「婚約破棄、万歳!本日をもって『完璧な淑女』は廃業いたしますわ!」

どんぶり

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「あぁ。お日様が目に染みますわ。これぞ平和の証ですわね」


王宮での『飯テロ結婚式』から一週間。


私はノースランド公国の公爵邸で、昼過ぎに起きてテラスで優雅に寝癖がついたままカフェオレを啜っていました。


隣では、オズワルド様が新聞を広げながら、どこか遠い目をして呟きました。


「カナタ。我が国の王宮から、正式な報告書が届いたぞ。リュカオン殿下、廃嫡(はいちゃく)が決定したそうだ」


「あら。意外と早かったですわね」


「無理もない。聖なる結婚式の会場をニンニクと油の匂いで埋め尽くし、参列した貴族たちを暴徒化させたのだ。さらには花嫁に殴られて鼻骨を折るという醜態。国王陛下は『我が国の威信をニンニク一欠片に売り払った愚か者』と激怒されているらしい」


私はカフェオレを一口飲み、満足げに頷きました。


「自業自得ですわ。それで、あの方は今どこに?」


「ジャガイモだ。北の果てにある、王領のジャガイモ農場で一生、ジャガイモの皮を剥いて過ごすことになるだろう。皮を剥くマナーだけは、彼も得意だったはずだ」


「あら、皮剥きは『完璧な所作』が必要ですものね。殿下にぴったりですわ!」


ちなみに、リリア様はというと。


彼女は「こんなに美味しいものがあるなら、もう男なんてどうでもいいわ!」と開き直り、実家の男爵領で屋台を開業したそうです。


看板メニューは、もちろんあの日食べた『特大チーズメンチカツ』。


「救われましたわね、彼女も。さて、オズワルド様。そんな昔の話より、未来の話をしましょう!」


私は立ち上がり、テーブルの上に一枚の大きな地図を広げました。


「これは?」


「ノースランド公国発! 『第一回・世界ズボラ飯博覧会』の会場案ですわ!!」


オズワルド様は新聞を置き、身を乗り出しました。


「ズボラ飯、博覧会?」


「そうです! 世界中の『手間はかからないけれど、暴力的に美味しいもの』を一堂に集めるのです! 南国の『真っ赤な激辛ソースの揚げパン』や、西の国の『チーズの海に溺れるマカロニ』……。それを我が国の広場で、全員がパジャマで食べられるようなイベントにするんですのよ!」


「パジャマで、か。画期的だな。形式を重んじる我が国において、それは革命以上の衝撃になるだろう」


オズワルド様の瞳に、いつもの「食への野心」が灯りました。


「いいだろう、カナタ。予算は私が出そう。我が国を、世界で一番『胃もたれに寛容な国』にするのだ」


「流石は閣下! 話がわかりますわ!」


「お嬢様。またとんでもないことを。お旦那様からも手紙が来ていますよ。『バターの追加送付と引き換えに、博覧会の名誉会長にしろ』だそうです」


ミーナが呆れたように手紙を差し出しました。お父様、すっかりズボラ飯のパトロンですね。


「カナタ。準備は忙しくなりそうだが、一つ、頼みがある」


オズワルド様が、少しだけ声を低くして私の手を取りました。


「はい? なんでしょう」


「博覧会の目玉として、貴女と私の『共同作業』を見せたいのだが」


「共同作業。あ、ケーキカットみたいな!? でもケーキじゃ面白くないですわね。特大の『肉団子』を一緒に揚げるのはいかがかしら?」


「まあ、貴女らしいな」


オズワルド様は苦笑いして、私の手をそっと握りしめました。


「っ!!」


私の顔が、揚げたてのエビフライのように真っ赤になりました。


「閣下。その、肉団子の後は、デザートも、一緒に食べてくださいますか?」


「もちろんだ。二人で胃もたれを分かち合うのが、愛だろう?」


私たちは、テラスに降り注ぐ柔らかな光の中で、見つめ合いました。


かつての私が追い求めていた「完璧な愛」なんて、どこにもありません。


でも、ここには、温かな油の匂いと、大好きな人と一緒に食べる「美味しい」がありました。


「あぁ、幸せ。ところで閣下。お腹、空きませんこと?」


「奇遇だな。私は今、同じことを考えていたところだ」


「では、博覧会の試作ということで! 『焼きそばパン』なるものを作ってみましょう!」


「炭水化物に炭水化物を挟むのか。最高だな!!」


私たちは、公爵としての威厳を窓から投げ捨て、意気揚々と厨房へと駆け出していきました。


私の「完璧な淑女」としての人生は、こうして「完璧なズボラ」へと華麗に転身を遂げたのでした。
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