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19.瞑想室

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 あれから数日。
 夢では変わらずヴィルヘルムに抱かれているが、湯殿は出てきていない。良かった。

 一日、二日と経つにつれ、翌朝の倦怠感にも耐性ができたようで、動きにくさも薄れてきた気がする。

「《箒星》さまの魔力量が増えていらっしゃるのですよ。さらなる効果を期待して、お相手を増やされてはいかがですか?」

 リコは笑顔でこわいことを言う。

 俺は助けを求めて室内を見まわしたが、いまは目当ての護衛騎士の姿はない。お勤めが週七勤になった俺には欠かさず加護が施されているそうで、それまでべったりだったヴィルヘルムが不在の時間も増えていた。カラハン解放計画のためにタスクも山積みなんだろうし仕方ない。

「次席賢者様のためにも、《箒星》さまのためにも、とても大事なことですのに」

 モバイルバッテリーの容量と耐久性が増えれば、それは嬉しいのだろうけども。
 次席にまで身体を捧げるつもりがない俺は、曖昧に頭を傾けるしかない。

「《箒星》さまは、ひととの触れ合いを苦手とされていらっしゃるのですか?」
「さすがに、誰とでもってのは抵抗があるんだよ……」

 さらっとコミュ障扱いされたような気がして、俺は苦々しい顔で首を振る。

 リコが、それでしたら! と楽しそうに手を打った。
「瞑想室はいかがですか?」


 そうしてリコに案内されたのは、塔の地下の、ひどく奥まった場所だった。石造りの長い廊下に他の魔法使いの姿はまるでない。よほど使われないところなのだろうか。

 心細さにリコに尋ねると、明るい声が返ってくる。

「この辺りは塔の動力を管理する部分が近く、防犯のために個人の魔力を遮蔽する仕組みがあちこちに埋め込まれております。そのため、瞑想室をここに移すことになってからは、利用される方は減ったかもしれません」

 もともとは塔の中でも上階の方の、大きな窓のある開放的な場所にあったらしい。

「なんでこんなところに移すんだ……」

「次席賢者様のご指示ですので」

 次席。

 つい顔をしかめてしまったが、先を歩くリコにはバレていないだろう。
 こちらです、と嬉しそうに示された重そうな扉の中に、俺たちは足を踏み入れた。

 天井が高めの、ドーム型の部屋だ。入口の正面には縦長のステンドグラスが淡い光を放っている。地下なので、光源は魔法だろうか。壁に沿ってガラスの筒が並んでいて、中には赤紫色の液体が入っているようだった。

 なんだろう、気持ち悪い。

「では、こちらで瞑想をなさってください。リコは《箒星》さまの集中を邪魔することのないよう、扉の前で張り切って警護をいたします」

 笑顔で握りこぶしを作るリコだが、俺は正直、この部屋の空気に引いている。

「いや、なんだか気分が良くないから、今日はやめておきたいな……」
「魔力が遮蔽される感覚ですね、リコもわかります。ですが、内なる魔力を高めるために最適な環境なのだそうです」

 がんばってください! と可愛らしく励まされるが、素直に頷き難い。

 しかし、
「魔力の高まりを念じていただければ、じきにお導きがございます」
 結局、俺はリコに押し切られ、扉は閉じられてしまった。

 ひとり静かに考え事をしたい、くらいのつもりだったのだが……。

「瞑想ってつまり、修行だもんな」

 ひとりごちて、とりあえず部屋の真ん中に立ってみた。いちおう、それらしいことをして部屋に戻ろう。

 魔力の高まりを念じると導きがある、んだったか。

 いまこの場で真面目に修行するつもりはないので導きは得られないだろうが、そもそも俺の魔力の高まりは精神統一からは程遠いのだ。

 今朝の夢を思い出しながら腹部を押さえる。

 まだナカに精液が入ってる気がする……。

 萎え知らずのヴィルヘルムに繰り返し熱いものを注がれ、溢れないように、と猛ったままの剛直で栓をされた。どれだけ啼いてもすがっても許してもらえず、そのまま長い間ひたすら揺らされ、更に何度も奥に出され……。

 日が経つにつれ夢のバリエーションが広がっている気がして、俺にそんな性癖があっただろうかと心配になる。

「んん……っ」

 思い出すと、俺の身体は簡単に熱くなった。同時に現れたほのかな光は、きっと魔力だ。食われるときのふわふわした感覚が身体に広がって、なんだか気持ちがいい。

 これは、この部屋の効果なのだろうか。

 しかしこのままでは単なる自慰行為になりかねない。さすがにまずいな、と意識を切り上げようとした、そのとき。

『魔力を捧げよ』

 部屋に、声が響いた。

「え? ……ッ!」

 ふわふわした頭に、がんと殴られたような衝撃が走った。いつの間にか、視界はうっすらとした紫の霧に包まれようとしている。
 どう見ても危険だ。

 扉へと踵を返した俺は次の瞬間、足首を凄い力で持ち上げられた。
 勢いよく動く視界が上下反転して、止まる。

「――!?」

 何が起こったのか。首をめぐらせ上を見ると、太いツタが足首に巻き付いている。それは赤紫色で、ステンドグラスの淡い光を受け、表面がぬらぬらと光っていた。

 赤紫――思い当たった俺はガラスの筒を確かめようと部屋の隅を振り返る。同じ色の液体が入っていた筒からはさまざまな太さのツタが伸び、こちらを囲うようにうねうねと空中で蠢いていた。

 これ、ツタっていうか、ファンタジー世界で有名な触手ってやつなんじゃ――

「リコ……っ」

 助けを呼ぼうと声を上げたとたん、触手たちが一斉に動いた。両手は上でひとまとめに、両足は開かれ、胴にも触手が絡みつき、俺は宙に固定される。上下逆さまからは解放されたことだけは幸いだったが、その他のすべてが絶望的だ。息をするたびに頭ががんがん痛む。

『魔力を捧げよ』

 ステンドグラスが紫色に淡く光る。辺りをただよっていた紫の霧はじわりと集まり、人間の姿を形作った。

 長身の、赤毛の男だ。見たことはないけれど、これはきっと。

「次席賢者……」
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