16 / 28
16
しおりを挟む
「……お嬢様。お嬢様。本日はもはや、アンの一存では追い返せないレベルの『王冠を被った不審者』が二名、門前で土下座……失礼、交渉を待っております」
アンの、もはや悟りを開いたような平坦な声が、私の極上の微睡みを踏みにじる。
私は、アルベルトがどこからか召喚した「一生重力に逆らわなくて済む浮遊ベッド」の上で、毛布を頭まで引き上げた。
「……アン。王冠? そんな重そうなものを頭に乗せている人たち、私の人生には必要ないわ。……きっと、首の運動が足りないだけよ。その辺の草むしりでもさせておいて……」
「そうはいきません。我が国の国王陛下と、アルベルト様の主君である隣国の国王陛下……つまり、二大国のトップが揃い踏みです。お嬢様がこの屋敷に重要人材を吸い込みすぎるせいで、両国の行政が完全に麻痺したと嘆いておりますよ」
(……。あー、もう! 面倒くさい! 行政なんて、適当にサイコロでも振って決めておけばいいじゃない!)
私は怒りのあまり、浮遊ベッドの上で逆さまになりながら、三白眼をギリリと見開いた。
パジャマはしわくちゃ、髪は重力に抗うように四方に広がり、目は眠気と怒りで血走り、体からはアルベルトの氷の魔力と聖女の浄化の光が混ざり合った「謎のオーラ」が立ち昇っている。
私はそのまま、地面に足をつけずに浮遊した状態でリビングへ向かった。
そこには、震える手でお茶を啜る二人の国王と、彼らに圧をかけるように背後に立つアルベルト、マリア、勇者、聖女……という、世界を滅ぼしかねないオールスター陣が揃っていた。
自国の国王が、私の姿を見るなり、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。
「……っ! な、なんだその姿は! 宙を舞い、眼光だけで王の威厳を削り取ってくる……! エスター、お前はいつの間に、重力さえも従える超越者となったのだ!」
「……陛下。重力に従うのが、面倒だっただけです。……それで? 何の用? 早く言わないと、この部屋の酸素を全部二酸化炭素に変えて、皆さんに深い眠りを提供しますわよ」
地を這うような、かすれた超低音。
隣国の国王が、感動したように私の足元に膝をついた。
「……素晴らしい! これほどまでに『権威』に無頓着で、それでいて圧倒的な『支配者』の風格! ノイマン公爵が入れ込むのも納得だ! エスター嬢……いや、エスター女王陛下!」
「……は? 女王? 何それ、新しい罰ゲームかしら」
「お願いだ、エスター様! 我が国と隣国の国境にあるこの領地を、正式に『永世中立・絶対不働王国』として独立させることを認める! だから……だから、流出した我々の家臣たちを、たまに、週に一度でいいから、リモートで働かせてやってはくれないか!」
自国の国王も、涙ながらに訴えてきた。
「そうだ! お前が『女王』としてここに君臨してくれれば、彼らがここから動かなくても、それは『国家間の共同事業』として処理できる! お前は何もしなくていい! ただ、そこにいて、たまに三白眼で彼らを叱咤(※ただの凝視)してくれればそれでいいんだ!」
(何その、働かなくていい女王。……最高じゃない)
私は浮遊したまま、ソファにどさりと着地した。
「……いいわよ。女王でも神様でも何でもやるわ。……その代わり、条件があるわ」
「何なりと! 予算か!? 領土か!?」
「……今後一切、私の安眠を妨げないこと。……あと、週休七日、有給は無限。……私の視界に入る時は、全員、忍者のように静かにすること。……わかった?」
「「「御意にーー!!」」」
両国王の、地を揺るがすような返辞。
アルベルトが、私の隣で恍惚とした表情になり、私の手を握りしめた。
「エスター! ついに、ついに君は『世界の中心(ニート)』として公認されたのだね! 君が女王なら、私は君の専属の給仕であり、盾であり、添い寝係だ!」
「……添い寝はいらないわよ、体温が低すぎるもの」
アンが、手際よく「独立宣言書(※内容はただの不働誓約書)」を王たちの前に差し出した。
「お嬢様、承知いたしました。本日をもって、ここはどの国にも属さない、世界一のホワイト……いえ、世界一の『動かない国』となります」
こうして、エスター・ド・ヴァリエールは、世界史上初、一度も立ち上がることなく、一歩も歩くことなく、たった数回の「三白眼による威嚇(※ただの眠気)」だけで、一つの国の女王に即位したのであった。
王都で、ついに「……親父まであっちに行ったのか?」と、一人寂しく王冠のサイズを測り直していたセドリック王子の元に、女王エスターからの「宣戦布告(※実際は『うるさいから王都の鐘を鳴らすのをやめろ』という苦情)」が届くのは、その数時間後のことである。
アンの、もはや悟りを開いたような平坦な声が、私の極上の微睡みを踏みにじる。
私は、アルベルトがどこからか召喚した「一生重力に逆らわなくて済む浮遊ベッド」の上で、毛布を頭まで引き上げた。
「……アン。王冠? そんな重そうなものを頭に乗せている人たち、私の人生には必要ないわ。……きっと、首の運動が足りないだけよ。その辺の草むしりでもさせておいて……」
「そうはいきません。我が国の国王陛下と、アルベルト様の主君である隣国の国王陛下……つまり、二大国のトップが揃い踏みです。お嬢様がこの屋敷に重要人材を吸い込みすぎるせいで、両国の行政が完全に麻痺したと嘆いておりますよ」
(……。あー、もう! 面倒くさい! 行政なんて、適当にサイコロでも振って決めておけばいいじゃない!)
私は怒りのあまり、浮遊ベッドの上で逆さまになりながら、三白眼をギリリと見開いた。
パジャマはしわくちゃ、髪は重力に抗うように四方に広がり、目は眠気と怒りで血走り、体からはアルベルトの氷の魔力と聖女の浄化の光が混ざり合った「謎のオーラ」が立ち昇っている。
私はそのまま、地面に足をつけずに浮遊した状態でリビングへ向かった。
そこには、震える手でお茶を啜る二人の国王と、彼らに圧をかけるように背後に立つアルベルト、マリア、勇者、聖女……という、世界を滅ぼしかねないオールスター陣が揃っていた。
自国の国王が、私の姿を見るなり、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。
「……っ! な、なんだその姿は! 宙を舞い、眼光だけで王の威厳を削り取ってくる……! エスター、お前はいつの間に、重力さえも従える超越者となったのだ!」
「……陛下。重力に従うのが、面倒だっただけです。……それで? 何の用? 早く言わないと、この部屋の酸素を全部二酸化炭素に変えて、皆さんに深い眠りを提供しますわよ」
地を這うような、かすれた超低音。
隣国の国王が、感動したように私の足元に膝をついた。
「……素晴らしい! これほどまでに『権威』に無頓着で、それでいて圧倒的な『支配者』の風格! ノイマン公爵が入れ込むのも納得だ! エスター嬢……いや、エスター女王陛下!」
「……は? 女王? 何それ、新しい罰ゲームかしら」
「お願いだ、エスター様! 我が国と隣国の国境にあるこの領地を、正式に『永世中立・絶対不働王国』として独立させることを認める! だから……だから、流出した我々の家臣たちを、たまに、週に一度でいいから、リモートで働かせてやってはくれないか!」
自国の国王も、涙ながらに訴えてきた。
「そうだ! お前が『女王』としてここに君臨してくれれば、彼らがここから動かなくても、それは『国家間の共同事業』として処理できる! お前は何もしなくていい! ただ、そこにいて、たまに三白眼で彼らを叱咤(※ただの凝視)してくれればそれでいいんだ!」
(何その、働かなくていい女王。……最高じゃない)
私は浮遊したまま、ソファにどさりと着地した。
「……いいわよ。女王でも神様でも何でもやるわ。……その代わり、条件があるわ」
「何なりと! 予算か!? 領土か!?」
「……今後一切、私の安眠を妨げないこと。……あと、週休七日、有給は無限。……私の視界に入る時は、全員、忍者のように静かにすること。……わかった?」
「「「御意にーー!!」」」
両国王の、地を揺るがすような返辞。
アルベルトが、私の隣で恍惚とした表情になり、私の手を握りしめた。
「エスター! ついに、ついに君は『世界の中心(ニート)』として公認されたのだね! 君が女王なら、私は君の専属の給仕であり、盾であり、添い寝係だ!」
「……添い寝はいらないわよ、体温が低すぎるもの」
アンが、手際よく「独立宣言書(※内容はただの不働誓約書)」を王たちの前に差し出した。
「お嬢様、承知いたしました。本日をもって、ここはどの国にも属さない、世界一のホワイト……いえ、世界一の『動かない国』となります」
こうして、エスター・ド・ヴァリエールは、世界史上初、一度も立ち上がることなく、一歩も歩くことなく、たった数回の「三白眼による威嚇(※ただの眠気)」だけで、一つの国の女王に即位したのであった。
王都で、ついに「……親父まであっちに行ったのか?」と、一人寂しく王冠のサイズを測り直していたセドリック王子の元に、女王エスターからの「宣戦布告(※実際は『うるさいから王都の鐘を鳴らすのをやめろ』という苦情)」が届くのは、その数時間後のことである。
0
あなたにおすすめの小説
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる