真夜中のロミオに告ぐ

mimomo

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第一話:再会は鈍色の町

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二十三時、夜の街。薄汚れた路地裏に、淀んだ空気。
アルバイト帰りの佐良冥(さがらめい)には、すれ違う人間が全員勝ち組に見えた。
 赤ら顔のサラリーマン達が、騒がしく目の前を通り過ぎていく。絡まれないようにと、こちらには目もくれない。まるで空気の一部になったような虚しさが、冥の胸の奥に燻り続けている。
このままではいけないと、頭では理解している。
まともな人生からは程遠い現状。そこから、早く抜け出してしまいたいたかった。だからと言って、何か行動に移せるわけでもなく、ただ無気力な毎日が過ぎていく。
だって、どうすれば良いのか、誰も教えてくれないし、自分で考えても分からない。
 元々、勉強は嫌いではなかった。読書が好きで、国語は特に得意だった。だが、親の理解がないせいで、本は買えない。そんなもの買うくらいなら、タバコでも買ってこいと父親から言われる始末だ。だから、図書館で本を借りては、親に隠れてこそこそと読む。母親はそんな冥を見て、勉強なんか無意味だとバカにし続ける。グレるのも当然の環境だった。
勿論、高校には通っていない。進学を惜しんでくれたのは、当時の担任くらいだった。結局、家庭の事情で進学を諦めても、何かあったら連絡を、と冥に連絡先を渡してくれた。憎まれ口を叩きつつも、冥は彼を恩師と慕っていた。だが、惨めな自分を見られたくないという理由で、卒業後、彼に連絡することはなかった。
その後、路頭に迷ったが、コンビニのバイトでなんとか食い繋いでいる。
 自業自得。その言葉が、時折、冥の心をじわじわと蝕む。
 悪いのは親や環境だ。真っ当な親の元に生まれていれば、俺だって、普通の人生を送れたはずだ。

 早足で歩いていると、不意に前方より歩いてきた男と肩がぶつかった。
 面倒ごとになったら、厄介だ。
この時間に付近をウロついている輩など、どうせロクな人間ではない。
「お前、佐良か?」
 聞き覚えのある声に、はっと目を見開く。
 その姿は、忘れもしない。八年前、唯一、冥に高校進学を勧めた人物。
 かつての担任、雪村光留(ゆきむらひかる)だった。
「……センセ」
 白のカッターシャツと紺のズボン。清潔感のあるセンター分けの短髪に、黒縁の眼鏡。相変わらず、堅苦しい格好だ。新任の若々しさを振り撒いていた八年前より、少し疲れた表情だった。
 中学生の頃と比べると、冥の外見は似ても似つかないものになっている。今のような近寄りがたい風貌ではなく、ただ、目つきの悪い不良少年だったというのに。雪村はかつての教え子だと瞬時に見抜いたということに、冥は内心驚いた。
「久しぶりだな。こんなところで、何してるんだ?」
「……別に」
 こんな姿は見られたくなかった。最悪の人生とはいえ、まだマシだったあの頃。青春といえる思い出だって、少ないながら、いくつかある。
他人のふりをすれば良かった。
冥は心の底から後悔した。
「この辺りで働いてるのか?」
「……まぁ」
 歯切れの悪さを指摘することなく、雪村は爽やかに笑った。
「そうか。それなら丁度いい。人を探してるんだが協力してくれないか?」
「はぁ? なんで」
 カバンの中から取り出した写真には、屈託ない笑みを浮かべた少女が写っていた。
「この子なんだが……」
 思わず答えを失う。
 バイト先の同僚にそっくりだ。
 しかし、本人だとはっきり断定することはできなかった。化粧や髪型で、女はいくらでも印象が変わる。
「見覚え……あるかもしれないです」
 雪村は目を細めながら言った。
「そうか、良かった。色々聞きたいこともあるし、ちょっと飲みに行かないか? 勿論、奢るよ」
 行くわけねぇだろ、と答えかけたが、先ほどつまみと酒を買ったせいで所持金はゼロに近い。夕方から働いていたので、喉もカラカラだ。今の冥にとって、奢りという言葉はこの上ないほど魅力的だった。

 
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