蜘蛛の女王―アラクネ―

前世が蛍の人

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第1章

1.

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「――こうして終わりを告げましたとさ。
おしまい…。」
女性が本を閉じ、辺りを静かに見渡す。
火を灯した蝋燭を中心に暗闇が安らぎを与えてくれる。
子供達の寝息を聞くと女性は静かに立ち上がり、蝋燭を持って部屋を出る。

「あなたたちにひとときの良い夢を…。」
ドアを閉める間際にそっと呟く。
私の名はレイティア・フィ・ザイシェル。
つい先程まで目をキラキラと輝かして本を読んでほしいとねだられ、孤児院の子供達全員に遅くまで本を読んであげていたのだった。
誰もいない廊下に私の足音が響き、心地よい空間に包まれていた。
応接間に着くと私に気づいたのか、
年配の女性が慌てて立ち上がり会釈する。

「このような格好で貴女様にお会いすることを御許し下さいっ。
この度はあの子達の面倒を快く引き受けて下さり誠にありがとうございます!!
本当に、本当にありがとうございます!!」

「いえ、お役に立てたなら光栄ですわ。
お加減はもう宜しくて?」

「はい、もうすっかり!
私のような下町の者にまで親切にして下さるなんて…嬉しくてっ、ありがとうございました。」

涙を流しながら何度もお礼を言う女性に
レイティアは話す。
「貴女がいなくなればあの子達をどうやって守るというの?
私が出来る事とは僅かでしかないのよ。
それに、貴女の日頃の行いがいいから神が導いて下さったのではないかしら?」

「貴女様が慕う神でございましょうか…この私に出会う機会を与えて下さったご恩、一生忘れませんっ。」

フフフッ…と笑い時計を見る。
「あら、もう日付が変わる頃になってしまうわ。
折角ですし今日はここでお泊まりさせて頂くわね。」

「ぁあ!何と言う幸運何でしょう…!
でしたらっ、奥の部屋をお使いくださいませ。
私は子供達が寝ている部屋へ行きます。」

「そう、でも見守りは護衛に任せるから貴女は安心してゆっくり眠りなさい。

―ゼーラ、シェソ。
私の部屋と彼女達の寝室を護りなさい。」
後ろで控えていた護衛二人は私の呼び声にサッと前に出て跪いた。

「「仰せのままに。」」

ゼーラは女性の後ろに着いていき扉を閉めた。
私も立ち上がり寝室へ向かう。
私は部屋に入り、ホッと息をついた。
(ちょっと頑張り過ぎたのかな…。)

「シェソ。」

「失礼します。」
入り口に控えていたシェソはレイティアに近づき背中のホックを下ろすと慣れた手つきでドレスを脱がし、シルクの生地でできた寝巻きを差し出す。

「こちらをお持ちしましたが、宜しかったでしょうか。」

「そうね、それを頂戴。
脱いだドレスはもう着ないから新しい物を用意しておいて。」

「はっ、既に何着かご用意しております。
こちらのドレスはお預かりしますが、明日着用されるドレスをクローゼットにしまっても宜しいでしょうか。」

「貴方に任せるわ。
時間になったら起こしに来るように。」

「仰せのままに。」
シェソは素早くドレスを片付けると一礼し
部屋を出る。
その姿を見送り、私は部屋に誰もいないことを注意深く確認する。

そして。
「No.6のキー
手を広げ呟くと何も持っていなかったはずの手には銀色の鍵があった。
鍵をドレスがしまってあるクローゼットの扉に差し込む。
差し込んだ鍵は吸い込まれていき、扉を開ける。
(鍵は持ち歩かなくても呼び出せば何時でもゲートをくぐれるなんて…、流石ネルファの能力。)
ネルファに感謝しつつ中に入った。

私、レイティアは候爵令嬢という顔と別にもう一つの顔が存在する。
偉大なる神、邪黒神―ダイダラ神に仕える組織のNo.6の顔<アラクネ>として活動していた。
ゲートをくぐると黒塗りの落ち着いたホールが私を迎えてくれる。
そこへ黒のスーツを優雅に着こなす半仮面の男、ネルファが爽やかな笑顔で姿を現した。
一礼し彼女の手の甲に口付けを落とす。

「―アラクネ様、お待ちしておりました。
今日もお美しいそのお姿を拝見出来きこと、光栄の極みにございます…。
して……、伝言を預かりましたのでお知らせを…。
No.2とNo.4が貴女に紹介したい者がいるという事でNo.2の自室にお二人共待機しております…。」

「お出迎えと伝言ご苦労様、ネルファ。
邪黒神様にお願いしていた補佐役がこちらに来たのね?でも、どんな人か気になるわ…。」
クフフフッ…と静かに笑うネルファは悩む私に近づきそっと…。
「ヒントですよ?」と耳元で囁く。

「念願だったメンバー入りがようやく叶ったそうですよ?…。
後はお会いしてからのお楽しみとしてとっておいて下さいませ。

―おや…もうこんな時間になってしまいましたね、私ばかりが貴女を独り占めしているとNo持ちが総出で文句を言いに来るでしょうね…?
(貴女は誰をも虜にする…。
皆が貴女を求めて止まない甘く美しき毒、アラクネ様…?)」

「殴り込みに来たら私が回収に向かうわ…毎度のことながら迷惑をかけてごめんなさい。」
するとネルファは口元を三日月のように弧を描かせて笑う。

「いえいえ!貴女に会う口実が一つでも増えるのであればこれも幸運のうちですよ、
クフフフ…では、行ってらっしゃいませ。」
ネルファはうやうやしく一礼すると姿を消した。
鍵を使うとこうやって出迎えてくれる彼のこういう気遣いが嬉しい。
私はネルファの言付け通り、No.2の部屋に向かった。

★★★

ガチャ――…
「ティント、シープ。
お待たせしてごめんなさい。」
No.2―ティントの部屋に入るとテーブルに赤ワインが何本も置いてあった。
「やっと来たか、待ってたぜ!
ま、遅いから先飲んでるけどな、アハハハハッ。」

「全くよ、アーネちゃんが来てくれるのを首を長くして待ってたのよ?
ほらほら早く座ったら??」

ニヤニヤ私を見て手招きしている。
…結構酔ってそうだからちょっと面倒くさいことになるかもね。
アラクネはNo.4―シープの隣に座る。
ティントの隣に座ると絡まれるのが見えているからさりげなく回避。

「よし、じゃサクッと紹介してアラクネに引き継ぐぜ。
ビクスこっち来い、挨拶しろ。

今日からこの組織にメンバー入りした、ビクスだ。待ってる間に説明は済ませたやったからあんまし聞くことねーかもな。」
ニカッと笑ってビクスを招く。
奥の部屋に待機させていたのか間も開けずに扉が開かれた。
出てきたのは小柄な女の子。

「は…初めまして、僕はビクスです。
今日から偉大なる神、邪黒神様に仕える一員として精一杯頑張りますのでよりょ…宜しくお願いします。」
ビクビク震えながら挨拶を済ませたビクスはチラッとアラクネを見る。

「初めまして、ビクス。
大体の内容を聞いているかと思うけど分からない事があったら私に聞いて。」

「は、はい!」
背筋を伸ばして返事をするビクスに微笑む。

「ティント、シープありがとう。
二人はこの後どうするの?」
私の問いかけに我先にとティントが、
「おいおい、遅刻したお詫びとお礼がなくちゃ…なぁ?」

「そうねぇ~、アーネちゃんになにしてもらおっかなー♪」
さっきのニヤニヤはこういう意味だったのね…と気づくのが遅れた事に後悔した。

「あっじゃあさ、俺にワイン注ぎながら労いの言葉と頬にキスしてくれよ。」

「私はアーネちゃんに似合いそうな洋服が色々あるから覚悟してね♪」

「……ハァ。分かったから、二人共顔が近い近い。」
空になったグラスに赤ワインを注ぎ、ティントの頬に軽くキスをする。
「いつも遅くまでお疲れさま、ティント。」

「アハっ、こういうのも良いな。」

「アーネちゃんが時間指定してくれれば何時でも自室で待っているわ!」

「都合がついたらね、シープの部屋に直接向かうから。」

「約束だからねっ!」と手をブンブン振って部屋を出ていった。 
シーラを見送り、私は席を立つ。
「ビクス、行くわよ。」

「わかりました。」
仕事を終えたティントの部屋に何時までも居ては迷惑だろうと思い、「お休み。」と
一言告げて部屋を出た。
ティントも「おうっお疲れ!」とこっちを見ずに手を降っていた。
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