異世界に転生しても彼らはブレない

前世が蛍の人

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序章

叶うならもう一度だけ会わせて

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雪那はそっと涙を流して歌った。
初めて皆と一緒に作った歌が静かに響く。途中から声がふるえて上手く歌えない。それでも雪那は最後まで歌い続けた。
歌が終わって辺りは静寂せいじゃくに包まれる。
しばらくして、彼女は崩れるようにその場で膝をついて大声で泣いた。

「こんな形で…お別れなんてそんなのっ…。
嫌だよッ!!!なんで私たちは死ななきゃいけなかったの?まだ皆と歌を作って演奏して共感して、ばか騒ぎして思い出…いっぱい作って、まだこれからだったのに!皆と一緒にいたかったのに!まだやりたい事たくさんたくさんあったのにッッ、
どうして…、一人は嫌……だ…よ。」
声が枯れるまで泣いて叫び続けた。

――――――――――――――――――――――――

―泣き疲れていつの間にか自分は眠ってしまったらしい。
まだ気持ちの整理がついていない。
いつまでも泣いていては何も変わらない、前に進まなければいけない。
でも…今は何もしたくない、考えたくない。
そんな風にぼーっと思いふけっていたとき、今まで電源が入ってなかった小さなモニターが次々と何かを映し出した。

「目を閉じ…両手を広げ、意識を心臓に集中させて、目を開けて?
何、これ??」
意味が分からないまま雪那はとりあえず書かれた内容通りにやってみる。
…何も起こらない。
もう一度やってみる。すると今度は温かいものが身体中を巡るような感覚がわかった。
死んでいるはずなのに身体に感覚が残っていることに驚く雪那。
すると、近くで鈴のが聞こえた。

目を開けて息を飲んだ。
二人、妖精らしき姿の女性と男性が雪那の前に立っていた。

綺麗きれい…」
思わずそうつぶやいていた。

『ありがとう。小さなおじょうさん』

(えっ、話しかけてきた………どうしよう。何か話さないとっっ)

『ふふっ…彼女が困っているわ、ロイ』

『すまない、いきなりだったね。
でも、久しぶりのお客さんなんだ、つい、ね。』

「あ…えっと、こ、こんにちは。」

『いきなり驚かせてごめんなさい、本当はもっと早くから貴女あなたの側にいたの。』

(私の側に?もしかして最初から最後まで見られていたってこと?ということは…)

『ごめんなさい、貴女があのモニターの前に来てからずっと見守っていたの。』

「い、いえ…その、お見苦しいところを見せてごめんなさい。
私、ずっと一人だと思っていたので。」

『君が落ち着くまで待つつもりだったんだ、謝ることはない。ああ、目が赤くれてしまって可哀想に…。
今、治してあげよう。』

男性がそう言うと、彼女の目に手をかざし呟く。するとあわい光りが彼女の目を包み込むよう広がりあっという間に赤みがひいた。
「わぁ…すごい。」

『うん、腫れはひいた。』

『そうだ、まず自己紹介しないとね、私はユナ・ベラールよ。ユナと呼んでほしいわ。』

『僕はロイ・ベラール。ロイと呼んでくれ、
君の名前は如月 雪那さんと呼んでいいかな?』

「はい、宜しくお願いします。ユナさん、ロイさん」

『ええ、宜しくね。…今更こんな事、言いにくいけれど雪那ちゃん、貴女の人生をまもれなくてごめんなさい。』

「…どうしてユナさんが謝るんですか?」

『私たちは二人で世界の秩序ちつじょと繁栄、破壊、再生をつかさどっているの。雪那ちゃんの住んでいた地球も私たちの管轄かんかつにおさまっていて、余程のことがない限り上手く循環して現状維持を保っていたの。
けれども今回のような悲劇をもたらしてしまった。
原因は、一ヶ所に集中して集まった感情のエネルギーが許容範囲を超え、空間をも巻き込んで爆発し破壊してしまった。雪那ちゃんはこれに巻き込まれてここにちてきたの。』

「感情のエネルギー?爆発??」

『あっ、そうね。分からなくて当然よ、普通は感情を視ることなんて出来ないもの。
私たちがそれをあやつって調整するのに必要だから視えるようにしただけ。
あの大規模な火災はこの爆発も関係しているの。
こちらに堕ちてきた雪那ちゃんは急遽きゅうきょ、肉体と魂を分断してこの空間にとどまらせた…
つまり、今の雪那ちゃんは魂が具現化ぐげんかした姿なの。』

「…皆は、あの火災に巻き込まれた仲間は今、どうなっているの?どこにいるの?」

『彼らは一足先に輪廻転生りんねてんせいをしている。
僕たちは肉体が消滅した直後、新たな肉体に魂を宿らせる義務があって彼らを先に輪廻転生させたんだ。
―本当なら君と一緒に輪廻転生するつもりだったが君の魂は損傷が激しく、魂そのものが消えそうになっていた。
魂を救えるのは己の力だけだ、私たちは介入すら出来ない。
だから…君を見守っていた。』

(見守っていたってそういうことだったんだ…)

「大事な事を包み隠さず話してくれてありがとうございます。
もう…沢山泣きました。苦しみました。
でも、ユナさんとロイさんが私や彼らを救ってくれて、しかも私を見守ってくれていた。

私は一人じゃなかった。」

『『雪那ちゃん(さん)…』』

「今、彼らのいる場所まで輪廻転生が出来ますか?」
雪那の目には涙のかわりに強い意志が宿っていた。
二人は彼女を見て、ここに来る前のボロボロな魂とは思えない程の強さに目を見張った。


『転生は出来る。ならね。』

『先に彼らは輪廻転生し、新しい人生を歩み始めてしまった。もしかしたら君の事を忘れてしまっているからも知れない。
それでも会いに行くかい?』

「彼らに会えるなら、たとえ別人になっていてもかまわない。だって魂は変わらないんでしょう?」

『君ならそう言うと思った。今、僕たちが使える最大の力を使って雪那さんの手助けをさせてほしい。』

『頑張ったご褒美がないとね!』

「ユナさん…、ロイさん……っ。」

泣かないって決意したのに嬉しくて涙が出そうになりうつむいた。
雪那は二人に導かれ、モニターの前に移動する。
『あの小さなモニター見てをごらん。それぞれのモニターに輪廻転生した彼らが映されている。』 

(あれが転生した皆の姿…。)

『今の君なら彼らを一つの場所に集める事が出来る。勿論もちろん僕たちの力も合わせてね。
ただし、先程も言ったけど君の事を忘れてしまっている。それだけは覚悟しておいてね。』

「はい!」

『いい返事だわ。よし、これを持っていて。私たちは貴女を間にして手をつなぐから、雪那ちゃんは必死にお願いしてね。彼らを一ヶ所に集めるのにイメージが超必須ひっすよ。
こう、何かで彼らを導くような感じよ。』
雪那は両手におさまるくらいの水晶を渡され二人の間に立ち、願いを込めた。

(お願い……、皆ここに集まって。
私を忘れてしまってもいい、また思い出を作り直せばいいんだから。
ここに来て。)
必死にお願いする。


突然、まぶしい光りが空間を支配したと同時に身体の感覚がなくなる。

『どうやら上手くいったみたいだよ、やはり君の魂の強さが彼らを引き寄せた。おめでとう。』

『雪那ちゃん、さびしいけどここでお別れだね。向こうに行っても私たちを忘れないで…。
いつだって貴女の味方よ、どんな試練が待ち受けていても貴女なら越えられる。』

『『雪那ちゃん(さん)に会え―…良かった。
私(僕)たち…貴女以上に救われ……―んだよ…。』』

薄れる意識のなか二人の声が聞こえた。


              『『ありがとう』』


――そして雪那は深い眠りについた。
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