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「んぐっ、はふっ、……はふぅぅぅぅぅ!!」
リリア様の口から、およそ淑女とは思えない、野性味溢れる吐息が漏れ出しました。
溢れ出したチーズが彼女の純白のドレスに垂れ落ちますが、彼女はそれを拭うことすら忘れて、一心不乱にメンチカツを咀嚼しています。
「リ、リリア……!? 君、何を……汚い、汚すぎるぞ! 今すぐそれを吐き出すんだ! それは下賤な食べ物だ!」
リュカオン殿下が、泡を食って叫びました。
しかし、リリア様は彼を一瞥すると、これまで見たこともないような「据わった目」で言い放ちました。
「うるさいわね、このバカ殿下」
「は?」
「下賤? これが? 笑わせないで。これこそが、私が本当に求めていた『救い』よ! 殿下、あなたの『真実の愛』とやらは、私の胃袋を一度でも満たしてくれたかしら!?」
「な、何を……」
「毎日毎日、豆のスープとブドウ一粒! 歴史の暗記に刺繍の特訓! もう限界よ! 私はお妃様になりたかったのであって、修行僧になりたかったわけじゃないの!!」
リリア様は、そう叫ぶなり、背中のリボンを力任せに引きちぎりました。
「あぁ、苦しい! こんなキツキツのドレス、もう脱いでやるわ! 見てなさい、これが私の『真実の姿』よ!!」
「ひっ、リリア! 公衆の面前で何を……!!」
リリア様がドレスの肩口を破り捨て、中から現れたコルセットを、あろうことか近くにいた給仕のトレイに投げ捨てました。
「ぷはぁ!! あぁ、胃が、胃が広がるわ! カナタ様! もう一つ! もう一つ、その揚げ物をくださいな!!」
私は、あまりの豹変ぶりに感心しながら、おかわり(唐揚げ特盛り)を差し出しました。
「ええ、もちろんですわ。さあ、皆様も! 殿下の顔色を窺うのはお止めなさい! 今日はノースランド公国からの『炊き出し』ですわよ!」
私の号令とともに、披露宴会場のあちこちで、我慢の限界を迎えていた貴族たちが一斉に動き出しました。
「もう我慢できん! 私も唐揚げを食うぞ!」
「あぁ、この脂身! ダイエットなんて明日からだわ!」
優雅だったはずの会場は、一瞬にして「立ち食い肉祭り」の会場へと変貌しました。
「カナタ。作戦通りだな。……いや、作戦以上の惨状だ」
オズワルド様が、私の隣で冷静に、しかし満足げにカツを頬張っています。
「お、オズワルド閣下! 貴殿まで何を……! これが貴国のやり方か! 私の結婚式を台無しにして、何が楽しい!!」
リュカオン殿下が、真っ赤な顔でオズワルド様に詰め寄りました。
オズワルド様は、ゆっくりと肉を飲み込むと、殿下を氷のような眼差しで見下ろしました。
「リュカオン殿下。貴殿は、国を治める者がまず何をすべきか、忘れているのではないか?」
「なんだと!?」
「腹が減っていては、愛を語ることも、民を守ることもできん。貴殿がカナタ嬢に強いたあの『教育』は、ただの自己満足だ。彼女は、その地獄から自力で這い出し、今、ここにいる」
オズワルド様は、私の肩をそっと抱き寄せました。
「私は、彼女に『自由』を教わった。そして、この味を知った国民は、もう二度と貴殿のような『味のない統治者』には従わん。それが答えだ」
「く、くそっ……! カナタ! 貴様が、貴様が全てを狂わせたんだ!」
殿下が私を指差して叫びましたが、私はただ、優雅に(唐揚げを手に持ったまま)カーテシーをしました。
「殿下。狂わせたのではなく、元に戻しただけですわ。人間は、食べて、笑って、少しだけズボラに生きるのが一番幸せなんですの。さようなら、殿下。あ、お祝いの唐揚げの代金は、後でお父様に請求しておきますわね」
「待て! 行くな! リリア、お前もそんなものを食べるのをやめ……ぎゃぁぁっ!!」
殿下がリリア様の腕を掴もうとした瞬間、彼女の「肉を邪魔された怒りの裏拳」が殿下の鼻を直撃しました。
「邪魔しないで、バカ殿! 私は今、この唐揚げと結婚しているのよ!!」
リリア様の力強い宣言とともに、私たちは大パニックの会場を後にしました。
背後からは、肉を求める貴族たちの怒号と、鼻を押さえてのたうち回る殿下の悲鳴、および「おかわり!」と叫ぶリリア様の声が、心地よいハーモニーとなって響いていました。
王宮の門を出たところで、私たちは夜風に吹かれました。
「ふぅ。せいせいしましたわね、オズワルド様」
「師匠。一つ、聞いていいか」
オズワルド様が、少しだけ真剣な顔で私を見つめました。
「はい?」
「さっき、リリア嬢が言っていたことだが。『唐揚げと結婚している』……というのは、可能だと思うか?」
「ぷっ、あははは!!」
私は、こらえきれずに爆笑しました。
「何がおかしい」
「いえ、閣下があまりに真面目な顔で言うものですから。いいですか、オズワルド様。唐揚げは食べるものですわ。結婚するのは、その唐揚げを一番美味しく一緒に食べてくれる相手……でしょう?」
私は、オズワルド様の目を見上げました。
オズワルド様は一瞬、ハッとしたような顔をして、それからゆっくりと……。
「なるほど。では、私は、もうその相手を見つけてしまったようだな」
「えっ?」
私の心臓が、唐揚げを揚げている時のような、激しい音を立てました。
「行こう、カナタ。屋敷に帰って、口直しに『深夜のラーメン』というやつを試してみたい。貴女が、以前言っていた究極のズボラ飯だ」
「はい! 喜んで、オズワルド様!!」
私たちは、月明かりの下、手を繋いで走り出しました。
完璧な淑女を卒業した私の前には、油のようにキラキラと輝く、最高に不摂生で幸せな未来が広がっていました。
リリア様の口から、およそ淑女とは思えない、野性味溢れる吐息が漏れ出しました。
溢れ出したチーズが彼女の純白のドレスに垂れ落ちますが、彼女はそれを拭うことすら忘れて、一心不乱にメンチカツを咀嚼しています。
「リ、リリア……!? 君、何を……汚い、汚すぎるぞ! 今すぐそれを吐き出すんだ! それは下賤な食べ物だ!」
リュカオン殿下が、泡を食って叫びました。
しかし、リリア様は彼を一瞥すると、これまで見たこともないような「据わった目」で言い放ちました。
「うるさいわね、このバカ殿下」
「は?」
「下賤? これが? 笑わせないで。これこそが、私が本当に求めていた『救い』よ! 殿下、あなたの『真実の愛』とやらは、私の胃袋を一度でも満たしてくれたかしら!?」
「な、何を……」
「毎日毎日、豆のスープとブドウ一粒! 歴史の暗記に刺繍の特訓! もう限界よ! 私はお妃様になりたかったのであって、修行僧になりたかったわけじゃないの!!」
リリア様は、そう叫ぶなり、背中のリボンを力任せに引きちぎりました。
「あぁ、苦しい! こんなキツキツのドレス、もう脱いでやるわ! 見てなさい、これが私の『真実の姿』よ!!」
「ひっ、リリア! 公衆の面前で何を……!!」
リリア様がドレスの肩口を破り捨て、中から現れたコルセットを、あろうことか近くにいた給仕のトレイに投げ捨てました。
「ぷはぁ!! あぁ、胃が、胃が広がるわ! カナタ様! もう一つ! もう一つ、その揚げ物をくださいな!!」
私は、あまりの豹変ぶりに感心しながら、おかわり(唐揚げ特盛り)を差し出しました。
「ええ、もちろんですわ。さあ、皆様も! 殿下の顔色を窺うのはお止めなさい! 今日はノースランド公国からの『炊き出し』ですわよ!」
私の号令とともに、披露宴会場のあちこちで、我慢の限界を迎えていた貴族たちが一斉に動き出しました。
「もう我慢できん! 私も唐揚げを食うぞ!」
「あぁ、この脂身! ダイエットなんて明日からだわ!」
優雅だったはずの会場は、一瞬にして「立ち食い肉祭り」の会場へと変貌しました。
「カナタ。作戦通りだな。……いや、作戦以上の惨状だ」
オズワルド様が、私の隣で冷静に、しかし満足げにカツを頬張っています。
「お、オズワルド閣下! 貴殿まで何を……! これが貴国のやり方か! 私の結婚式を台無しにして、何が楽しい!!」
リュカオン殿下が、真っ赤な顔でオズワルド様に詰め寄りました。
オズワルド様は、ゆっくりと肉を飲み込むと、殿下を氷のような眼差しで見下ろしました。
「リュカオン殿下。貴殿は、国を治める者がまず何をすべきか、忘れているのではないか?」
「なんだと!?」
「腹が減っていては、愛を語ることも、民を守ることもできん。貴殿がカナタ嬢に強いたあの『教育』は、ただの自己満足だ。彼女は、その地獄から自力で這い出し、今、ここにいる」
オズワルド様は、私の肩をそっと抱き寄せました。
「私は、彼女に『自由』を教わった。そして、この味を知った国民は、もう二度と貴殿のような『味のない統治者』には従わん。それが答えだ」
「く、くそっ……! カナタ! 貴様が、貴様が全てを狂わせたんだ!」
殿下が私を指差して叫びましたが、私はただ、優雅に(唐揚げを手に持ったまま)カーテシーをしました。
「殿下。狂わせたのではなく、元に戻しただけですわ。人間は、食べて、笑って、少しだけズボラに生きるのが一番幸せなんですの。さようなら、殿下。あ、お祝いの唐揚げの代金は、後でお父様に請求しておきますわね」
「待て! 行くな! リリア、お前もそんなものを食べるのをやめ……ぎゃぁぁっ!!」
殿下がリリア様の腕を掴もうとした瞬間、彼女の「肉を邪魔された怒りの裏拳」が殿下の鼻を直撃しました。
「邪魔しないで、バカ殿! 私は今、この唐揚げと結婚しているのよ!!」
リリア様の力強い宣言とともに、私たちは大パニックの会場を後にしました。
背後からは、肉を求める貴族たちの怒号と、鼻を押さえてのたうち回る殿下の悲鳴、および「おかわり!」と叫ぶリリア様の声が、心地よいハーモニーとなって響いていました。
王宮の門を出たところで、私たちは夜風に吹かれました。
「ふぅ。せいせいしましたわね、オズワルド様」
「師匠。一つ、聞いていいか」
オズワルド様が、少しだけ真剣な顔で私を見つめました。
「はい?」
「さっき、リリア嬢が言っていたことだが。『唐揚げと結婚している』……というのは、可能だと思うか?」
「ぷっ、あははは!!」
私は、こらえきれずに爆笑しました。
「何がおかしい」
「いえ、閣下があまりに真面目な顔で言うものですから。いいですか、オズワルド様。唐揚げは食べるものですわ。結婚するのは、その唐揚げを一番美味しく一緒に食べてくれる相手……でしょう?」
私は、オズワルド様の目を見上げました。
オズワルド様は一瞬、ハッとしたような顔をして、それからゆっくりと……。
「なるほど。では、私は、もうその相手を見つけてしまったようだな」
「えっ?」
私の心臓が、唐揚げを揚げている時のような、激しい音を立てました。
「行こう、カナタ。屋敷に帰って、口直しに『深夜のラーメン』というやつを試してみたい。貴女が、以前言っていた究極のズボラ飯だ」
「はい! 喜んで、オズワルド様!!」
私たちは、月明かりの下、手を繋いで走り出しました。
完璧な淑女を卒業した私の前には、油のようにキラキラと輝く、最高に不摂生で幸せな未来が広がっていました。
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