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4 新たな客
4-2 高貴な客人
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アナイスたちもゲームを切り上げ、「高貴な方」の到着を待つ玄関へと向かった。すでに玄関に続く大階段とその周辺に客人たちが集まり、噂話に興じる声や笑い声が吹き抜けの天井に響いていた。
「リュミニー子爵、君はこちらへ」
玄関の扉付近にいた男が、セドリックの姿を見つけて手招きした。その男の年はセドリックより少し上くらいに見えた。顎回りに髭をはやし、威厳を感じさせる風貌だった。
「ああ、あなたでしたか」
呼ばれたセドリックは、アナイスたちから離れた。
「あなたから子爵と呼ばれるのは変な気分だ」
称号ではなく名前で呼び合う仲だつた。
「すまない。今日の場合は公式の立場が優先するのでね」
「どういうことです」
「……が来てるんだ」
「えっ。また唐突な……」
「彼女たちらしいというべきか。……ところで君の連れはどこに行った?」
いつのまにかエヴァンの姿もどこかに消えてしまった。ジュリーとアナイスの位置からは、何事かを言われて、驚いたように眉を上げるセドリックの様子が見えた。
期せずして噂好きの客人たちに取り囲まれていた。
「グラモン侯爵よ」
セドリックを呼びつけた男について、誰かが教えてくれた。近隣の有力貴族で、ラグランジュ夫人とも親交がある。山荘の客人たちが侯爵を揃って訪問した日、たまたま馬車がなくてジュリーたちは訪問できず、面識がなかった。
「侯爵は女たらしだから気をつけなさいって」
「最愛の奥様に先立たれて以来、誰彼構わず言い寄っているんですって」
と、余計な評判まで教えてくれた。
ひそひそと囁き合った後、また別の誰かがジュリーに向かって言った。
「でもあなたは大丈夫ね。決まった相手がいるんだもの」
「グラモン侯爵が一目置くような相手がね」
「え……?」
ジュリーは戸惑った。ジュリーには何のことか分からなかったが、アナイスはそれが当て擦りと理解して、腹を立てた。ジュリーがセドリックと親密なので、それをねたんでいるに違いなかった。
アナイスが彼女たちに何か言い返してやろうかと思っていると、ジュリーが先に口を開いた。
「私にはよくわからないのだけど、みなさまがそう言ってくださるのならきっと安心ですね。ありがとうございます」
ジュリーは心からそう思っているようだった。アナイスも、女たちも、一瞬で押し黙った。何も言い返せなくなってしまった。
ジュリーはそんな女たちの様子にはお構いなしに尋ねた。
「今日のお客様はどなたなのかしら」
「ベルシー女公爵と公爵令嬢ですって、ほら、国王陛下の妹君よ」
「音楽好きの方々だから、ラグランジュ夫人が招待したのね」
「明後日の音楽夜会に?」
「そう」
「音楽夜会は、それはそれは豪華な顔ぶれらしいわよ、宮廷音楽家のドゥラエも、ピアニストの……も来るんですって。それから歌手の……」
「あら、私たちはそんな人たちの前で歌うのね……」
話ははずんだ。
ついに四頭立ての馬車が到着し、車係と執事とが出迎えに向かった。
豪華な箱馬車なのに、表には家柄を示すものがなかった。その馬車はお忍び用だった。
馬車の扉が開いて中から女性が二人降りた。
グラモン侯爵とセドリックが駆け寄って、年上のグラモン侯爵が女公爵の、セドリックが公爵令嬢の手をとった。この二人が来客の出迎えに出たのは、「客人たちの中で最も格が高いから」だと、また誰かが教えてくれた。
来客と出迎えの二人ずつ、手を取りながら、正面玄関までの階段をゆっくりと上がった。
女公爵と令嬢が玄関まで来ると、使用人たちが一斉に頭を下げた。客人たちもそれに従った。ジュリーとアナイスも、膝を折って礼を尽くした。
屋敷の中に入ってからはラグランジュ夫人が高貴な客人を案内し、三人の姿が応接の間の向こうへと消えて行った。部屋の扉が閉められ、それを見届けて、使用人たちも客人たちも解散した。
いつのまにかセドリックがエヴァンの元に駆け寄っていた。二人は小さな声で話しをしていた。「エリザベットが……」と聞こえたが、これは令嬢の名前のようだった。
ジュリーもアナイスも気になることがあったが、この日はそれ以上知ることはできなかった。
「リュミニー子爵、君はこちらへ」
玄関の扉付近にいた男が、セドリックの姿を見つけて手招きした。その男の年はセドリックより少し上くらいに見えた。顎回りに髭をはやし、威厳を感じさせる風貌だった。
「ああ、あなたでしたか」
呼ばれたセドリックは、アナイスたちから離れた。
「あなたから子爵と呼ばれるのは変な気分だ」
称号ではなく名前で呼び合う仲だつた。
「すまない。今日の場合は公式の立場が優先するのでね」
「どういうことです」
「……が来てるんだ」
「えっ。また唐突な……」
「彼女たちらしいというべきか。……ところで君の連れはどこに行った?」
いつのまにかエヴァンの姿もどこかに消えてしまった。ジュリーとアナイスの位置からは、何事かを言われて、驚いたように眉を上げるセドリックの様子が見えた。
期せずして噂好きの客人たちに取り囲まれていた。
「グラモン侯爵よ」
セドリックを呼びつけた男について、誰かが教えてくれた。近隣の有力貴族で、ラグランジュ夫人とも親交がある。山荘の客人たちが侯爵を揃って訪問した日、たまたま馬車がなくてジュリーたちは訪問できず、面識がなかった。
「侯爵は女たらしだから気をつけなさいって」
「最愛の奥様に先立たれて以来、誰彼構わず言い寄っているんですって」
と、余計な評判まで教えてくれた。
ひそひそと囁き合った後、また別の誰かがジュリーに向かって言った。
「でもあなたは大丈夫ね。決まった相手がいるんだもの」
「グラモン侯爵が一目置くような相手がね」
「え……?」
ジュリーは戸惑った。ジュリーには何のことか分からなかったが、アナイスはそれが当て擦りと理解して、腹を立てた。ジュリーがセドリックと親密なので、それをねたんでいるに違いなかった。
アナイスが彼女たちに何か言い返してやろうかと思っていると、ジュリーが先に口を開いた。
「私にはよくわからないのだけど、みなさまがそう言ってくださるのならきっと安心ですね。ありがとうございます」
ジュリーは心からそう思っているようだった。アナイスも、女たちも、一瞬で押し黙った。何も言い返せなくなってしまった。
ジュリーはそんな女たちの様子にはお構いなしに尋ねた。
「今日のお客様はどなたなのかしら」
「ベルシー女公爵と公爵令嬢ですって、ほら、国王陛下の妹君よ」
「音楽好きの方々だから、ラグランジュ夫人が招待したのね」
「明後日の音楽夜会に?」
「そう」
「音楽夜会は、それはそれは豪華な顔ぶれらしいわよ、宮廷音楽家のドゥラエも、ピアニストの……も来るんですって。それから歌手の……」
「あら、私たちはそんな人たちの前で歌うのね……」
話ははずんだ。
ついに四頭立ての馬車が到着し、車係と執事とが出迎えに向かった。
豪華な箱馬車なのに、表には家柄を示すものがなかった。その馬車はお忍び用だった。
馬車の扉が開いて中から女性が二人降りた。
グラモン侯爵とセドリックが駆け寄って、年上のグラモン侯爵が女公爵の、セドリックが公爵令嬢の手をとった。この二人が来客の出迎えに出たのは、「客人たちの中で最も格が高いから」だと、また誰かが教えてくれた。
来客と出迎えの二人ずつ、手を取りながら、正面玄関までの階段をゆっくりと上がった。
女公爵と令嬢が玄関まで来ると、使用人たちが一斉に頭を下げた。客人たちもそれに従った。ジュリーとアナイスも、膝を折って礼を尽くした。
屋敷の中に入ってからはラグランジュ夫人が高貴な客人を案内し、三人の姿が応接の間の向こうへと消えて行った。部屋の扉が閉められ、それを見届けて、使用人たちも客人たちも解散した。
いつのまにかセドリックがエヴァンの元に駆け寄っていた。二人は小さな声で話しをしていた。「エリザベットが……」と聞こえたが、これは令嬢の名前のようだった。
ジュリーもアナイスも気になることがあったが、この日はそれ以上知ることはできなかった。
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