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第1章

目覚める

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ビアンカと2人が王宮へ向かっている頃、
アジトでは大変な騒ぎになっていた。
チャシャとクレイ・ラシュが前衛に立って、湧いてくるに出てくる敵をドシドシ倒していく。

「ちっ、らちがあかない。お前の隷属獣をここに呼べないのか?」

「あ。その手があったわ…、すっかり忘れてたぜ。
よし!今から喚ぶぜっ。<隷属獣召喚>オレの魂に応えてくれよ、タマ、チャチャ、マル!!!」
チャシャが唱え魔力を送ると、紫色の魔法陣が浮かび上がり中から飛び出してきた。

「「「若様の御呼びに我ら、ただいま参上!!」」」
左から白黒の猫、真ん中は茶色の猫、そして右は白黒茶の猫がポーズを決めてそこにいた。

「おいっ、全部猫なのか!?どこまで猫に徹底してるんだお前はっ!!」

「へぇ~、可愛いね。僕はラシュだよ、よろしくね。」

「「「ヨロシクだニャンッ!」」」
クレイはチャシャの猫好きに呆れ、ラシュは挨拶を交わす。

「クレイは器がちっせーヤツだな、オマエらっ!敵を多く倒したヤツにはご褒美が待ってる、さぁ!やっちまえっ。」
チャシャのかけ声に3匹は目を輝かせながら獲物の取り合いに走っていった。
3匹を追うようにまた奥へ奥へと進む。走りながらハルとアキが、

「「あの猫たちって本当に猫?」」
と聞く。ラシュも気になったようで、顔を向けて待っている。

「詳しい事は後でだな…ほら、前向け前っ、危ねぇーぞ。」

「そう言われるとすごく気になるけれど、後で教えてくれよ?」
ラシュは諦めて前に集中する。
3匹が取りこぼした奴らを順に殺していく。

やがて、行き止まりとなって彼らと3匹は立ち止まる。

「これ以上先には進めないね。…ん?天井に張り巡らせてある、あれは一体何だろう?」
ラシュの指差す方向に目を向けると、そこには巨大な氷の塊が天井を多い尽くす勢いで成長していた。

「もしかして、あの泉の先が氷で覆いつくされいたのって…」
 
「アキの思っている通りだと思うぜ、最下層までかなり距離があるってのにすげーな。」
ウンウンっと、チャシャが感心している。

「確かに凄いけど、どうすっ―!
チャシャっ危ない!!!!」

「え?うおっっ。」
ラシュがとっさにチャシャを庇う。その直後、2人の前で何かが爆発しラシュの背中に容赦なく突き刺さった。

「「「ラシュ((兄))!!!」」」
ラシュの元に慌てて3人が駆け寄る。

「ぐっ……。チャシャ…、怪我はない?」

「傷が治らねぇっ!!しかも右腕っ…なんで俺を守ったんだよっ、オレより弱いくせになんでっっ!!」
チャシャはボロボロと涙を流しながらラシュを抱きしめる。

(クロード!俺だ、ラシュがチャシャを庇って瀕死の重傷だっ、急いでアジトの最奥へ来てくれ!!)

(っ分かりました!急いで参ります。)
自分達は自動で回復出来るからと判断を怠ってしまったのがいけなかった。

「ラシュ、今クロードが急いでこっちに向かっている。だからなんとか持ちこたえてくれっ。」
そんな彼らを嘲笑うかのように、敵が近づいてくる。

「何だよ、今のでたった1人しかダメージ喰らってないぞ?」

「へぇ…こいつらやるじゃん♪少しは楽しめるかな…グフフッ。」
チャシャはそっと、ラシュにマントをかけ立ち上がる。そして、

「1人残らずぶっ潰す。」

「じゃあ、君の相手は僕だね♪ちゃんと僕を楽しませなきゃダメだよ?」
チャシャは真っ正面から攻撃をしかけた。

「チャシャ兄、援護を「お前らの相手はこっち。」!?」
目の前に現れた敵の攻撃をアキが斧で受け止めた。

「アキ!」
ハルがアキと背中合わせに立ち、攻撃体制に入る。クレイは瀕死のラシュを守るため、その場から動けない状態だった。

★★

闘いが始まってから一時間近くが経過していた。途中からクロードが参戦し、ラシュの介抱を交代してもらうと、クレイはハルとアキの援護にまわる。クレイが来た所で2人は<一心同体>を使い、攻撃と防御に特化した姿に変わった。

「2人が1人になるとか気持ち悪っっ。
しかも面倒くさいくらい強くなってるし…。」
そう言いつつも、攻撃をかわしながら隙をついてくる。

一方、チャシャと一対一で闘う敵は強く、どちらも退かない状態になっている。

「凄い凄い凄い凄いっ、君強いね!
こんなに楽しいのは久しぶりだよっアハハハハハッ、楽しい!!」

「…。」
チャシャは無言で攻撃を繰り返す。敵は攻撃を避けているだけで何もしてこない。それでもチャシャは冷静に攻撃をし続けていた。
その時。

―チリンッ…
(永遠に溶けぬ無慈悲な氷よ…。
私の怒りを哀しみをまとえ……。
1人たりとも逃がすな、その身を氷牢獄へと突き落とせ。)
張り巡らせてあった氷が、声が止むと同時に下へと勢いよく落ちていく。
氷はその場にいたクレイたちを易しく包み込むと、禍々しい形状に変質し敵に襲いかかった。
あれだけ強かった敵が、赤子の首を捻るかのようになす術もなく悲鳴をあげながら凍っていく。
そして全てが凍りつくと、氷の塊に向かって氷柱が突き刺さる。何本も、何本も。
やがて氷は溶け、クレイたちは立ち尽くす。

「僕らは助かったのかな…?」
ハルはそう呟いて周りを見る。敵は今だ凍ったままで、何も起こらない。

「…んん、あ…れ、僕は、助かったのか…な。」

「ラシュっ!良かったっ!!生きてた!!!クロード、ありがとなっ」
チャシャはラシュに飛びつき泣きながら笑った。

「いえ、私の治療魔法ではラシュさんを救うことは出来ません…。心臓にまで達していたのになぜ?」

「―それは彼と私が、契約を交わしたから。」
凛とした声が響く。
初めて聞いた声なのに、それはとても懐かしくとても優しい声だった。

「「「「「!!!!!」」」」」
そこに立っていたのは、彼らが必死に追い求めて探していた彼女、雪那の姿だった。
彼らは雪那に駆け寄り、思い思いに抱き締めた。
「セツっ!!!会いたかった…蝶を追いかけてからずっと探していた。やっと…、会えた。」

「「ユギ姉っ、、あいだがっだぁー(大泣)」

「すげー心っ配したんだぞっっ!オレらを集めたくせにっ、ユキだけいなかったのがどれだけ怖かったかっっ。
―もうオレ達を置いてどこにもいなくならないでくれ……!」

「雪那さん…、お帰りなさい。貴女のお陰で我々は再会を果たせたのですよっ…、ありがとうございます。」
転生してからいくつもの月日が流れ、ようやく会うことが叶った彼ら。

「君たちの探し物って彼女の事だったんだ…。
―この度、私を助けて頂きありがとうございます、ユキナ様。」
ラシュは雪那の前で跪き、忠誠の証をとる。

「そう言えば、契約を交わしたと言ってたが何を契約したんだ、セツ。」

「彼は自らを盾にしてチャシャを守った。だから私を生涯護る事を契約に、彼の魂に私の魔力を混ぜた。
ラシュ…だっけ?貴方はもう……人じゃない。」
人じゃなくなったラシュを見て、チャシャが

「いや、どう見ても人に見えるのオレだけ?右腕がないだけで変わってねぇーけど??」

「魂を優先して契約したから右腕は治せなかった…。これ以上は縛れないから。」。
ラシュはステータス画面を覗くと、種族の欄に不死人となっていた。

「「…ほんとに人じゃなくなってる。」」
双子は声を揃えて驚いていたが、この場にいる雪那以外は全員驚いただろう。

「不死人って初めて聞いたぞ…、後で詳しく見せろラシュ。」

「オレの兄貴がユキと契約したって…。
オレらより先に契約……。」
チャシャが放心状態で白くなっているのを他所に話が続く。

「右腕が無くとも戦えるよう、精進します。」

「…普通に会話してくれる?話しづらい。」

「ふぅ、貴女がそれを望むなら。例え右腕が無くても戦えるように戦法を変えるなり鍛え直したりするから、今後もよろしくね。」
ラシュは笑顔で雪那に答える。
雪那は改めて皆の顔を見て疑問をぶつける。

「なんでここにYUIがいないの?」
クロードが一歩前に出て説明した。

「YUIさんは名前を改め、ビアンカさんとなりました。彼女は現在、王宮にわざと拉致られております。因みに、従者のふりをした味方が傍についております。」
それを聞いた雪那は、魔力を抑えることを忘れ激怒した。

「どこまで私を小馬鹿にしたら気が済むのか…あれは一度痛い目に遭わせなきゃ気が納まらない。
今からビアンカの救出に行く、ラシュだけ着いてきて。」

「ちょっと待て!何でオレらは行っちゃダメなんだ??」

「あれに宣誓布告をしてくるのに、わざわざこちらの手の内を見せるわけないでしょ。
だから皆はお留守番、安全な場所で待機していて。」
有無を言わせない態度に彼らは引き下がった。雪那は一度決めたらテコでも動かないのを皆知っているからだ。

「傷一つでもつけられたら言えよ。アイツらに倍返しにしてやるからな、ユキ。」

「お気をつけて。目覚めたばかりなのですから、無理はしないでください。」

「「いってらっしゃーい!」」
見送り体制に入っている彼らとは別に、クレイは雪那から離れようとしない。

「…クレイ。<転移>したいんだけど退いてくれる?」

「気を付けて行ってこい…。」

「じゃあこの手、離して?ビアンカにもしもの事があったら私、どうしていいか分からない。」
渋々手を離したクレイに「大丈夫。」と一言伝えて、雪那はラシュと共に王宮へ転移した。

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