真夜中のロミオに告ぐ

mimomo

文字の大きさ
13 / 13

最終話:真夜中のロミオに告ぐ

しおりを挟む
「ったく、無茶すんなよ」
「ははは、悪い悪い」
 生徒想いもほどほどにしてくれ。
 謝りつつも、ちっとも悪びれていない雪村に呆れすら抱く。
 病院の個室で、二人きり。既に消灯時間が過ぎているため、照明は落としてある。しかし、読書灯のおかげで、雪村の表情はよく見える。倒れ込んだ際に擦りむいたのだろう。頬にはかすり傷があり、枕元にはヒビ割れたメガネが置いてあった。
 騒動の後、雪村は救急搬送され、即入院となった。ナイフは脇腹に刺さったものの、傷は深くなかった。
 処置室の外で、手を組み合わせて冥はひたすら無事を祈った。
 どうか、生きて。
 その懸命な祈りも露知らず、傷が大したことなかったのは不幸中の幸い、と雪村は呑気に笑い飛ばした。呆れつつも、心の底から安堵していた。
 本当に無事で良かった。
 素直にそう伝えようとするが、途端に照れ臭くなって俯いた。
 伝えたいことはたくさんある。
「さっさと治せよな。一人で飯食っても味気ないし。センセの鍋、早く食いたい」
 鍋は二人でなければ、囲めない。
 雪村の言う通りだ。
 ぐつぐつと出汁が沸騰した音。ふわりと漂う美味そうな匂い。そして、湯気の向こう側には大切な人がいて、今日会ったことを語り合ったり、テレビを見てくだらないやりとりをしたり。
 血が繋がらなくても、温かい家庭を築くことは可能だ。
「それに、治ったら北海道行こうぜ。本場の石狩鍋、食ってみたい」
 いつか、行ってみるといい。
 そう勧めた本人にも、付き合ってもらわなければ。
「あと、いい加減仕事しよっかなって。旅行代も稼ぎたいし、本屋のバイト、応募してみた。受かったら、センセの家から通っていい?」
流石にこのままヒモ生活を続けるわけにもいかない。
だって、支え合うのが家族だから。
「……もちろん」
 病み上がりには多過ぎる頼みに、雪村が幸せそうに笑う。その瞳から、温かい涙がぽろりと零れ落ちた。
 

「おーい、遅れるぞ!」
 待ちに待った北海道旅行の日。この日のために仕事を調整し、雪村は休みをもぎ取った。
楽しみだな、という雪村の言葉は飽きるほど聞いた。
なんせ、あの石狩鍋が待っている。
他にも予定がいくつも立っているが、専らの目的はそれで、わざわざ評判の店を予約するほどだった。
 出発時刻は既に迫っている。飛行機に乗り遅れたら流石に洒落にならない。
「ごめん、今行く!」
玄関で痺れを切らしている雪村に向かって叫び、冥は四日分の荷物が入ったリュックサックを背負った。
机の上には一冊の本がある。
ロミオとジュリエット。シェイクスピアの代表作であり、悲劇の象徴のような噺だ。
しかし、たった一言で物語はハッピーエンドを迎えることができる。
「死ななくてよかった……いや、生きていて、本当によかった」
思い入れの深い表紙をそっと撫で、冥はそう呟いた。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...