「婚約破棄、万歳!本日をもって『完璧な淑女』は廃業いたしますわ!」

どんぶり

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「完璧だわ。今の私、どこからどう見ても、非の打ち所がない完璧な公爵夫人候補に見えるはずよ!」


銀氷城の大聖堂。荘厳なパイプオルガンの音が響き渡り、ステンドグラスから差し込む光が、私の純白のドレスを神々しく照らしていました。


隣には、まばゆいばかりの正装に身を包んだオズワルド様。その姿はまさに、お伽話から抜け出してきた王子様のようです。私は、かつての妃教育で叩き込まれた「聖女のような微笑み」を顔に貼り付け、祭壇の前に立ちました。


目の前には、この国で最も厳格とされる大司教様が、分厚い聖典を手に厳かな顔で控えています。


「新郎オズワルド・ノースランド。汝は、健やかなるときも、病めるときも、この女性を愛し、共に歩むことを誓うか?」


「誓います。生涯、彼女を守り、同じ食卓を囲むことを」


オズワルド様の低く、深く響く声。その言葉に、参列した貴族たちの間から感嘆の溜息が漏れました。


しかし。その感動的な沈黙を切り裂いたのは、どこからか漂ってきた「ある匂い」でした。


「っ!? な、なんだ、この匂いは!」


私の鼻腔を、猛烈な勢いで突き抜ける香ばしい香り。


それは、昨日リュカオンから届いたジャガイモを、最高級の牛脂でじっくりと揚げ、仕上げに大量のガーリックソルトを振りかけた「究極のフライドポテト」の匂いでした。どうやら、中庭に設営された披露宴会場で、我慢しきれなくなったシェフたちが揚げ始めてしまったようです。


「汝、カナタ・フォルセティ。汝は、この男性を夫とし、夫とし」


大司教様の言葉が、目に見えて震え始めました。彼の鼻が、ピクピクと小刻みに動いています。厳格な老人の顔が、今や「獲物を狙う猟犬」のようになっています。


匂いは刻一刻と強まり、大聖堂の冷たい空気の中に、油の熱気とニンニクの誘惑が充満していきます。


「カナタ。聞こえるか。中庭から、ジャガイモたちが私を呼んでいる声が」


オズワルド様が、前を向いたまま、極小の声で囁いてきました。


「ええ、閣下。私も聞こえますわ。黄金色のジャガイモが、油の海で弾ける歓喜の歌が」


「汝、カナタ・フォルセティ。汝は、この。あぁ、もう! なんて良い匂いなんだ! 汝は、この男性を生涯愛することを誓うか!?」


大司教様がついに耐えかねたように、早口で誓いの言葉を突きつけました。そのお顔は、一刻も早くこの儀式を終わらせて、中庭へダッシュしたいという欲望に満ち溢れています。


「はい、誓いますわ! 今すぐ、全力で誓います!」


私は食い気味に返事をしました。


「では、誓いの接吻を。急いで!」


大司教様の促しに従い、オズワルド様が私のベールをめくりました。見つめ合う二人の瞳。そこにあるのは、燃え上がるような情熱というよりは、揚げたてのポテトへの並々ならぬ執着心。


「愛している、カナタ。さあ、行こう。冷めないうちに」


「ええ、オズワルド様! 私の太もものホルダーには、既に特製タルタルソースが装填済みですわ!」


私たちは、聖なる誓いの口づけを最短記録で済ませると、手を取り合って翻りました。


「おめでとう!! あぁ、早く食わせろ!!」


参列者たちの祝福という名の催促の叫びを背に、私たちはドレスの裾を翻し、大聖堂のバージンロードを全力で駆け抜けました。重厚な扉を勢いよく開けると、そこには。


モウモウと立ち上がる白い煙と、山積みになった黄金色のジャガイモ!


「さあ、皆様! これより披露宴、いいえ、世界一の揚げ物パーティーの開始ですわ!!」


私の宣言と共に、大司教様を先頭にした貴族たちが、まるで突撃する騎兵隊のようにジャガイモの山へと押し寄せました。


「カナタ。さあ、我々も始めよう。これこそが、私たちの『真実の愛』の形だ」


オズワルド様が、私に一番大きなポテトを手渡してくれました。私はドレスのポケットからこっそりマヨネーズを取り出し、それをたっぷりとポテトに絞り出しました。


「はむっ!!」


サクッ、という軽快な音。


「美味しい!! 生きていて、本当に良かったですわ、オズワルド様!!」


「ああ。私もだ。今日という日を、私は一生、胃もたれと共に忘れないだろう」


神聖な大聖堂の鐘の音が響く中、私たちは揚げ油の湯気に包まれながら、最高に不摂生で最高に幸せな人生の第一歩を、力強く踏み出したのでした。
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