魔法使いの生首が異世界への架け橋でした。

桐谷雪矢

文字の大きさ
6 / 20
激動の一日。

6.めざすは電波塔

しおりを挟む
 待つとは言ったが、何時までとか具体的には言っていない。
 というコトは、あれから五分も待たずに疑いを持ってこちらに向かう可能性も少なくない。車だったらあっという間にここまで辿り着く。

「ちょっと揺れるから、舌噛むなよっ」

 バッグの中のシルバーに叫んで、ひたすら走った。こりゃもうたぶん、明日には身体が言うコトをきかないだろう。息も絶え絶えになりつつも、とにかく走った。
 オレの実家までは走れば五分かかるかどうか。電波塔はそれより先の区画にある。とにかく急がないと。そう思う気ばかりが急いて、周りへの注意が欠けていたようだ。

 クラクションに気付いて振り返ると、トラック。

 待て、トラックに轢かれて転生とかならもっと最初……と思ったのは一瞬だった。

 驚いて足を止めてしまったオレの後ろで、こちらに向かうトラックの横っ腹に、更に大きなトラックが轟音と共にぶち当たったのだ。
 トラックは二台してもつれるように、と言うのも変だが、そんな感じでドラッグストアの広い駐車場へと転がっていく。幸いにして数台の駐車している客の車を巻き添えにしただけで、怪我人などはいないように見える。
 ……まるで横から助けに入ったみたいな……。
 ぽかんとしてそんなコトを思ってしまったが、このままいたら目撃者として足止めされてしまう。頭をふるふると振って、再び走り出した。

 もしかして、シルバーがなにかしているのかも知れない。そう思っておこう。

 その後はただひたすらに萎えそうになる脚に鞭打って、実家を越え、やっと電波塔の区画まで辿り着いた。
 ぜぇはぁ息を切らしながら、立ち止まって周囲を確認するとバッグを開く。中から「ぶはぁっ」と大きくひと息つく声。そして軽く咳き込んでいる。

「だいじょうぶか? 思いっきり走って揺らしちゃったけど」
「……っほっ……くぁあああ、きっつぅ~」
「ごめんて。それより、このアンテナでいい? どの方角から見てたとか、高さとか」

 少しバッグを傾けると、シルバーは視線を巡らせた。真ん前に、電波塔。周囲は建て売りの住宅街。高いマンションなどは近くになかった。

「んんと……あの青い文字が入ってる丸いやつ、あれが正面に見えてた。高さも真っ正面の高さだったな」
「わっかりやすいなっ。じゃ、また入っててくれ」
「って、うわぁ、偉そう……」

 どうやら態度でかいのが逆転している。
 それはさておき、再び小走りに路地を抜けた。正面にあるのは、四階建ての賃貸マンションだ。ずいぶん古くからあるようで、外壁にはヒビが入っているのだが、放置されている。半分くらいしか入居者がいないっぽいのは、ここらに住んでいた頃から変わっていないだろう。カーテンがある部屋は半分もない。
 古いだけにセキュリティはゆるゆるのままだ。普通にエントランスを潜って階段を上がっていく、と、シルバーが小さく「待て」と呟いた。三階から四階への途中の踊り場だ。

「……近い……ゆっくり進め」
「態度でか……」
「静かにしてろ」
「………………」

 言われたままに静かにそっと四階の廊下を歩く様は、まるで泥棒のようだと思った。
 バッグのファスナーを開けて、シルバーに少しは見えるように傾けて進んで行くと、しっ、と小さな呼気を発した。ぴたりと足を止め、息を殺す。

「その、次の扉……」

 階段から三軒目にあたるその部屋の前には、がちゃがちゃと不燃ゴミにしか見えないガラクタが積んであった。これ絶対このフロアの人から苦情言われるヤツだ。

「開け、ゴミっ」

 至極単純的確、かつ、そこはゴマじゃないのかよ、というツッコミどころを満載したセリフ、いやこいつの場合は詠唱魔法か、なんにしろでかい声でそう叫んだ。
 静かにとか言っていたくせに響く声を出すものだから、オレも反射的にバッグを隠すように抱きしめる。腕の中でもごもごしているシルバーに焦る間もなく、ロックが外れ、ガチャガチャっと掛かっていたらしいチェーンも外れ、ドアが景気よく開いた。

「ちょ、ああああのっ?」

 ドアが開く時には、普通はそのすぐ向こうに開けた中の人がいるものだ。ドアノブや取っ手を持って、どなた?とかいらっしゃいとか……。
 その図を想像したオレの目の前には、誰もいなかった。

「さっさと入れ、この愚図がっ」

 シルバーの声にツッコミを入れる余裕もなく、慌てて入り込むと、続いて「閉じよ」とかなんとか言う声がした。
 おろおろしつつも足元や周りをちらちら見る。靴はいろいろな種類の靴が散乱している。割と履き潰した靴から、新品に近いもの、或いはパンプスっていうんだっけか、女の人が履いてるようなヒールのついたヤツ。下駄箱の上には手袋やら帽子やらマフラーといった、出かける時に身につけるもの。それらが雑然と散らかり、重なっていた。
 そう、汚部屋とかゴミ溜めとかに近い雰囲気なのだ。
 奥へと続く廊下や、開け放ったままのクロゼットの中、全てに何かが入れられて、置かれていた。全体に膝上くらいの高さで揃っているのは、実際にはゴミではないからだろうか。
 写真や動画で見た時にそういう部屋からイメージされるような悪臭などもなく、機械油や線香や、そういう不思議なニオイがする。ただ、散らかっているだけ……にしてもすごいが。
 ここ?とバッグを開いてシルバーに見せると、おう、と応えた。

「しらがみぃ~、いるか~?」

 シルバーが緊張感をぶっちぎる、呑気な声を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...