真夜中のロミオに告ぐ

mimomo

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第二話:出汁の染み出るふんわりだし巻き卵

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 五分ほど歩いた所に、雪村の行きつけのこぢんまりとした小料理屋があった。
カウンターに通されて、まずはビールと適当なつまみを注文する。どうやら店員と顔見知りらしく、注文の際には談笑を交わしていた。
 この町でこれほど子綺麗な店があるとは。辺りを見回してみても、客層はすこぶる上品だ。
 知る人ぞ知る、というやつだろう。
 そこそこ繁盛しているのに、驚くほど早くビールが運ばれてきた。
乾杯、とジョッキを合わせて口を付ける。
「ここ、だし巻き美味いんだよ」
 運ばれてきた料理を前に、雪村が目を細めた。
 薄黄色の美しい断面は瑞々しく、出汁がたっぷりと含まれている。添えられた大根おろしの山頂に、は既に醤油が垂らされていた。
 ほら、と促され、一切れを口に運ぶ。チェーンの居酒屋とは違う、控えめな甘さと出汁の旨味。家庭料理のような暖かみがありながらも、本格的な味わいだ。
「俺のこと、よく分かったな」
「見た目が変わっても雰囲気で分かるよ。それに、お前は印象に残る生徒だったし」
 雪村の発言には、含みがあった。
「悪かったな、素行が悪くて」
「それもあるけど、お前、頻繁に図書館に通ってただろ。意外だったからよく覚えてる」
 懐かしいな、と雪村は目を細めた。
 彼は当時から、神経質そうな外見とは裏腹に、砕けた態度も見せる、女子からも妙に人気のあった教師だった。
 国語教師だったので、図書館の管理も任されていた雪村とは、頻繁に出くわしていたことを思い出し、冥は苦々しい気分になった。
「不良が本読んで悪いかよ」
「はは、当時も同じようなこと言ってたぞ」
 よく話しかけられ、こうやって鬱陶しいフリをしていた。
その本心を分かっていて、敢えて絡んでくる。新任教師特有の暑苦しくて押し付けがましいやり方だった。
「確か、シェイクスピアを勧めたな」
「……そうだっけ」
「そうだよ。ロミオとジュリエットをクソつまらなかったって言ってたけどさ、ちゃんと読むなんて律儀なやつだなって思ったよ」
「全然覚えてねぇわ」
 一生徒のことをよくもまぁ、と呆れるフリをしたが、誰かの記憶に残るということに安心していた。
 透明人間なんかじゃない、と証明してくれる。
 それから思い出話に花が咲き、あっという間に閉店時間になってしまった。
「さっきの子、ウチの生徒なんだ。家出して、この街で見かけたって噂が立ってな。もし、見かけたら、教えてくれ」
 大事にしたくない、と家族は警察には頼らない方針のため、女子高の生活指導担当として雪村が捜索にあたっているらしい。
 無理だと思う、と正直に言えずに、かつて捨ててしまった連絡先を雪村から再び渡された。

 翌日。バイト先でシフト表を確認する。雪村が探していた女子高生にそっくりの夏井瑠奈と同じシフトだ。世間話をして、それとなく情報を引き出せばいい。確実に断定できたところで、雪村に伝えればミッションクリアだ。
 しかし、勤務時間になっても彼女は来なかった。怪訝に思った店長が連絡を取ろうとするが、いくらかけても繋がらない。
「佐良くんさぁ。ちょっと様子見て来てくれない?」
「えぇ?何で俺が……」
「それが最近無断欠勤が多くてね、これで3回連続なんだよね。一人暮らしだから、倒れてたら大変でしょ?」
「男が行くのは流石に不味くないっすか?」
「無断欠勤の方がよっぽど不味いよ」
 めちゃくちゃな理屈だ。出来ることなら行きたくない。
 しかし、店長の機嫌を損ねるのも避けたい。
 万が一、何かあったら店長の責任にしてしまえ。
「今暇だからちゃちゃっと抜けて行ってきてよ」
「……はい」
 有無を言わさず駆り出される。
 外の空気を吸う。仕事をサボれるわけでもないので、開放感は皆無だ。
「めんどくせぇ……」
 ぼやきながらも、冥はスマートフォンの地図アプリを立ち上げた。
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