真夜中のロミオに告ぐ

mimomo

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第十二話:家族の在り方

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「あ、また来たんだ」
 ビル裏の少女達と談笑しながら、案の定、美優はコンビニの前で配信を続けている。
 冥が声をかけると、その少女達は「行こ」とその場から慌てて去っていった。どう見ても、訳ありの少女ばかりだ。余計な騒ぎには首を突っ込みたくないのだろう。
「……どうしても、言いたいことがあって」
「ユッキー先生の秘密、バラしちゃったの怒ってる? 待って、変なことされたら嫌だから、映すね」
 通行の邪魔にならないところに移動しながら、冥は辺りを見回した。
ピンクや緑の髪色。ロリータ風の服装。耳元には複数のピアス。
派手な見た目をした彼らの視線が刺さる。
 周囲からスマートフォンを向けられても、冥の心は微動だにしなかった。
もう逃げも隠れもしない。
堂々とした冥を見て、美優は満足そうに配信をし始めた。
「今日はイケメンのおにーさんと配信中! おにーさん、名前は?」
「……佐良冥。一つ聞いて良いか?」
「いいよ、何でも答えちゃう」
 配信というもしもの時の盾があるせいか、美優は余裕ありげに笑った。
「なんで、学校サボってまでここで配信してんの?」
 予想外の質問に、美優の表情は一瞬曇った。
「……みんなにここのことを知って欲しいから。家出だけじゃなく色んな事情の子がいて、みんな頑張ってる。同じ悩みを抱えている子がいたら、こういうところもあるんだよって教えたくて。悪い?」
 ビル裏の皆のためだから。
 開き直るようなその口調は、徐々に早口になっていく。
「身体売ったり、パパ活したり、ホストに貢いだり。でも、結局寂しくて、誰かと一緒にいたくなる。こうやって集まることで、救われる子がたくさんいる」
 一人では埋められない孤独を、誰かと共有する。
 雪村と鍋を囲んで、孤独を忘れた冥のように。
 顔を合わせて、同じ料理をつつく。今日会ったことを話して、盛り上がる。ささいな挨拶を交わして、喧嘩したり、笑いあったり。
 家族がいれば当たり前の日常。それを得られず、愛情に飢えた子供達。
 彼らを救おうと精一杯考えて、足掻いた結果が動画配信だとしたら、あれほど憎かった美優が健気に思えた。
「ウチ、ここのみんなのこと、大好きだからさ。血は繋がってないし、素性もよく知らないけど、家族みたいだって思ってる」
「分かるよ。俺にも、そういう人がいるから」
 家族。その単語に、冥は反射的に言葉を返した。
「家族のために何かしてやりたいって気持ちはよく分かる。でも、もっとやり方があるんじゃねぇの?」
「じゃあその方法を教えてよ。ウチ馬鹿だから、分かんないし」
「俺も馬鹿だからわかんねぇけどさ。ここは悪い大人達がうようよいて、危ない目に遭う。安全な居場所とは言いづらいだろ」
 売春の斡旋や違法薬物の売買など、ビル裏の犯罪行為は連日報道されている。悲しいかな、彼女達を食い物にする大人がこの街にはうようよいる。
 取り返しのつかないところまで、落ちてしまう前に。
「家族なら、守ってやれよ。安心して生きていけるような居場所を作ってさ」
「そんなの、どうしたらいいか分かんないよ」
「……だったら、真面目に勉強して考えればいいんじゃねぇの? まだ高校生だろ。馬鹿でも充分間に合う」
 美優自身、本当は分かっていたのだろう。冥の言葉に彼女は泣きそうな表情を浮かべた。
「藤堂!」
 聞き覚えのある声に振り返る。配信を見て駆けつけた雪村が息を切らして立っていた。
「先生、ごめんなさい。ウチ……」
  言葉に詰まる美優に、雪村は首を振った。
「いいんだ。とりあえず、一旦学校に戻ろう」
 雪村が手を差し伸べると、美優の瞳から涙が溢れた。
 周囲からは偏見の目で見られて、ひそひそと噂されて。仕事だってやりづらくなるに違いない。それでも、雪村は美優を許すだろう。
 生徒の未来を心の底から想っているから。
「佐良、ありがとう」
 俺に気を遣っている場合じゃないだろ。
 雪村の気遣いに、冥まで泣きそうになる。
 涙を堪えて唇を噛んだ瞬間、突然、背後ががやがやと騒がしくなる。振り返ると、ピンクに髪を染め、ロリータ風の格好をした少女が鬼のような形相でナイフを構えていた。
「美優、裏切ったでしょ!」
 彼女は美優を睨みつけ、ヒステリックに叫んだ。周囲の目が途端に彼女に集まる。
「ビル裏が一斉摘発されるって噂、ガチじゃん。教師とつるんで、警察にウチらのこと売るつもりでしょ!」
 ナイフを握った指はガタガタと震え、強い圧に白くなっている。
 その場の誰もが息を呑んだ。 
周囲の視線をものともせず、少女は美優に向かって走り出すと、雪村は彼女を守るように立ちはだかった。
 少女は立ち止まることなく、二人へと向かっていく。半狂乱になった少女が暴れる。雪村がそれを取り押さえようとして、興奮に震える腕を掴んだ。
「死んだら終わりだぞ」
「やめて! 離して!」
 雪村がナイフを奪おうとすると、少女は必死に抵抗した。揉み合いになると、雪村の方が圧倒的に有利だ。取り押さえられそうになった少女は無我夢中にナイフを振り回し、その刃先が雪村の腹部へと向いた。
 刃先が身体の中へと沈んでいく。動揺した少女がナイフから手を離すと、ナイフが垂直に刺さっていた。
 ふらり、と雪村がアスファルトに倒れ込み、冥はなりふり構わず駆け寄った。
「センセ、死ぬな!」
 声の限り、叫ぶ。
 生まれて初めて、誰かが死ぬのが怖いと思った。
「救急車呼べ!」
 観衆に向けて冥が叫ぶと、そのうちの一人が慌ててスマートフォンを取り出した。
 どうか、無事で。
 願いがが通じたのか、すぐさま遠くでサイレンの音が響き、騒ぎを聞きつけた警察が駆け寄ってきた。
 生きてくれ、頼む。
 何度もそう祈りながら、冥は雪村に声をかけ続けた。

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