異世界転移した俺は大賢者様に食われる運命らしい

蓮見

文字の大きさ
13 / 28

13.雑貨店の魔法使い

しおりを挟む
「ヴィル……!」

「離れろ。よもや貴公の手癖がそこまで酷いとはな」

 騎士の声は硬い。クローセルを睨みつける顔もその身にまとう刺すような圧も、俺が知らないヴィルヘルムだった。

「やめておきなさい。ひどく消耗なさっておいでではないですか」

「聞こえなかったか。この距離なら私に分がある」

「……」
 呆れたように息を吐いたクローセルが、ぱちんと指を鳴らした。

「おわあ!」
 とたんに俺の椅子が大きな革長椅子レザーソファに変わる。沈み込んだ身体はバランスを崩しかけて、俺は肘掛けにすがりついた。手に持っていたはずのカップはいつから消えていたのか。そこはもう驚かない。

「お話の前にをどうぞ」

 そう言ったクローセルはカウンターの中にいた。おそらく、俺から距離を取ってくれたのだろう。

「気遣いに感謝する」

 憮然とした表情のヴィルヘルムは長椅子に腰を下ろすと、なぜか俺の腹に両腕を回して――

「うわ、え」

 腰に抱きついたまま横になってしまった。これは膝枕……なのだろうか。
 塔の部屋にある長椅子でも、俺が座る横でヴィルヘルムが昼寝をすることはよくあったけれど、こんなふうに触れてこられるのは初めてだ。

「すまないがこのままで」

 そういって目を閉じたヴィルヘルムを見下ろして、浮かせた腕のやり場に迷っていると、クローセルから湯気の立つカップを差し出された。間違ってもヴィルヘルムにこぼしたりしないように、慎重に受け取って礼を言う。

「卿はそうしてあなたから漏れ出す魔力を吸っていらっしゃるのですよ。浅ましい行為ですが、そうせざるを得ないほど彼の魔力はすり減っています。不快は承知で、どうか寛大なお心を」

「い、いや別に、このくらい」

 驚きはしたけれど、不快なんてあるはずがない。

「ヴィル、魔力が足りないのか? 俺はどうしたらいい?」
「このままでいてくれ」

 すり、と腹に頭を擦りつけられて、心臓が跳ねた。

「護衛対象と離れる余裕がないのですよ。おかわいそうに」

 クローセルの声。

「いや、だってそれじゃあ、なにかしないと」

 なにか。なにかとはなんだろう。

 ティーカップを持つ手をさまよわせると、そばに現れたクローセルが受け取ってくれた。こちらを見る空色の瞳は愉快そうに細められている。

「いえ、この状況であなたが何をなさるのかと思いまして」

「え、えーと……魔力ってどうやって与えたらいいですかね」
「最も効率的な方法はご存知かと思いますが――まあ、基本は触れることです」

 効率的な方法、をここで実行するわけにはいかないので、俺はこわごわとヴィルヘルムの髪に触れた。そっと頭をなでるように動かし、俺の魔力がヴィルヘルムに渡りますように、などと念じてみる。

「おや、大胆でいらっしゃる」

 クローセルがそう言った瞬間、俺の手が熱くなった。

「!」

 とつぜん、俺をとりまくなにかが光の奔流となって目に映った。それは身体中から俺の手に向かっていて、ヴィルヘルムへと流れ込もうとしている。
 これが魔力だろうか。だとするなら、このまま。

 さらさらと膝上の身体に流れ込んでいる光の粒子を、さらにヴィルヘルムの中へと向けさせる。
 大量の光で、視界はどんどん明るくなっていった。

 もっと増やして、もっと、たくさん――!

「アンリ」

 手首を掴まれたとたん、視界の光が消え去った。

「――は、っ……あ、れ……」

 どっと汗が吹き出す。呼吸がし辛い。心臓の音が響いて、頭が痛い。

「もういい。すまない、無理をさせた」

 ヴィルヘルムの胸に抱きしめられたのはわかったが、身体がばかになって言うことを聞かない。

「止める気がないのかと思っていました」
「心地よくてな……危なかった」

 額に、冷たい手の感触がした。

「訓練も準備もなく魔力提供を行ったにも関わらず、この程度で済むのですから。《箒星の旅人》とは恐ろしいものですね」

 楽になりますよ、と勧められて、クローセルから受け取ったティーカップに口をつける。なんとか飲み込むと、腹に落ちた熱が身体中にじわりじわりと広がっていく。意識がクリアになり手足のコントロールが戻ってくる感覚に、俺はほうっと息をついた。

「ありがとう、クローセル」

「私は、したいと思ったことしかいたしませんので。どうぞお気になさらないで下さい」

 小さく、本当に小さくだけど微笑んだクローセルに、俺も笑みを返す。

「私からも感謝する。不満もあるがな」

 ヴィルヘルムの機嫌は、とても悪そうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...