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5話
しおりを挟む「すみません、ご馳走になっちゃって」
「良いお店を教えてもらえたからね。それに違反したお陰で今日はこんな可愛い娘とデート出来たしな」
「童顔…の間違いでは?」
「あやにゃん、そこ自分で言うと負けた気にならないか?」
「あはは…」
アタシは薄く笑った。
青木さんは、そんなアタシの頭をポンポンと軽く叩くと「ちょっと提案があるのだけど」と映画を花見に変更しようよ、と言い出した。
「朝一番の映画ならばまだ封切りしたばかりだろう?」
「まあ、そうですけど…」
「桜は一週間しか持たないから映画は来週にしときなよ。そして今日は花見日和だ」
「確かに…」
「そうと決まれば早速…」
青木さんは携帯を取り出して検索をかけた。
「あ、ここ、いいじゃん。M神社の方、屋台が出てるって」
「あ、そこは…」
前の彼氏に振られた場所だ。
黙り込んだアタシを同意と見なしたのか、行くぞ、の掛け声で青木さんはバイクに跨った。
ドルンドルンとエンジンの音が響き、飛ぶように発進した。
なんか、あやちゃんてさ、夢見がちなところがあってさ、君には自覚無いかもしれないけど、俺、そういうのは苦手だから別れてくれ。
昨年のM神社でのお花見。
りんご飴を買って元彼の所に戻った時に言われた言葉がアタシをいまだに蝕む。
行き先を失ったりんご飴。
ショックで落として蟻に食べられちゃった…。
やっぱりM神社は無理!アタシは青木さんの後ろでぎゅっと目を瞑った。
アタシの葛藤に関係なくバイクはM神社に着いた。
「わあ!屋台がたくさんあるなあ。後で腹が減ったらなんか食べような」
「う…ん」
「さあ、花見だ花見。あやにゃん、行こう!」
青木さんはアタシの手を引いて歩き出した。
まるで保護者に手を引かれた子どもみたいだ。昨年の事を思い出して涙で桜が霞む。
そんなアタシの様子に青木さんはやっと気がついた。
「あやにゃん?元気ないな。オレと花見は嫌だった?」
「ううん、そんな事は…」
駄目、溢れてくるものを止められない!
「こっちおいで。あまり人がいないから」
青木さんはアタシの手を握り神社の階段を登った。
「足元気をつけて」
「ありがとうございます」
境内は人がまばらだった。
高台に近い所にひときわ立派な桜の木があり
風に梢が揺れるとピンクの花が揺れてとても綺麗だ。
枝の間から見える青空が広がって泣いた目に沁みた。
「で、察するに、ここで何か良くない事があったのか?」
「う…ん。あのね、りんご飴を二人分買ったの。食べてもらえなくて蟻にあげちゃった」
上を向いていないと涙が溢れそうで、アタシは桜を見るふりをしながら返答した。
それで、アタシの失恋を青木さんは察したようで、またぽんぽんと頭を叩かれた。
「そんな事は誰にでもある。特別な事じゃないさ。特別で無いなら記憶に留める必要はない。忘れろ」
「うん、そうだね」
「そうさ、桜は同じように見えても去年の桜とは違う。今年生まれた桜だ。あやにゃんもそうさ!今年の春に生まれたあやにゃん、て事にしておこうよ」
優しい言葉に気持ちが緩む。
堪えていた涙がどっと溢れ両手で顔を覆った。
「一人で泣くなよ。せめて胸を貸すから」
そんな言葉を聞いたのか聞かなかったのか、次の瞬間アタシは青木さんの胸を借りて泣いていた。
6話につづく
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