婚約破棄で謳歌するはずが、構ってほしそうにこっちを見てる?

どんぶり

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「……お嬢様。お嬢様。本日はもはや、アンの一存では追い返せないレベルの『王冠を被った不審者』が二名、門前で土下座……失礼、交渉を待っております」


アンの、もはや悟りを開いたような平坦な声が、私の極上の微睡みを踏みにじる。


私は、アルベルトがどこからか召喚した「一生重力に逆らわなくて済む浮遊ベッド」の上で、毛布を頭まで引き上げた。


「……アン。王冠? そんな重そうなものを頭に乗せている人たち、私の人生には必要ないわ。……きっと、首の運動が足りないだけよ。その辺の草むしりでもさせておいて……」


「そうはいきません。我が国の国王陛下と、アルベルト様の主君である隣国の国王陛下……つまり、二大国のトップが揃い踏みです。お嬢様がこの屋敷に重要人材を吸い込みすぎるせいで、両国の行政が完全に麻痺したと嘆いておりますよ」


(……。あー、もう! 面倒くさい! 行政なんて、適当にサイコロでも振って決めておけばいいじゃない!)


私は怒りのあまり、浮遊ベッドの上で逆さまになりながら、三白眼をギリリと見開いた。


パジャマはしわくちゃ、髪は重力に抗うように四方に広がり、目は眠気と怒りで血走り、体からはアルベルトの氷の魔力と聖女の浄化の光が混ざり合った「謎のオーラ」が立ち昇っている。


私はそのまま、地面に足をつけずに浮遊した状態でリビングへ向かった。


そこには、震える手でお茶を啜る二人の国王と、彼らに圧をかけるように背後に立つアルベルト、マリア、勇者、聖女……という、世界を滅ぼしかねないオールスター陣が揃っていた。


自国の国王が、私の姿を見るなり、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。


「……っ! な、なんだその姿は! 宙を舞い、眼光だけで王の威厳を削り取ってくる……! エスター、お前はいつの間に、重力さえも従える超越者となったのだ!」


「……陛下。重力に従うのが、面倒だっただけです。……それで? 何の用? 早く言わないと、この部屋の酸素を全部二酸化炭素に変えて、皆さんに深い眠りを提供しますわよ」


地を這うような、かすれた超低音。


隣国の国王が、感動したように私の足元に膝をついた。


「……素晴らしい! これほどまでに『権威』に無頓着で、それでいて圧倒的な『支配者』の風格! ノイマン公爵が入れ込むのも納得だ! エスター嬢……いや、エスター女王陛下!」


「……は? 女王? 何それ、新しい罰ゲームかしら」


「お願いだ、エスター様! 我が国と隣国の国境にあるこの領地を、正式に『永世中立・絶対不働王国』として独立させることを認める! だから……だから、流出した我々の家臣たちを、たまに、週に一度でいいから、リモートで働かせてやってはくれないか!」


自国の国王も、涙ながらに訴えてきた。


「そうだ! お前が『女王』としてここに君臨してくれれば、彼らがここから動かなくても、それは『国家間の共同事業』として処理できる! お前は何もしなくていい! ただ、そこにいて、たまに三白眼で彼らを叱咤(※ただの凝視)してくれればそれでいいんだ!」


(何その、働かなくていい女王。……最高じゃない)


私は浮遊したまま、ソファにどさりと着地した。


「……いいわよ。女王でも神様でも何でもやるわ。……その代わり、条件があるわ」


「何なりと! 予算か!? 領土か!?」


「……今後一切、私の安眠を妨げないこと。……あと、週休七日、有給は無限。……私の視界に入る時は、全員、忍者のように静かにすること。……わかった?」


「「「御意にーー!!」」」


両国王の、地を揺るがすような返辞。


アルベルトが、私の隣で恍惚とした表情になり、私の手を握りしめた。


「エスター! ついに、ついに君は『世界の中心(ニート)』として公認されたのだね! 君が女王なら、私は君の専属の給仕であり、盾であり、添い寝係だ!」


「……添い寝はいらないわよ、体温が低すぎるもの」


アンが、手際よく「独立宣言書(※内容はただの不働誓約書)」を王たちの前に差し出した。


「お嬢様、承知いたしました。本日をもって、ここはどの国にも属さない、世界一のホワイト……いえ、世界一の『動かない国』となります」


こうして、エスター・ド・ヴァリエールは、世界史上初、一度も立ち上がることなく、一歩も歩くことなく、たった数回の「三白眼による威嚇(※ただの眠気)」だけで、一つの国の女王に即位したのであった。


王都で、ついに「……親父まであっちに行ったのか?」と、一人寂しく王冠のサイズを測り直していたセドリック王子の元に、女王エスターからの「宣戦布告(※実際は『うるさいから王都の鐘を鳴らすのをやめろ』という苦情)」が届くのは、その数時間後のことである。
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