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序章

プロローグ

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昔々、ある国の王に仕える大貴族の一つが子供を授かりました。
夫婦は男の子が欲しいと神に祈るも産まれたのは残念な事に、女の子でした。
家の名を継げない女の子は産まれて直ぐに乳母へ預けられ、数ヶ月に1度の顔合わせ以外家から一歩も出させてもらえませんでした。
朝から晩まで令嬢教育を課せられていたのです。
人の目を気にした両親は一応この家に産まれたからには淑女の教育を徹底的に叩き込み、万が一招待されてもいいようにと…。
彼女自身は両親に誉めてもらいたくてそれはそれは一生懸命頑張りました。
例え無視されようが罵声を浴びようとも泣く事も文句さえ言いませんでした。


そして彼女が10歳になった頃、弟が産まれました。
念願だった男の子に両親はとても可愛がり自らの手でいとおしそうに育てておりました。遠く離れた場所で彼女はその光景をただ見つめるばかり。
そして彼女は思うのでした。
(何で私は女に産まれてしまったの?)
(何であの子ばかりにかまうの?)
(何で私じゃないの?)
(私がこんなに頑張っていても何一つ言ってくれないのに、何も出来ないあの子がどうしてあんなに褒められるの?)
次々と浮かぶ黒い感情に女の子は困惑してしまいます。
女の子は産まれて初めて感じたこの感情を心の奥深くにしまいこみました。


それから7年の歳月が流れたある日、彼女に転機が訪れました。
両親が珍しく笑顔で彼女を褒めたのです。
初めて自分を褒めてくれた両親に彼女は感激のあまり涙を流してしまいました。
己が愛されていたこと、この身を案じていてくれていたことに希望を捨てなくて良かったと思ったからです。
両親は準備が出来次第迎えをよこすと部屋から出ていきました。
彼女は急ぎ仕度を済ませ、その時を待っていると――。

突然、背後から襲われたのです。
彼女は一瞬の出来事に抵抗する術もなく気を失ってしまいました。
それからしばらくして目を覚ますと先程までいた部屋ではなく、薄暗い部屋…それしか分からない所にいました。
朦朧とした頭でも逃げなければと思い、起き上がろうすれば四肢が鎖に巻かれていて身動きが出来ません。
彼女は混乱のあまり泣いてしまいました。
すると、次々と蝋燭に火が灯り始めます。
まるでこの時を待っていたかの様なタイミングの良さでした。
最後の蝋燭に火が灯った時、黒いローブを纏った人達が彼女の周りを囲みます。
最初に入ってきた人が呪文のような言葉を口にし言い終えると、一斉に同じ言葉を言い出したのです。
それを何度も繰り返しながら最初の人が彼女の真横に立ち、彼女の心臓にめがけて剣を――。

死ぬ間際、彼女は思うのです。
何がいけなかったの?
私は神にさえ見捨てられたの?ーと。


そして後悔と絶望の中彼女は死んでしまいました。
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