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「……お嬢様。いえ、エスター女王陛下。本日は、建国初日にして『入国希望者』という名の、働きたくない貴族たちの行列が隣国の国境まで続いております」
アンの、いつも以上に平坦で、どこか遠い目をした声が、私の安眠を阻害する。
私は、アルベルトが「女王の威厳を保つため」と称して用意した、雲のように柔らかい浮遊王座の上で、二つ折りの体勢になって呻いた。
「……アン。難民? ここはシェルターじゃないのよ。……お帰りいただいて。私は今、重力との戦いに終止符を打って、枕と一体化する大事な儀式の最中なんだから……」
「そうはいきません。彼らは口々に『エスター様の目力で、私の社畜根性を焼き切ってほしい!』『女王陛下の足元で、一生動かない石になりたい!』と、かなり末期な嘆願書を投げ込んでいます」
(……。何なの、その気持ち悪い団体。……私の国は、ゴミ捨て場じゃないわよ)
私は怒りのあまり、浮遊王座をゆっくりと旋回させ、リビングの巨大な窓から外を覗いた。
そこには、煌びやかな馬車を捨て、高級なシルクの服を泥に汚しながら、ただ地べたに座り込んで「無」の表情を浮かべている貴族たちが、数千人規模で野営していた。
その光景は、もはや王国というよりは、極限まで進化した「怠惰の聖地」である。
私はその光景の凄まじさに、三白眼をギリリと剥き、充血した瞳をさらに見開いた。
「……あー、もう! あいつら、全員、私の視界から消して! 眩しいし、うるさいし、何より……『やる気』がなさすぎて、見てるだけでこっちの睡魔が吸い取られるわ!」
私は浮遊王座に乗ったまま、リビングからベランダへと滑り出した。
眼下の難民貴族たちに向けて、私は最大限の「不快」を込め、三白眼で一瞥した。
「……。帰れ。……働け。……寝るなら自分の家で寝なさい」
地を這うような、かすれた、呪いのような超低音。
ところが、私のその言葉を聞いた瞬間、数千人の貴族たちが一斉にその場に平伏し、割れんばかりの歓声を上げた。
「……っ! 聴いたか! 今、女王陛下が『帰れ(=ここがお前の家だ)』と仰ったぞ!」
「いや、『働け(=呼吸以外のことはするな)』という、逆説的な慈悲だ! おお、あのお方の三白眼……! 見つめられた瞬間、私の脳内のスケジュール帳が、全て真っ白に燃え尽きた……!」
(……。誰もそんなこと言ってないわよ! 解釈の歪みが酷すぎるわ!)
すると、背後から氷のオーラを纏ったアルベルトが、私の肩を優しく抱き寄せた。
「エスター。君のカリスマ性は、もはや防ぐことができないようだ。彼らは、君という名の『深淵(ニート)』に魅せられた亡者たちなのだよ。……いいだろう。私が、彼らを『選別』してやろう」
アルベルトは一歩前に出ると、冷徹な声を轟かせた。
「聞け、愚か者共! 我が女王陛下の聖域に入るには、厳しい『入国試験』がある! 今から一時間、この場で一歩も動かず、瞬きもせず、何も考えずに『置物』になれた者だけを、女王の庭の草むしり係……いえ、石像係として許可する!」
(……。……。……。アルベルト。貴方も適当なこと言って、彼らを煽らないでくれる?)
「女王陛下に命を捧げるチャンスだ! さあ、動かざることエスターの如くあれ!」
「「「おおおおお!!」」」
数千人の貴族たちが、一瞬で静止した。
咳一つせず、風に吹かれても瞬きせず、ただ虚空を見つめる数千人の貴族。
その光景は、控えめに言って「地獄」だった。
「……。アン。……これ、どうするのよ」
「お嬢様、承知いたしました。一時間後に、まだ生き残っている者がいれば、適当な地下室にでも詰め込んでおきます。……さて、彼らも静かになりました。お嬢様は、王座の上で三度寝の準備を」
「……そうね。……あいつらの顔、見てるだけで疲れたわ。……あ、アルベルト。あの人たち、明日の朝には全員、元の国に送り返してね。……お土産に、私の『三白眼入り特製お札(※ただの睨み顔のスケッチ)』でも持たせて」
「わかった、エスター。君の睨み顔を護符にするのだね。それがあれば、彼らは一生、仕事のストレスから解放されるだろう。……素晴らしいアイディアだ!」
(……。もう、何でもいいわ。私は、寝る)
私は浮遊王座を寝室へと戻し、そのままクッションの山へと転がり落ちた。
翌日のニュースでは、『エスター女王、一瞥のみで数千人の迷える魂を救済し、無言の教えを授ける』という、もはや宗教的な見出しが踊ることになる。
王都のセドリック王子が、空っぽになった王宮で「……お札、俺も一枚欲しいかも……」と、机に突っ伏して震えていたのを、アンが偵察鳥の目を通して確認し、そっと窓を閉めたのは内緒の話である。
アンの、いつも以上に平坦で、どこか遠い目をした声が、私の安眠を阻害する。
私は、アルベルトが「女王の威厳を保つため」と称して用意した、雲のように柔らかい浮遊王座の上で、二つ折りの体勢になって呻いた。
「……アン。難民? ここはシェルターじゃないのよ。……お帰りいただいて。私は今、重力との戦いに終止符を打って、枕と一体化する大事な儀式の最中なんだから……」
「そうはいきません。彼らは口々に『エスター様の目力で、私の社畜根性を焼き切ってほしい!』『女王陛下の足元で、一生動かない石になりたい!』と、かなり末期な嘆願書を投げ込んでいます」
(……。何なの、その気持ち悪い団体。……私の国は、ゴミ捨て場じゃないわよ)
私は怒りのあまり、浮遊王座をゆっくりと旋回させ、リビングの巨大な窓から外を覗いた。
そこには、煌びやかな馬車を捨て、高級なシルクの服を泥に汚しながら、ただ地べたに座り込んで「無」の表情を浮かべている貴族たちが、数千人規模で野営していた。
その光景は、もはや王国というよりは、極限まで進化した「怠惰の聖地」である。
私はその光景の凄まじさに、三白眼をギリリと剥き、充血した瞳をさらに見開いた。
「……あー、もう! あいつら、全員、私の視界から消して! 眩しいし、うるさいし、何より……『やる気』がなさすぎて、見てるだけでこっちの睡魔が吸い取られるわ!」
私は浮遊王座に乗ったまま、リビングからベランダへと滑り出した。
眼下の難民貴族たちに向けて、私は最大限の「不快」を込め、三白眼で一瞥した。
「……。帰れ。……働け。……寝るなら自分の家で寝なさい」
地を這うような、かすれた、呪いのような超低音。
ところが、私のその言葉を聞いた瞬間、数千人の貴族たちが一斉にその場に平伏し、割れんばかりの歓声を上げた。
「……っ! 聴いたか! 今、女王陛下が『帰れ(=ここがお前の家だ)』と仰ったぞ!」
「いや、『働け(=呼吸以外のことはするな)』という、逆説的な慈悲だ! おお、あのお方の三白眼……! 見つめられた瞬間、私の脳内のスケジュール帳が、全て真っ白に燃え尽きた……!」
(……。誰もそんなこと言ってないわよ! 解釈の歪みが酷すぎるわ!)
すると、背後から氷のオーラを纏ったアルベルトが、私の肩を優しく抱き寄せた。
「エスター。君のカリスマ性は、もはや防ぐことができないようだ。彼らは、君という名の『深淵(ニート)』に魅せられた亡者たちなのだよ。……いいだろう。私が、彼らを『選別』してやろう」
アルベルトは一歩前に出ると、冷徹な声を轟かせた。
「聞け、愚か者共! 我が女王陛下の聖域に入るには、厳しい『入国試験』がある! 今から一時間、この場で一歩も動かず、瞬きもせず、何も考えずに『置物』になれた者だけを、女王の庭の草むしり係……いえ、石像係として許可する!」
(……。……。……。アルベルト。貴方も適当なこと言って、彼らを煽らないでくれる?)
「女王陛下に命を捧げるチャンスだ! さあ、動かざることエスターの如くあれ!」
「「「おおおおお!!」」」
数千人の貴族たちが、一瞬で静止した。
咳一つせず、風に吹かれても瞬きせず、ただ虚空を見つめる数千人の貴族。
その光景は、控えめに言って「地獄」だった。
「……。アン。……これ、どうするのよ」
「お嬢様、承知いたしました。一時間後に、まだ生き残っている者がいれば、適当な地下室にでも詰め込んでおきます。……さて、彼らも静かになりました。お嬢様は、王座の上で三度寝の準備を」
「……そうね。……あいつらの顔、見てるだけで疲れたわ。……あ、アルベルト。あの人たち、明日の朝には全員、元の国に送り返してね。……お土産に、私の『三白眼入り特製お札(※ただの睨み顔のスケッチ)』でも持たせて」
「わかった、エスター。君の睨み顔を護符にするのだね。それがあれば、彼らは一生、仕事のストレスから解放されるだろう。……素晴らしいアイディアだ!」
(……。もう、何でもいいわ。私は、寝る)
私は浮遊王座を寝室へと戻し、そのままクッションの山へと転がり落ちた。
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王都のセドリック王子が、空っぽになった王宮で「……お札、俺も一枚欲しいかも……」と、机に突っ伏して震えていたのを、アンが偵察鳥の目を通して確認し、そっと窓を閉めたのは内緒の話である。
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