母鳥を狩るのは気が引けたのだ。それに壊した巣の下にあった革袋の中にはそれなりのコインがあり、かなりの収入になったのだ。ヒシヒシと罪悪感を感じた私は、異世界ネット通販(Lv1)のスキルを発動させるのであった。

「ママゾンの通販サイトにそっくりだな」

 スキルを発動させると手元に画面が表示されたが、大手通販サイトのママゾンと瓜二つであった。そしてピロテース様の心遣いだろうか、既に3万円分のチャージがされていた。私はお詫びの意を込めて鶏用の餌を購入した。自然素材のトウモロコシや魚粉が配合された――1キロ980円の品である。

「ごめんね、コケッコーちゃん――卵、返すね」

 袋を破って大ニワトリたちの前に置くと、セシルちゃんも大きな卵をそっと地面に置いた。私は影縫いのスキルを解くと、セシルちゃんと共に街に向かうのであった。


 腕を絡めてくるセシルちゃんと歩き続け、漸く街に辿り着いた。辺境の街であるアケルナルは高い石壁に囲まれ、門の脇には2基の高い門塔がそびえていた。門塔には石を落としたり矢を射る狭間があり、それなりの数の城兵が配置されていた。しかし街に入る時の手続きは簡易で、よそ者の私も銀貨3枚の入街税を払うだけであった。そして門番とセシルちゃんは、ニコニコしながら話に花を咲かせていた。

「やあ、セシルちゃん――山菜は採れたのかい? うん? 一緒にいる男の子は彼氏かな? セシルちゃんも隅に置けないね」
「や、やだー、そんなんじゃ無いですよ。アスカさんとは只の知り合いで……えへへへ」

 可愛らしいセシルちゃんは人気者のようだ。年配の門番から孫のように可愛がられていた。

「えへへ、私とおにいさん付き合ってるの? とか言われちゃった♪ やっぱり他の人から見てもお似合いなんだね」

 話が終わったセシルちゃんは、当然の如く抱きつくように腕を絡めてくる。可愛い娘に好意を持たれるのは嬉しいのだが、彼女の積極的なアピールには一抹の不安を感じるのであった。

「あのねセシルちゃん――知り合ったばかりの男を簡単に信じたらダメだよ。所詮、男なんて下心満載の狼なんだよ。セシルちゃんみたいな可愛い娘は、美味しく食べられちゃうよ」
「ふふっ、本当に下心のある人はそんな事を言わないよ。私も宿屋で色んなお客さんの相手をしたから、それなりに人を見る目はあるんだよ。確かにおにいさんは女好きでエッチっぽいけど、コケッコーを見逃す優しさもあるんだから、女の人に酷い事をしたりしないよね」
「いやいや、だからと言って人を簡単に信じるのは……」
「私からしたら、おにいさんの方が心配だよ……さっきコケッコーに餌をあげた時、何にも無い所から餌が出て来たよね。あれってアイテムボックスのスキルだよね」
「えっ? ひょっとしてアイテムボックスのスキルって珍しいの?」
「はあ~、いくら他の国から来たといっても、おにいさんは常識が無さすぎだよ。アイテムボックスのスキルがあれば、冒険者でも商人でも引く手あまたのレアスキルだよ。それを人前で簡単に見せたりしちゃって……あれは貴族や盗賊にとっても何としても欲しいスキルだよ。下手すれば誘拐されて奴隷にされちゃうよ」
「うぐっ!」
「ふふっ、そういう事で、世間知らずのおにいさんの面倒は、しっかり者のセシルちゃんが見てあげます♪」

 嬉しそうにセシルちゃんが微笑む。本当はアイテムボックスではなく異世界ネット通販であるが、アイテムボックスのスキルを持っているのも事実である。迂闊な私は、出会って数時間の少女の尻に敷かれてしまうのであった。

「さあさあ、おにいさん――早速、冒険者ギルドか商業ギルドに行って登録しようよ。そうすれば、身分証明書も発行されて入街税も只になってお得だよ♪」
「それじゃあ、冒険者ギルドへ……ちょっと待ってよセシルちゃん――そんなに急がなくても……」
「えへへ、日が暮れると冒険者ギルドは人で一杯になっちゃうよ。だから急ぐんだよ」

 セシルちゃんに手を引かれたまま街の中を移動して行く。街の中は石畳の通路が敷かれており、レンガや石造りの建物が立ち並んでいた。そして市場とおぼしき場所には屋台がぎっしりとひしめき合い、食料品や雑貨が所狭しと陳列されていた。品物や値段について興味があったのだが、そんな意思は無視されて――私はセシルちゃんに連行されるように冒険者ギルドに辿り着くのであった。

 私とセシルちゃんが冒険者ギルドに入ると、ガラの悪い冒険者たちの視線が一斉にこちらを向く。筋肉質のハゲやガチムチのオッサンが多く、ギルドの中は汗臭く非常に暑苦しかった。酔っぱらって出来上がっている冒険者も多く、美少女を連れている私は、お約束通りに絡まれるのであった。

「おいっ、そこのガキ! まさか――冒険者になりたい、とか言うんじゃねえだろうな? お前みたいなクソガキが、冒険者になるなんて10年はえーんだよ!」
「ゲヘへ、兄貴の言う通りでやんす。ガキはとっとと帰って、ママのおっぱいでも飲んでるでやんす」
「おっと、ちょと待ちなクソガキ――そっちの嬢ちゃんは置いていけよ。ちょっと子供っぽいけど、中々いい身体してるじゃねーか。男らしい俺様が、タップリと可愛がってやるぜ」

 ガラの悪い大男と狡猾そうな小男は、イヤらしい視線でセシルちゃんを舐めるように見つめている。セシルちゃんは恐怖と嫌悪感から、私の後ろに身を隠してしまった。

「此処のギルドは、オークとゴブリンを放し飼いにしているのか? 随分と珍しいギルドだな!」
「げっ、あの若造――Cランク冒険者のジャイアントとスネーオ相手に喧嘩を買ったぞ! 何て命知らずなんだ!」

 私の言葉で一気に場が凍り付く。巻き添えを避けるように他の冒険者やギルドの職員は距離を取り始めた。そして大男と小男の凸凹コンビは怒りで顔を真っ赤に染め上げていく。

「死ねや、このクソガキ!」

 ジャイアントは大剣を真っ向から振り落とし、スネーオは複数の短刀を放ってくる。私は神速のスキルで素早く回避すると、大剣は木の床を打ち壊し、私がいた場所には複数の短剣が突き刺さっていた。刹那、私はスキルを発動した。

「秘技、装備品強奪!!!」

 白光が放たれ、一陣の風が凸凹コンビの傍らを通過していく。やがて白んでいた視界が徐々に開けていくと、どよめきの声や女性の甲高い悲鳴が立ち上がる。そこには素っ裸になって、見苦しい物をブラブラさせている凸凹コンビの醜態が晒されていた。 

  
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