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武勇伝
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忠犬というものを一応は手に入れ、彼女を切らすこともなく、勉学やスポーツも人並み以上にできた。人生においてなんの不幸や不足を感じることもなく、童貞を捨てたのは中学生の時だった。
当時ほとんど日替わりで付き合っていた「彼女」のなかのひとりの、大学生の姉が相手だった。なんでも僕のことを高校生だと勘違いしていたそうで、事後に僕が彼女の妹と同級生であることを聞いてショックを受けていた。その後その人とは何回か会って手ほどきをしてもらったが、中学生相手にこれ以上本気になりたくない、と目の前で泣かれたので、二度と会わない約束をした。妹のほうとは同じ学校なのでその後も何度かデートをしたが、姉としたのと同じことを自分にもしてほしい、という要求に応えきれず距離を置くようになった。ご多聞に漏れず僕も思春期のまっただなかであふれる性欲というやつに悩まされないわけではなかったのだが、彼女と一線を越えたことが知られれば他の女子もそれを要求してくるだろう。女というのはそういうものだ。いくら向こうから要求されたとはいえ、不特定多数の同級生に手を出す男子中学生が学校という狭い社会のなかでどんな扱いを受けるか、考えなくてもわかろうというものだ。それに、一時期僕をどこにでも連れ回していた彼女の姉の繋がりから、後腐れのない遊び相手はいくらでも調達できた。
はじめて男とやったのは、高校生の時。
街角のイケメンくん、とかそんな雑誌の特集だとかで写真を撮らせたらその掲載誌のパーティに呼ばれ、その界隈ではそこそこ知られたカメラマンとかいうだいぶ年上の男に熱心に口説かれたので手を出してみた。男同士だとツボが分かっていて気持ちいいというが、それも結局相手によりけりというのが正直な感想だ。ともあれそれ以来、女だけではなく男からも誘いがあれば乗るようになったし、遊び相手を選ぶの基準から、性別という項目は消滅した。男でも女でも、合うか合わないかだ。
思えば高校生にしては生活が爛れていたが、両親が息子の教育にはいくらでも投資してくれたおかげで、大学もそこそこ名のあるところに入ることができた。高校までは女に見向きもされなかったようなやつでも、この大学の学生だと名乗れば女の子がキャーキャー寄ってくるような大学だ。その上その容姿ならさぞやモテるでしょう、としょっちゅう言われたが、実のところこの頃の僕は不特定多数と関係を持つことにすっかり飽きてしまっていて、主に同じサークルの女子と健全なお付き合いというやつをやっていた。健全とは言いつつもサークルの先輩や後輩、あるいは行きずりの相手でも誘われればそれなりに応じていたが、大学生ぐらいになれば周囲もそれが当たり前だったので、浮気を疑われれば完全にバレる前にその子とは綺麗な言い訳を用意して別れ、新しい子に乗り換えることにしていた。
こんな生活をしていたからバチがあたったのだろうか。大学4年の冬、父のコネを借りずに決めた就職先が、突然、◯◯という女性を知っているか、と連絡して来た。
なんでも、その企業の重役が親しくしている芸能事務所のタレントの卵だとかで、僕に妊娠させらて捨てられた、と言っているそうだ。その証拠にと僕とのプライベートな写真をその会社の重役にまで見せたらしい。それなのに僕がそんな女性は知らないと主張したものだから、その企業からしたら、僕のことは、責任逃れに関係した女性のことまで知らないと言い張る嘘つきのクズ野郎、ということになってしまったようだ。
結論から言えば、彼女の妊娠というのは真っ赤な嘘だったし、プライベートな写真についての誤解も解けた。僕がその女性と関係したことがあるというのは事実だったのだが、お互いほとんど名前も知らない乱行パーティの時での時のことで、その時の主催者が隠し撮りしていた写真をその場にふたりだけしかいないと見せかけるように切り抜いて拡大し、付き合っていた証拠だと言い張っていたようだ。彼女はそのとき僕に一目惚れしたそうだが、僕のほうでは彼女のことを覚えていなくても当然だろう。まんまと騙された重役はその女性のいわゆるパパ活の相手で、女性に言われるがまま僕を告発したようだ。会社を騙した、ということでその重役は関連企業に左遷され、女性のほうはタレント事務所を解雇され、企業側からはとおり一遍の謝罪が来たが、騒動の渦中で僕に投げつけられた失礼な発言の数々を忘れられるわけもなかったし、乱行パーティに参加したことがあるやつ、という目で見られながら社会人生活をスタートするのは愉快な気分ではなかった。
僕はその会社の内定を蹴り、卒業間近になってから改めて就職活動を始めた。幸い、高校時代から父の手ほどきで始めた株取引が順調で働かなければ食べていけないというほどでもなかったし、そもそも両親は僕に甘い。乱行パーティなどの詳しいことは隠しつつ事情を話したら、お金は出すからしばらく海外にでも行ってみてはどうかと提案された。それも悪くないと思ったが、しかし、それは両親の庇護下にいる時間を伸ばすということを意味しており、それもまた僕の望むところではなかった。
当時ほとんど日替わりで付き合っていた「彼女」のなかのひとりの、大学生の姉が相手だった。なんでも僕のことを高校生だと勘違いしていたそうで、事後に僕が彼女の妹と同級生であることを聞いてショックを受けていた。その後その人とは何回か会って手ほどきをしてもらったが、中学生相手にこれ以上本気になりたくない、と目の前で泣かれたので、二度と会わない約束をした。妹のほうとは同じ学校なのでその後も何度かデートをしたが、姉としたのと同じことを自分にもしてほしい、という要求に応えきれず距離を置くようになった。ご多聞に漏れず僕も思春期のまっただなかであふれる性欲というやつに悩まされないわけではなかったのだが、彼女と一線を越えたことが知られれば他の女子もそれを要求してくるだろう。女というのはそういうものだ。いくら向こうから要求されたとはいえ、不特定多数の同級生に手を出す男子中学生が学校という狭い社会のなかでどんな扱いを受けるか、考えなくてもわかろうというものだ。それに、一時期僕をどこにでも連れ回していた彼女の姉の繋がりから、後腐れのない遊び相手はいくらでも調達できた。
はじめて男とやったのは、高校生の時。
街角のイケメンくん、とかそんな雑誌の特集だとかで写真を撮らせたらその掲載誌のパーティに呼ばれ、その界隈ではそこそこ知られたカメラマンとかいうだいぶ年上の男に熱心に口説かれたので手を出してみた。男同士だとツボが分かっていて気持ちいいというが、それも結局相手によりけりというのが正直な感想だ。ともあれそれ以来、女だけではなく男からも誘いがあれば乗るようになったし、遊び相手を選ぶの基準から、性別という項目は消滅した。男でも女でも、合うか合わないかだ。
思えば高校生にしては生活が爛れていたが、両親が息子の教育にはいくらでも投資してくれたおかげで、大学もそこそこ名のあるところに入ることができた。高校までは女に見向きもされなかったようなやつでも、この大学の学生だと名乗れば女の子がキャーキャー寄ってくるような大学だ。その上その容姿ならさぞやモテるでしょう、としょっちゅう言われたが、実のところこの頃の僕は不特定多数と関係を持つことにすっかり飽きてしまっていて、主に同じサークルの女子と健全なお付き合いというやつをやっていた。健全とは言いつつもサークルの先輩や後輩、あるいは行きずりの相手でも誘われればそれなりに応じていたが、大学生ぐらいになれば周囲もそれが当たり前だったので、浮気を疑われれば完全にバレる前にその子とは綺麗な言い訳を用意して別れ、新しい子に乗り換えることにしていた。
こんな生活をしていたからバチがあたったのだろうか。大学4年の冬、父のコネを借りずに決めた就職先が、突然、◯◯という女性を知っているか、と連絡して来た。
なんでも、その企業の重役が親しくしている芸能事務所のタレントの卵だとかで、僕に妊娠させらて捨てられた、と言っているそうだ。その証拠にと僕とのプライベートな写真をその会社の重役にまで見せたらしい。それなのに僕がそんな女性は知らないと主張したものだから、その企業からしたら、僕のことは、責任逃れに関係した女性のことまで知らないと言い張る嘘つきのクズ野郎、ということになってしまったようだ。
結論から言えば、彼女の妊娠というのは真っ赤な嘘だったし、プライベートな写真についての誤解も解けた。僕がその女性と関係したことがあるというのは事実だったのだが、お互いほとんど名前も知らない乱行パーティの時での時のことで、その時の主催者が隠し撮りしていた写真をその場にふたりだけしかいないと見せかけるように切り抜いて拡大し、付き合っていた証拠だと言い張っていたようだ。彼女はそのとき僕に一目惚れしたそうだが、僕のほうでは彼女のことを覚えていなくても当然だろう。まんまと騙された重役はその女性のいわゆるパパ活の相手で、女性に言われるがまま僕を告発したようだ。会社を騙した、ということでその重役は関連企業に左遷され、女性のほうはタレント事務所を解雇され、企業側からはとおり一遍の謝罪が来たが、騒動の渦中で僕に投げつけられた失礼な発言の数々を忘れられるわけもなかったし、乱行パーティに参加したことがあるやつ、という目で見られながら社会人生活をスタートするのは愉快な気分ではなかった。
僕はその会社の内定を蹴り、卒業間近になってから改めて就職活動を始めた。幸い、高校時代から父の手ほどきで始めた株取引が順調で働かなければ食べていけないというほどでもなかったし、そもそも両親は僕に甘い。乱行パーティなどの詳しいことは隠しつつ事情を話したら、お金は出すからしばらく海外にでも行ってみてはどうかと提案された。それも悪くないと思ったが、しかし、それは両親の庇護下にいる時間を伸ばすということを意味しており、それもまた僕の望むところではなかった。
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