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4話 同棲開始
しおりを挟む「ミキ。私の妻………。」
うっとりと名前を呼ばれて美姫はまた顔が真っ赤に染まる。こんなイケメンから甘い声で名を呼ばれるなんて一生無いと思っていた。
「あ、あの?つ、妻って…。あの?どうして私なんですか?」
吃りながらもなんとか質問をするとアンノウンはクスリと笑った。
「何故?そんなのは愚問です。私は貴女に一目で心を奪われました。妻に迎えたいとそう思い、そしてその機会が与えられた。だから貴女を妻に迎えます。……貴女だって嫌がっては居ないでしょう?顔が真っ赤だ。それに貴女の命を私は救いました。…………だから貴女は私のモノです」
クスクスとアンノウンは笑う。その姿に周囲は目を剥いている。
「…………驚いたな。アンノウンがあの様に感情を顕にするとは」
「やはり、彼の願いは聞き入れるべきでしょう。彼女には悪いですが、一生贅沢が出来るだけの手当も付きますし。アンノウンもあの様子なら彼女にとっても悪い話では無いのではないでしょうか?幸せになれますよ。」
美姫をそっちのけで繰り広げられる大人達の会話が聞こえているのに美姫はなんの反論も出来ず、アンノウンの膝の上で静かに体を震わせていた。恐怖からでは無い。今美姫の体を震わせている感情は歓喜だ。人間離れした美貌の男に妻に迎えると言われて大事そうに後ろから優しく抱きしめられているのだ。それも自分の命を救ってくれた人だ。
(っ………そりゃ今までこう言う展開を夢に見なかった訳じゃないけど。でも現実に起こるとどうしたら良いの?……っアンノウン。綺麗…………)
そっと視線を向けるとアンノウンの横顔が美姫の顔のすぐ横に有る。シミ一つない。陶器のような真っ白な肌には少しの赤味が差している。長い睫毛に縁取られた黄金色に輝く硝子玉の様な不思議な瞳が美姫の方を向いて視線が絡み合う。アンノウンの瞳は美姫に対して愛おしいとそう告げている。恋愛経験の無い美姫ですらわかる程の愛がそこには溢れている。胸はドクンドクンとうるさい程に高鳴って体はふるふると震えを増した。
(うわぁぁぁぁ。夢みたい、こんな人が私を?妻に?………一目惚れ?それって本当なのかな?)
じっと見つめるとアンノウンの瞳は細められる。頬の赤味も更にその色を濃くした。トクントクンと早くなったアンノウンの鼓動が背中に伝わって来て美姫はまた歓喜に震えた。
(うわぁ。これ、きっと本気だ。この人私の事、好きなんだ。もしかして刷り込み……とか?初めてこの世界で見た私に愛情を抱いたとか?ヒヨコの刷り込みみたいな)
そんな風に考えて美姫は神に感謝した。容姿のせいで恋愛なんて諦めて居た。だけど本当は憧れていた。少女漫画や恋愛映画。乙女ゲームなんかも大好きだ。何度も妄想した事はある。優しいイケメンから何故か溺愛されて幸せになると言う妄想を。その妄想が現実になったのだ。
(なんだか良くわからないけど、でも国からもお願いされているし。アンノウンも私と結婚したいって思ってくれているのなら、……この話を受けない理由が無いよね?)
「ミキ?私の妻になってくれるよね?」
ニコリと微笑むアンノウンに美姫は小さくコクリと頷いた。
「嬉しいです。ミキ、………夢の様だ」
うっとりと呟くアンノウンに美姫は同意する。
(本当に夢みたい。……今ドッキリ大成功~☆とか言われたら死ねるなぁ。でも、それでもイケメンに抱きしめられたし悔いはないけど)
◆◆◆◆◆◆
「では、桜坂さん。今日からアンと貴女にはこちらのマンションで共に生活をして頂きます。結婚なのですが籍を入れるのは貴女が高校を卒業してからと言う事になります。アンもそれには同意されてます。…………桜坂さん、ご協力感謝します」
斎藤は深々と美姫に向かって頭を下げる。
それに美姫はあわあわと慌てる。
「い、いえ。あの、斎藤さん。私、そんな頭を下げてまで感謝される様な事して無いですよ!!!頭を上げてください!!!!むしろこっちが感謝です!!だって………アンノウンみたいなイケメンと……け、結婚出来るんです。夢みたいです」
はにかんで告げると斎藤は顔を上げて微笑む。
「そう言って貰えると助かりますね。アンはもうすぐ仕事を終えてこちらに着きます。そうなったら貴女達は二人きり。…………本当に怖くは無いのかしら?人に似てはいるけど全く別の生き物よ?貴女の安全も100%保証される訳じゃ無いの。ここのマンションは監視下に置かれますが彼に対抗できる人類は居ないもの………。はあ、ごめんなさいね、私達が貴女に強制しているのに。でも私には貴女と歳の近い妹がいるのよ。だから心配」
そう言って苦笑する斎藤に美姫は心が暖かくなる。
「い、いえ。心配してくださって嬉しいです。……なんだか姉が出来たみたい。」
そう告げると斎藤はクスクス笑った。
「姉。そうね、それはあながち間違いでも無いわよ?」
そう言ってウィンクする斎藤に美姫はポカンとした。
「彼が来るまでに軽く説明をしておくわね。彼の設定と貴女達の関係性よ。世間に向けてのね」
スッと斎藤がファイルから数枚の資料を取り出す。
「彼、アンノウンは戸籍上は私の弟と言う事になっています。斎藤アノン。それがこちらでの彼の名よ?ロシアと日本のハーフ。20歳、設定上はね、本当は何歳なのかは話してくれないの。もし聞き出せたら教えてくれると助かるわね」
「え?弟さん。アノン……。設定。なるほど」
美姫が呟くと斎藤は頷いて話を続ける。
「アンは貴女とは恋人同士。籍を入れるまではね。籍を入れたら夫婦よ。貴女のご家族には引っ越しについてアノンの姉として連絡を入れたのだけど、凄く無関心なのね?………同棲の許可はちゃんと親御さんから取れています。だから安心してちょうだいね」
そう言う斎藤の言葉に美姫はやっぱりかと思う。だけど予測していたので傷ついたり落ち込んだりは無い。
「貴女が眠っている間。ご家族の誰も、一度もお見舞いにも来なかったし。…………資料も読んだわ。酷いわね。ごめんなさいね、ご家族を悪く言って」
「………そう言うのも全部知られてるんですね。良いんです。謝らないでください。家族が酷いなって私も思いますから」
美姫が苦笑してそう告げると斎藤は困った様に笑う。
「…………不仲の理由も調べさせてもらったわ。貴女は、間違い無くご両親の間の子供でしたよ。眠っている間に検査をしましたから間違い無いわ。もし、貴女が望むのならご両親に病院からの検査結果としてお伝え出来るけど。どうかしら?」
そう言う斎藤に美姫は首を振る。
「いえ。もう本当の子供とかそう言う問題じゃないんですよ。それにきっとそれは親も調べてると思います。本当の子がどうとかより、容姿が気に食わないんだと思いますから」
「……………本当、酷い親ね。ふう、まあ良いわ。こんな話続けても意味は無いものね。本当にごめんなさい。でも、……これからは私を本当の姉だと思ってくれていいからね。担当だからそう言っているのじゃ無いわ。……本当に貴女が心配なの。頼ってくれて構わないからね!!!」
ぎゅっと手を握られて美姫は胸がまた暖かくなる。目が覚めてからずっと夢の様な事ばかりが続いている。
「はい。嬉しいです。………あの斎藤さんの下の名前ってなんですか?」
勇気を振り絞って尋ねると斎藤はポカンとしてからペロリと舌を出した。
「ごめんなさい。ちゃんと名乗ってなかったわね。斎藤千聖よ。ちさ姉って呼んでくれて良いわよ。妹もそう呼んでるから」
ニコリと告げられて美姫は震える声で答える。
「ち、ちさ姉。………っ、あの私も美姫って……呼んでください。あの、それって問題ありますか?」
恐る恐る尋ねると斎藤はクスクスと笑った。
「問題は無いわよ。美姫。これから長い付き合いになるわ。よろしくね。」
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