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2 舞踏会
2-3 二人は踊る
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ジュリーはワルツでくるくると回りながら大広間の様子を見回した。全く落ち着かなかった。セドリックとワルツを踊りながらも、心は上の空だった。
ジュリーは気持ちが入らない上、そもそもダンスが得意ではなかった。セドリックのリードがなければ、何度でも足をぶつけたり、立ち止まってしまったりしたことだろう。彼の手はしっかりと彼女の手を握り、瞳は彼女の顔を見つめていた。
ジュリーは困惑していた。
よりによって私が、アナイスの恋する人とワルツを踊ることになるなんて。アナイスの気持ちはどうしたらいいのかしら?
それにさっきから探しているのに、アナイスの姿が見えない。どこへ行ってしまったの?
ジュリーの不安ととまどいが顔に出たに違いない。セドリックがおだやかに微笑みかけたのでジュリーもつられて愛想笑いを返した。二人で手は合わせ足は踊りながら、セドリックはジュリーに話しかけた。音楽と会場のざわめきのせいで、人に聞かれる心配はなかった。
「私はセドリック。リュミニー子爵です。あなたは?」
「ジュリーです」
「どこのジュリー?」
「ロ……」
ロッティルド家の、といいかけて、ジュリーは口をつぐんだ。彼に知ってもらいたいのは自分のことではなかった。多くを語る必要はないと思った。
「今はただのジュリーと」
セドリックが腑に落ちない顔をしたのでジュリーは曖昧に笑ってごまかした。
「いずれ分かりますわ」
明確な回答をもらえるものとばかり思ってていたセドリックは拍子抜けした。しかしこの返答がかえって、セドリックの気持ちを掻き立てることになった。
彼は話題を変えて質問を続けた。
「夏の間は山荘に滞在を?」
「ええ」
ジュリーには当たり障りのない話と思われた。セドリックの方は、目の前の相手が、書置きした手紙の主かどうか確かめようとしていた。最初の曲が終わっても彼女の手を放さず、「もう一曲お相手を」と引き留めた。
彼は慎重に会話を重ねた。
「昼間のゲームにもよく参加を?」
「ええ」
「でも、それ以外にも、この山荘には見どころがたくさんあるでしょう?」
「そうですね。部屋の数も多いですし、どこも素晴らしいと思いますわ」
「ラグランジュ伯爵夫人はよい趣味をお持ちだ」
「ええ、本当に」
答えながら、会話が儀礼的な内容にとどまっていることに、ジュリーはほっとしていた。なんとか切り抜けてアナイスのもとに戻りたかった。
セドリックはいよいよ確信に触れる質問をしようとしていた。
「この山荘には、秘密の部屋があるんですよ。ご存じでした?」
「まあ、どんな?」
「二階の一番端に……使われなくなった大広間で、隣には小部屋もついている」
それを聞いて、ジュリーはアナイスとの秘密にしていた、例の小部屋のことを思った。
「その小部屋には肖像画が何枚もあって……ええと、確かラグランジュ伯爵夫人の若いころの姿だったかな……」
セドリックが、肖像画が誰のものだったか思い出せない、という素振りをみせた。ジュリーは親切にも助け船を出した。
「女性の絵ではなかったと思いますわ。男性だったように思います」
「ああ、そうでした。夫人ではなくて、伯爵様の方でしたね。確かに」
セドリックはうなずいた。ジュリーの答えに、彼女があの小部屋にいたことがあるのは間違いないと確信した。
熱っぽい視線を送ったがジュリーには気づかれなかった。
セドリックは気を取り直して言った。
「この前のゲームの日、あなたは窓の下に向かって、訪問客に手を振ってらっしゃいませんでしたか?」
「さあ、どうでしたか……」
雲行きがあやしくなってきたのをジュリーは感じた。
「その訪問客というのは私ですが……、あなたは、伯爵様の肖像画のある部屋にいて、そこから手を振ってくれた」
「そうだったかもしれません」
ダンスを踊るジュリーの足がとまった。
「あなたでしょう?」
セドリックは穏やかに微笑みかけた。
「……」
ジュリーは答えなかった。その部屋にいたことは事実。手を振ったのも自分に違いない。そうなのだが、それは自分のためではなくて、親友のためにとしたことだった。
「私もその直後、その部屋に行って、置かれたていたお手紙を見つけたのです」
セドリックの言葉に、ジュリーは愕然として彼を見上げた。セドリックは続けた。
「あなたはお手紙での約束の通りにしてくださった。こうしてお会いできてうれしく思います」
そしてジュリーの手に接吻した。
ジュリーはめまいがした。ああ、彼は、思い違いをしている!
ジュリーは気持ちが入らない上、そもそもダンスが得意ではなかった。セドリックのリードがなければ、何度でも足をぶつけたり、立ち止まってしまったりしたことだろう。彼の手はしっかりと彼女の手を握り、瞳は彼女の顔を見つめていた。
ジュリーは困惑していた。
よりによって私が、アナイスの恋する人とワルツを踊ることになるなんて。アナイスの気持ちはどうしたらいいのかしら?
それにさっきから探しているのに、アナイスの姿が見えない。どこへ行ってしまったの?
ジュリーの不安ととまどいが顔に出たに違いない。セドリックがおだやかに微笑みかけたのでジュリーもつられて愛想笑いを返した。二人で手は合わせ足は踊りながら、セドリックはジュリーに話しかけた。音楽と会場のざわめきのせいで、人に聞かれる心配はなかった。
「私はセドリック。リュミニー子爵です。あなたは?」
「ジュリーです」
「どこのジュリー?」
「ロ……」
ロッティルド家の、といいかけて、ジュリーは口をつぐんだ。彼に知ってもらいたいのは自分のことではなかった。多くを語る必要はないと思った。
「今はただのジュリーと」
セドリックが腑に落ちない顔をしたのでジュリーは曖昧に笑ってごまかした。
「いずれ分かりますわ」
明確な回答をもらえるものとばかり思ってていたセドリックは拍子抜けした。しかしこの返答がかえって、セドリックの気持ちを掻き立てることになった。
彼は話題を変えて質問を続けた。
「夏の間は山荘に滞在を?」
「ええ」
ジュリーには当たり障りのない話と思われた。セドリックの方は、目の前の相手が、書置きした手紙の主かどうか確かめようとしていた。最初の曲が終わっても彼女の手を放さず、「もう一曲お相手を」と引き留めた。
彼は慎重に会話を重ねた。
「昼間のゲームにもよく参加を?」
「ええ」
「でも、それ以外にも、この山荘には見どころがたくさんあるでしょう?」
「そうですね。部屋の数も多いですし、どこも素晴らしいと思いますわ」
「ラグランジュ伯爵夫人はよい趣味をお持ちだ」
「ええ、本当に」
答えながら、会話が儀礼的な内容にとどまっていることに、ジュリーはほっとしていた。なんとか切り抜けてアナイスのもとに戻りたかった。
セドリックはいよいよ確信に触れる質問をしようとしていた。
「この山荘には、秘密の部屋があるんですよ。ご存じでした?」
「まあ、どんな?」
「二階の一番端に……使われなくなった大広間で、隣には小部屋もついている」
それを聞いて、ジュリーはアナイスとの秘密にしていた、例の小部屋のことを思った。
「その小部屋には肖像画が何枚もあって……ええと、確かラグランジュ伯爵夫人の若いころの姿だったかな……」
セドリックが、肖像画が誰のものだったか思い出せない、という素振りをみせた。ジュリーは親切にも助け船を出した。
「女性の絵ではなかったと思いますわ。男性だったように思います」
「ああ、そうでした。夫人ではなくて、伯爵様の方でしたね。確かに」
セドリックはうなずいた。ジュリーの答えに、彼女があの小部屋にいたことがあるのは間違いないと確信した。
熱っぽい視線を送ったがジュリーには気づかれなかった。
セドリックは気を取り直して言った。
「この前のゲームの日、あなたは窓の下に向かって、訪問客に手を振ってらっしゃいませんでしたか?」
「さあ、どうでしたか……」
雲行きがあやしくなってきたのをジュリーは感じた。
「その訪問客というのは私ですが……、あなたは、伯爵様の肖像画のある部屋にいて、そこから手を振ってくれた」
「そうだったかもしれません」
ダンスを踊るジュリーの足がとまった。
「あなたでしょう?」
セドリックは穏やかに微笑みかけた。
「……」
ジュリーは答えなかった。その部屋にいたことは事実。手を振ったのも自分に違いない。そうなのだが、それは自分のためではなくて、親友のためにとしたことだった。
「私もその直後、その部屋に行って、置かれたていたお手紙を見つけたのです」
セドリックの言葉に、ジュリーは愕然として彼を見上げた。セドリックは続けた。
「あなたはお手紙での約束の通りにしてくださった。こうしてお会いできてうれしく思います」
そしてジュリーの手に接吻した。
ジュリーはめまいがした。ああ、彼は、思い違いをしている!
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