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8話
しおりを挟む青木さんに教えてもらったおとぎ話の続きはこうだった。
子狐が、おでん屋さんの小さなのぼりを背中にくくりつけて現れる。
もし、ソレが自分の前に現れたら断ると祟られるから着いて行くしかない。
そして、お店に着くまでは子狐と手を離してはいけない。妖怪達は人間の魂を食べるのが大好きなので、子狐と手を繋ぐことで目くらましの役割をはたしている。
お店では何を食べてもお代はいらないが、残さずに食べること。残すと食べ物を粗末にしたと親父殿の説教が始まる。
妖怪界は時間の流れがゆっくりなので、親父の説教が終わる頃に人間界では知り合い縁者の寿命が尽きてしまったということもあり得る。
お代の替わりに人間界に戻ったらどこの神社でも良いので、油揚げをお供えする事。
これが一連の流れ。
「それが夜桜と関係が?」
「桜の季節しか扉が開かない」
「それは夜限定?」
「だそうだよ」
「妖怪界はおでん屋さんがあるから着いたってわかるけど、こっちに帰ってきた時はどうやってわかるの?」
「言葉で説明するよりも実践の方がわかりやすいから、今からオレは子狐役、君は人間役だ」
「面白そう!」
「じゃあ、目を瞑って…」
「なぜ?」
「今まで妖怪界のおでんの屋台にいたんだ。君の身体には数匹、妖怪がくっついている。それを払う時に目を開けていると、目から身体の中に逃げ込まれてしまうぞー」
「それはやだー!」
「じゃあ、目を瞑るんだ」
青木さんの声には笑いが含まれていた。
「子狐は、玉串で上から払っていく。ちょうど雨に濡れた時にタオルで雨粒を拭き取る順番によく似ている」
「じゃあ、頭から?」
「そう、頭からこうやってそっと…」
青木さんの手が頭に触れた。
本当にそっと…。
「次に肩、背中」
そこからは言葉だけだった。
胸、腹、足、最後は顔…。
「顔も?」
「そうだよ、妖怪が最後に張り付くのが顔だから目も口も閉じて。耳は指示されたら手で塞ぐ。順番からいくと鼻からだな」
じゃあ、真似事ね、と青木さんの手が軽く鼻に触れたのでなんだか照れ臭くてアタシはクスクス笑ってしまった。
「それから耳、はい、手を退けて。次は?に口だ…よ」
?が包み込まれ、くちびるに指先が触れた途端、甘い旋律が身体を走り抜け目を空けそうになったところ青木さんの大きな手で目隠しをされた。
「まだ…。あと少し」
再びくちびるに指先?
煙草の匂い…。
考えようとする間も与えられず目隠しが外され瞼をひと撫でされた。
「人間のお客様、油揚げを忘れないでね、そう言って子狐は桜の幹の中に消えました。今年のおでん屋さんは本日を持って閉店です。で、物語はおしまいさ。ハイ、目を開けて」
そろり、と目を空けるとあたりは夕方の気配が忍び寄り始めていた。
「行こうか」
「ハイ」
その後、映画館にアタシのバイクを取りに行きそこで青木さんと別れた。
通りすがっただけの青木さん、もう会えない…
一抹の寂しさが胸をよぎった。
あとから連絡先を聞いておけば良かったと後悔したけれど、その時は彼にかける適切な言葉が見つからなくて別れてしまった。
9話につづく
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