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1章 たびだち
猿の話
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「おい、猿! 何のつもりだ!」
桃太郎は声を荒げる。
でも、鬼かと思っていた先ほどまでと比べると
恐怖はない。
猿は大人ではない。自分と同じ若さの残る容貌に見える。
そして、きびだんごをもぐもぐしたまま、赤い着物を脱ぐ。
そこにはフッサフサの毛並みの茶色い猿がいた。
「答えろ!桃太郎さまの大事なきびだんごなんだぞ!」
犬次郎も猿に向かって、吠え掛かる。
「いえね、俺も腹が減っていましてね、生きる為には仕方なしでしょう?」
猿は悪びれる様子もない。怖くはないがいまいましさのあるしゃべり方だ。
「そして、人の言葉が話せるようになるなんて――神の思し召しとか思えない。
猿神さま、きびだんごをありがとう―――っ!」
猿は自分の世界に入っているのか、桃太郎たちを無視している。
「人の言葉が話せれば、もっとうまく物事が進むぞ!」
ひとり言にしては大声で猿はいう。
「こいつ、自分に酔うタイプか?」
桃太郎は半分は呆れ、半分は好奇心に猿への気持ちが変わっている。
「おい、残りを返せ!」
犬次郎が荒い声で繰り返す。
猿は犬次郎の方をちらと見て、小ばかにした表情を浮かべる。
「どこでも犬は、犬ですねえ。使いッ走りがよく似合う」
「なんだと!」
犬次郎は激高する。
犬という言葉は使い方次第で、相手をとことん馬鹿にできる。
「きびだんごはお返ししますよ、え~あなた。桃太郎でしたっけ?」
猿はそろりそろりと犬次郎を伺いながら、桃太郎に近寄る。
そして、残りのきびだんごの入った包みを両手で持ち、渡す。
偉そうな物言いだが、包みの渡し方は丁寧だ。
桃太郎は、猿の両腕が傷だらけなのに気づく。
「何だよ、この傷」
猿の腕をつかんだまま、傷を見る。新しい傷だった。
「これ、擦り傷でも刀傷でもないな。何でやられた?」
「大したものじゃないですよ、鬼のこん棒を受けて―――」
「鬼? お前も鬼と戦っているのか?」
猿は驚いたような表情を浮かべる。
「桃太郎もなのか?」
「僕も犬次郎も、鬼退治に行くところなんだ」
「鬼を退治だって!」
桃太郎は自分と犬次郎の境遇をさっとかいつまんで伝える。
「・・・そうだったのか」
今度はしおらしい声に変わる、猿。
「お前、名前は?」
「俺は猿太《さるた》」
「さっき聞いたと思うけど、僕は桃太郎、こいつは犬次郎」
桃太郎はまだ話したくはないだろう犬次郎の分も自己紹介する。
「嫌なことは言わなくていいから、なんで鬼のこん棒を
受けたのか教えてくれないか」
猿太は、犬次郎の時と同じようにうつむく。
「姉と妹を殺されました―――」
激高したまま、怒りを収めていなかった犬次郎が少し気持ちを和らげている。
そこからは猿太の話をしばらく聞くことになった。
桃太郎は、可哀想な話に簡単に相槌も打てず、立ち尽くしながら聞くだけだった。
しかし鬼が犬や猿まで襲うことを知り、鬼の残虐さや、活動範囲の広さに戦慄した。
「・・・こんなところです。聞いてくれてありがとう」
猿太は話し終える。
「犬次郎と近いね、猿太の境遇は」
猿太はちらと犬次郎を見るが、境遇が一緒と聞いても打ち解けた感はまだない。
桃太郎は一瞬、犬次郎と猿太の間に流れる空気感を感じて、
躊躇を感じるが、
「猿太、僕たちと鬼退治に行かないか?」
「鬼退治、俺はひとりでやろうと思っていたけどね」
猿太は強がる。
「お前、鬼3匹にやられまくったんだろう? 死ななかったことはすごいけど、
無理だよ。マジで。一緒に行こう」
桃太郎は再び誘う。
「なあ、犬次郎。いいだろ?」
「桃太郎さまがいいというのならば、僕は従います」
「決まり!猿太、鬼が島へ向かおう!」
猿太が仲間になった。
桃太郎は声を荒げる。
でも、鬼かと思っていた先ほどまでと比べると
恐怖はない。
猿は大人ではない。自分と同じ若さの残る容貌に見える。
そして、きびだんごをもぐもぐしたまま、赤い着物を脱ぐ。
そこにはフッサフサの毛並みの茶色い猿がいた。
「答えろ!桃太郎さまの大事なきびだんごなんだぞ!」
犬次郎も猿に向かって、吠え掛かる。
「いえね、俺も腹が減っていましてね、生きる為には仕方なしでしょう?」
猿は悪びれる様子もない。怖くはないがいまいましさのあるしゃべり方だ。
「そして、人の言葉が話せるようになるなんて――神の思し召しとか思えない。
猿神さま、きびだんごをありがとう―――っ!」
猿は自分の世界に入っているのか、桃太郎たちを無視している。
「人の言葉が話せれば、もっとうまく物事が進むぞ!」
ひとり言にしては大声で猿はいう。
「こいつ、自分に酔うタイプか?」
桃太郎は半分は呆れ、半分は好奇心に猿への気持ちが変わっている。
「おい、残りを返せ!」
犬次郎が荒い声で繰り返す。
猿は犬次郎の方をちらと見て、小ばかにした表情を浮かべる。
「どこでも犬は、犬ですねえ。使いッ走りがよく似合う」
「なんだと!」
犬次郎は激高する。
犬という言葉は使い方次第で、相手をとことん馬鹿にできる。
「きびだんごはお返ししますよ、え~あなた。桃太郎でしたっけ?」
猿はそろりそろりと犬次郎を伺いながら、桃太郎に近寄る。
そして、残りのきびだんごの入った包みを両手で持ち、渡す。
偉そうな物言いだが、包みの渡し方は丁寧だ。
桃太郎は、猿の両腕が傷だらけなのに気づく。
「何だよ、この傷」
猿の腕をつかんだまま、傷を見る。新しい傷だった。
「これ、擦り傷でも刀傷でもないな。何でやられた?」
「大したものじゃないですよ、鬼のこん棒を受けて―――」
「鬼? お前も鬼と戦っているのか?」
猿は驚いたような表情を浮かべる。
「桃太郎もなのか?」
「僕も犬次郎も、鬼退治に行くところなんだ」
「鬼を退治だって!」
桃太郎は自分と犬次郎の境遇をさっとかいつまんで伝える。
「・・・そうだったのか」
今度はしおらしい声に変わる、猿。
「お前、名前は?」
「俺は猿太《さるた》」
「さっき聞いたと思うけど、僕は桃太郎、こいつは犬次郎」
桃太郎はまだ話したくはないだろう犬次郎の分も自己紹介する。
「嫌なことは言わなくていいから、なんで鬼のこん棒を
受けたのか教えてくれないか」
猿太は、犬次郎の時と同じようにうつむく。
「姉と妹を殺されました―――」
激高したまま、怒りを収めていなかった犬次郎が少し気持ちを和らげている。
そこからは猿太の話をしばらく聞くことになった。
桃太郎は、可哀想な話に簡単に相槌も打てず、立ち尽くしながら聞くだけだった。
しかし鬼が犬や猿まで襲うことを知り、鬼の残虐さや、活動範囲の広さに戦慄した。
「・・・こんなところです。聞いてくれてありがとう」
猿太は話し終える。
「犬次郎と近いね、猿太の境遇は」
猿太はちらと犬次郎を見るが、境遇が一緒と聞いても打ち解けた感はまだない。
桃太郎は一瞬、犬次郎と猿太の間に流れる空気感を感じて、
躊躇を感じるが、
「猿太、僕たちと鬼退治に行かないか?」
「鬼退治、俺はひとりでやろうと思っていたけどね」
猿太は強がる。
「お前、鬼3匹にやられまくったんだろう? 死ななかったことはすごいけど、
無理だよ。マジで。一緒に行こう」
桃太郎は再び誘う。
「なあ、犬次郎。いいだろ?」
「桃太郎さまがいいというのならば、僕は従います」
「決まり!猿太、鬼が島へ向かおう!」
猿太が仲間になった。
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