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87話 生きる理由
しおりを挟む屋敷に戻りシュエルの元へと向かう。
アーノルドは紅葉の身体検査と魔力検査をするからと紅葉を連れて出て行った。
コンコンとノックをすると、リザードマンの使用人さんが出迎えてくれて、多分ニコリと微笑んで部屋の外へと下がってくれた。
(…………男の人?大っきいし……)
そんな事を考えながら部屋の中へと進むと、シュエルはまた窓の外を眺めている。その横顔は寂しそうだ。
(……………シュエルさん……)
直ぐにシュエルはハルミに気づいて、顔をこちらに向けると微笑む。しかし、やはりいつもより元気が無い。ほんの少し怯えの色がその瞳に宿っている。
(…………………断られるって思ってるのかなぁ?……………。)
そっと近づいて、すぐ側のソファーに腰掛けて笑顔を向けると、シュエルはホッとした様に小さく息を吐いている。
「おかえりなさいませ、ハルミ様。……………マッサージでしょうか?」
そう言って、ニコッと微笑むシュエルは美しい。
(………………シュエルさんの子供、…………絶対に可愛いよね。………本当なら前の奥さんと作る筈だったんだよね?もしかして子供好きなのかなぁ………。…………それなら元奥さんの代わりだとしても、産んであげたいな………)
シュエルは生きた証を残したいと言った、それにハルミとの子が欲しいとも。でも本当なら、病気にもならず、前の奥さんと何事も無く子を作れるのが、一番幸せだったんじゃ無いかなと思う。聞いた話では奥さんも元主人もクソだと思うが、シュエルにとっては20年共に旅をした相手だ。今こうしてハルミに好意を向けてくれているのも
その代わり………、ハルミに対する好意や気持ちは、辛い時に手を差し伸べて貰えたから………、ほんの少し勘違いしているんだと思う。きっと感謝の気持ちと愛情がごっちゃになっているのだ。
(……………私もアーノルドさんから、最後までずっと一緒って言われて嬉しかった………シュエルさんもそうなんだよね?……………………だから勘違いしちゃったのかな)
ある意味では、シュエルの命をハルミが握っているような物だ。ストックホルム症候群の様な物じゃないかなとハルミは思う。シュエルはハルミに好かれないと生きてはいけない。それを無意識に分かっているのだ。だから、ハルミに好意が有ると思い込んでいる。
(…………………それなら、せめて………お願いくらいは聞いてあげたい。………幸せにするって決めたもん。それに……チートもお金も……何も無い、お金は結局はベルのだし、今のこの何不自由ない生活もアーノルドさんのお陰。本当の意味で、私が何かしてあげられる事なんて………子供を産む事くらいだし)
そう思ってハルミは口を開く。
「シュエルさん。…………………今すぐには無理ですけど、私……シュエルさんの子供産みたいです」
▷▷▷▷▷▷
「は、ハルミ様…………。本当で……御座いますか?………っ…………」
ポロリポロリとシュエルの美しい瞳から涙が溢れる。
「あ…………わたくしはぁ、とても………嬉しい…………」
長い睫毛を震わせて、美しい唇も感極まった様に震えている。
「シュエルさん…………泣かないで」
そっと近づき、ちゅっ、ちゅっ、とキスを顔中に降らせるとシュエルはうっとりと瞳を閉じた。
「はるみさま………はるみさま♡………嗚呼、今この幸福なまま……死んでしまいたい…………」
シュエルはそんな事を言う。だからハルミはクスクスと笑う。
「駄目です…………、子供見るまで死んじゃだめですよ………」
ぎゅうっと頭を抱きしめるとシュエルもクスクスと笑った。
「ええ。そうでございました。貴女様とわたくしの子、きっととても可愛らしい………。この目で見るまでは……死ねませんねぇ」
二人クスクスと笑い合う。
「そうですよ。………………シュエルさん。…………ただ、その……あと少しだけ待って欲しいんです。私…………ケジメを付けないと……行けないんです」
ハルミはそう告げてから、ベルとの事をシュエルに話す事にした。
「ケジメ?ですか?」
シュエルは不思議そうな顔だ。
「はい……………。シュエルさん、私ね、この世界に来て、一番最初に出会った人の事を好き……。ううん。愛してるんです………」
そう告げるとシュエルの眉がピクリと動く。
「………………保護者の方?………確か今は入院なされていて、昨日お見舞いに行かれてましたね………。……………恋人……でしょうか?それなのに………わたくしとの子を?………よろしいのでしょうか?」
シュエルの声は暗い。
「シュエルさん………、誤解はしないでくださいね。その人には………恋人も愛人も……四人も居るんです……。近々子供も作るんだって……言ってました。………………私が一方的に好きになって、それで勝手に失恋したんです………」
そう告げるとまたシュエルの眉はピクリと動く。
「……………へぇ……それは随分と…おモテになる……。とても素敵な方なのでしょうねぇ……。……………………………勝手に失恋とは?」
シュエルからの問いかけにハルミは一度息を吸って吐く。声が震えないように気をつけながら口を開く。
「……………愛人さんが居るのは、少し前に知ってて。それでも私………好きでした。……………奥さんが居ても愛人さんが居ても、それでも良いって……思ってたんです。側に居られたらって………。でも昨日………その内の一人、……多分ベルの本命の人。愛してる女性にたまたま会って………、彼女凄く綺麗でスタイルも良くて……………………それ見ちゃったらなんだか、自分が馬鹿みたいで……っ……もしかしたら少しは……、側にいれば私の事も好きになってくれるんじゃないかって………。精液摂取も……頻繁に、してくれました。だから向こうからも求めてくれてる気がしてて……でも全部責任感や義務感でした。…………最初から私の入るスキなんて無かったのに………。責任感や義務感で優しくされてたのに、私勘違いしちゃって…………ぅ………、…………………ふふ。勝手に勘違いして、勝手に失恋して馬鹿ですよね私……」
「…………ハルミ様。ですがそれなら…………ハルミ様も………結婚を望めば良かったのでは?…………重婚もお互いの同意が有れば大丈夫で御座いますよ………。その方は既にお相手が四人もいらっしゃるんでしょう?それなら一人増えても問題は無いのでは?………貴女様の様な素敵な女性が結婚を望めば……その方も断るなんてあり得ませんよ…………」
そう言うシュエルに、ハルミは苦笑して首を振る。
「…………………無理です。………あんな素敵な女性と愛し合っている所に、………割り込んだり邪魔なんて出来ない。…………きっと他の愛人さん……奥さん達も凄く綺麗な筈です…………。…………それに本当に愛して貰えないなんて辛い………、ベルは優しいから………だからきっと私が望めば側に置いてくれるけど…………、そんなの嫌なんです。きっと他の人と比べて苦しくなります……」
そう告げてからしゅんと下を向く。
(………………こうして口に出すと、本当に私って……勝手だなぁ……)
「…………………ハルミ様?…………ではケジメとは?」
シュエルからの問にハルミは顔を上げる。
「………………本人に気持ちを伝えて……ちゃんと振られます。……そうしないと前に進めないので…………、ごめんなさい。シュエルさん、なので………もう暫くは待って欲しいです。私もまだ気持ちの整理が出来てなくて………彼の退院までには会いに行って全部伝えようって………思ってて、それが終わってからシュエルさんと、ちゃんと子づくりしたいです」
そう告げるとシュエルは複雑そうな顔をした。
(………………呆れられたかな?)
ハルミの言い分はだいぶ身勝手だ。シュエルも目が覚めたんじゃないかな?そんな風に考えていると、シュエルはフッと微笑んだ。
「………………………構いません。それでもわたくしはぁ、貴女様との子が欲しい………。……長くとも後2ヶ月程で御座いますよね?それならば待つのもなんの苦ではございません……………、ハルミ様。こんな奴隷の我儘を聞いて頂きありがとうございます」
そう言ってシュエルは首だけでペコリと頭を下げた。
「シュエルさん………ごめんなさい、私………勝手な事ばかり言って…」
ハルミが謝るとシュエルは緩く首を振る
「いいえ……いいえ。……………良いのです。………………貴女様がわたくしの子を産んでくださる。それだけで………わたくしは天にも上る気持ちでございます……。その保護者様は………なんとも……見る目が無いですね。…………貴女様を愛さないなんて……………………、ハルミ様。キスをしてくださいませんか?貴女様と沢山キスをしたい」
そう言うシュエルに、もう一度心の中で謝ってハルミは顔を近づける。
(ごめんなさいシュエルさん。でも…………本当に今は貴方の子供を産みたいです。……そうしたらこの世界で生きて行く理由が私にも出来るから………………………………。…………貴方を利用して………ごめんなさい)
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