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2 舞踏会
2-4 行き違い
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セドリックはアナイスの書いた恋文を読んだに違いない。期せずして、今夜の舞踏会で、恋文に書かれた通りの状況が起きた。しかし、それはアナイスにではなくて、自分に対して起きてしまった!
それにしても、恋文の主がなぜ自分になってしまったのか、ジュリーは理解できなかった。アナイスの恋文には差出人の名前がなくて、それが一因になったことを、ジュリーは知らなかった。
「おっと、失礼」
ジュリーたちがダンスの人々の間で急に立ち止まったので、踊り続ける人が次々に二人にぶつかりそうになった。実際に何組かの踊り手がセドリックの背中にぶつかった。セドリックは青ざめたジュリーの顔見て、彼女が踊り疲れているのだと思った。それで彼女の手を引いてダンスの輪から抜けた。
セドリックはジュリーの手を引いたまま応接間へ行き、彼女をバルコニーに面したソファに座らせた。自分もその横に腰かけ、斜め向かいから彼女を見つめた。
「長々とダンスを……お疲れになりましたか」
「いいえ……あの、あなたはお手紙をお読みになりましたの?」
「あなたが下さったお手紙を」
セドリックはジュリーの両手を握った。ジュリーはさりげなく両手を引こうとしたが、できなかった。
「それについては、あの……私が書いたのではではありません」
「あなたではない?」
セドリックは驚いた顔をジュリーに向けた。しかし、先ほど彼女が素性を明らかにしてくれなかったのと同様に、何かの謎かけがあるのかもしれないと思い直した。
ジュリーは言葉をにごした。手紙を書いたのは自分でないと言ったところで、その先をどう説明していいか分からなかった。自分からアナイスの名前を出すのも気が引けた。
「私には親友がいまして……一緒に山荘に来ているのですが、彼女は私よりも遥かに文才があるのです」
「ええ」
セドリックは素直に相槌を打った。
「もし、お手紙がお気に召したとしたら、それは彼女が……」
ジュリーは、アナイスがその手紙を書いたのだと匂わせたかったのだが、結果はセドリックの誤解をますます強めることなった。彼が思ったのは、ジュリーが手紙を書く際に、文章の得意な親友に相談しながら、手紙を書いた、ということだった。
「あなたのお友達が、助けてくれたというわけですね?」
「いえ、助けてくれたというか……」
セドリックとジュリーは目を合わせた。真意が伝わらず、ジュリーはがっかりして目を伏せた。
「とにかく……私の友人とお話しになりましたなら、あなたも私の友人もきっと喜ぶと思うのです。この次はぜひお話しくださいませね」
「もちろん、よろこんで」
この時、バルコニーにいたエヴァンは二人の会話を聞いていた。セドリックは周囲に人気のないソファを選んだのだったが、カーテンの陰になってエヴァンには気づかなった。
エヴァンにはすぐに状況が理解できた。セドリックの勘違いと、必死になって軌道修正を試みるジュリー。事の次第を、自分が一番よく把握しているかもしれないと思うと、おかしな気分だった。
「ジュリー」
セドリックは呼びかけた。会話は続いていた。
「もしあなたのお気持ちがあのお手紙の通りなら……」
セドリックがやや強引に話題を戻そうとしたところで、エヴァンは二人の会話に割って入った。エヴァンはジュリーに向かって言った。
「失礼、あなたのお友達のことなのですが、先程お部屋に戻られたようなのです」
長椅子で向かい合っていた二人は、驚いて顔を見上げた。
それにしても、恋文の主がなぜ自分になってしまったのか、ジュリーは理解できなかった。アナイスの恋文には差出人の名前がなくて、それが一因になったことを、ジュリーは知らなかった。
「おっと、失礼」
ジュリーたちがダンスの人々の間で急に立ち止まったので、踊り続ける人が次々に二人にぶつかりそうになった。実際に何組かの踊り手がセドリックの背中にぶつかった。セドリックは青ざめたジュリーの顔見て、彼女が踊り疲れているのだと思った。それで彼女の手を引いてダンスの輪から抜けた。
セドリックはジュリーの手を引いたまま応接間へ行き、彼女をバルコニーに面したソファに座らせた。自分もその横に腰かけ、斜め向かいから彼女を見つめた。
「長々とダンスを……お疲れになりましたか」
「いいえ……あの、あなたはお手紙をお読みになりましたの?」
「あなたが下さったお手紙を」
セドリックはジュリーの両手を握った。ジュリーはさりげなく両手を引こうとしたが、できなかった。
「それについては、あの……私が書いたのではではありません」
「あなたではない?」
セドリックは驚いた顔をジュリーに向けた。しかし、先ほど彼女が素性を明らかにしてくれなかったのと同様に、何かの謎かけがあるのかもしれないと思い直した。
ジュリーは言葉をにごした。手紙を書いたのは自分でないと言ったところで、その先をどう説明していいか分からなかった。自分からアナイスの名前を出すのも気が引けた。
「私には親友がいまして……一緒に山荘に来ているのですが、彼女は私よりも遥かに文才があるのです」
「ええ」
セドリックは素直に相槌を打った。
「もし、お手紙がお気に召したとしたら、それは彼女が……」
ジュリーは、アナイスがその手紙を書いたのだと匂わせたかったのだが、結果はセドリックの誤解をますます強めることなった。彼が思ったのは、ジュリーが手紙を書く際に、文章の得意な親友に相談しながら、手紙を書いた、ということだった。
「あなたのお友達が、助けてくれたというわけですね?」
「いえ、助けてくれたというか……」
セドリックとジュリーは目を合わせた。真意が伝わらず、ジュリーはがっかりして目を伏せた。
「とにかく……私の友人とお話しになりましたなら、あなたも私の友人もきっと喜ぶと思うのです。この次はぜひお話しくださいませね」
「もちろん、よろこんで」
この時、バルコニーにいたエヴァンは二人の会話を聞いていた。セドリックは周囲に人気のないソファを選んだのだったが、カーテンの陰になってエヴァンには気づかなった。
エヴァンにはすぐに状況が理解できた。セドリックの勘違いと、必死になって軌道修正を試みるジュリー。事の次第を、自分が一番よく把握しているかもしれないと思うと、おかしな気分だった。
「ジュリー」
セドリックは呼びかけた。会話は続いていた。
「もしあなたのお気持ちがあのお手紙の通りなら……」
セドリックがやや強引に話題を戻そうとしたところで、エヴァンは二人の会話に割って入った。エヴァンはジュリーに向かって言った。
「失礼、あなたのお友達のことなのですが、先程お部屋に戻られたようなのです」
長椅子で向かい合っていた二人は、驚いて顔を見上げた。
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