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鏑木耕三
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鏑木耕三というのは偽名である。レンタル○○なんてやっている人に本名を使う人なんていないだろう。
彼の本名は、香西渡と言った。渡は生まれながらの天才だった。子供の頃から料理やお菓子を作るのが好きで、小学生で既にその腕はプロ並みだった。高校を卒業したら、当然のように有名料理専門学校に入学し、その後はパリのミシュラン2つ星のレストランで修行した。やがて彼は若くしてチーフを任されるほど、その頭角をメキメキと現していった。
ところが、人生で最悪の事件が彼を襲うことになる…ある大切な接待の料理を彼の采配で任されることになり、自分史上、最高峰の料理を作ろうと、昼夜問わずに努力し研究していた。出来たメニューは完璧だった。しかし、その大事な晩餐会であろうことか食中毒が出てしまったのだ。
「そんな…馬鹿な…」
日頃から食品の衛生管理は充分にしていた渡には、とても信じられない事だった...
しかし、それは不幸な事故なんかではなく、仕組まれた罠だったのだ…
以前から彼の才能に嫉妬していた、彼より3つ上の先輩が、ボーイを買収し、料理を運ぶ直前に食中毒になるように毒を仕込んだのだった。
彼がそれを知ったのはずっと後の話だったが、何よりも彼を傷つけたのは、自分を陥れた犯人が、他ならぬ、誰よりも信頼していた先輩だった事だ。
自分は何も悪い事をしていないのに…どうして…?何故、こんな酷いことを…
それは、渡の心を壊すのに充分な出来事だった…
それまで順風満帆だった彼の人生は、その日を境に急降下することになる…
店は首になり、悪い噂は業界中に広まって、彼を雇う店はなかった…
しかも、最悪なことに、その卑劣な先輩が彼のポジションを略奪し、今では独立し、一つ星レストランのオーナーになっていた。
才能も実力も渡よりはるかに下であったにも拘わらず…
こんな理不尽なことがあっていいのか…
しかし、証拠は何もなかった…
結局、今回の不始末は、渡1人に負わされた。
(もし、憎しみで人が殺せるなら…)
失意の中帰国し、自暴自棄になっていた彼が紆余曲折を経て、流れ着いたのがレンタル執事という裏稼業だった。
人ではなくものとして、その後の人生を生きてきた。もう人と深く関わるのはたくさんだ…
もう誰も信じないし、もう何も感じない…
温厚で上品な鏑木の外見からは想像もつかぬ闇が彼の心を支配していた。
この洋館に来た時もいつも通りの刹那の仕事。明日になれば、忘れてしまう程度の事だった。
しかし、その洋館の美しき女主人 愛瑠を見た時に、鏑木は彼女の中に自分と同じ闇を見たのだった…見かけは美しく軽やかで何不自由なく育ったお嬢様…のように見えるが、何だろう…?彼女の深層の部分に見え隠れする闇…
鏑木には、それが自分と同じ種類のものに感じたのだ。
だからこそ、愛瑠から専属にならないかと話を持ちかけられた時、断ることが出来なかったのかもしれない…
どうせ、老い先短いこの命だ…残りの人生、この美しい女主人に仕えて終えるのも悪くない…
彼女は彼の素性を詮索しなかった…
住民票の提出も求められず、買い出しからメニューづくりまでの一切の権限を彼に委ねた。
「わたしが貴方にして欲しいことは、美味しい料理やスイーツの提供。ただそれだけよ。」
愛瑠はそう言って微笑んだ。
とっくの昔に心は死んだはずだった…なのに、どうしてだろう…?愛瑠の笑顔を見ていると、自分の中の闇が薄れていくような気がする…
自分は死ぬまで、この人にお仕えしていたい…
愛瑠と出会ってからまだそんなに月日は流れていないというのに、いつの間にか、鏑木の中にはそんな決意が芽生えていた…
彼の本名は、香西渡と言った。渡は生まれながらの天才だった。子供の頃から料理やお菓子を作るのが好きで、小学生で既にその腕はプロ並みだった。高校を卒業したら、当然のように有名料理専門学校に入学し、その後はパリのミシュラン2つ星のレストランで修行した。やがて彼は若くしてチーフを任されるほど、その頭角をメキメキと現していった。
ところが、人生で最悪の事件が彼を襲うことになる…ある大切な接待の料理を彼の采配で任されることになり、自分史上、最高峰の料理を作ろうと、昼夜問わずに努力し研究していた。出来たメニューは完璧だった。しかし、その大事な晩餐会であろうことか食中毒が出てしまったのだ。
「そんな…馬鹿な…」
日頃から食品の衛生管理は充分にしていた渡には、とても信じられない事だった...
しかし、それは不幸な事故なんかではなく、仕組まれた罠だったのだ…
以前から彼の才能に嫉妬していた、彼より3つ上の先輩が、ボーイを買収し、料理を運ぶ直前に食中毒になるように毒を仕込んだのだった。
彼がそれを知ったのはずっと後の話だったが、何よりも彼を傷つけたのは、自分を陥れた犯人が、他ならぬ、誰よりも信頼していた先輩だった事だ。
自分は何も悪い事をしていないのに…どうして…?何故、こんな酷いことを…
それは、渡の心を壊すのに充分な出来事だった…
それまで順風満帆だった彼の人生は、その日を境に急降下することになる…
店は首になり、悪い噂は業界中に広まって、彼を雇う店はなかった…
しかも、最悪なことに、その卑劣な先輩が彼のポジションを略奪し、今では独立し、一つ星レストランのオーナーになっていた。
才能も実力も渡よりはるかに下であったにも拘わらず…
こんな理不尽なことがあっていいのか…
しかし、証拠は何もなかった…
結局、今回の不始末は、渡1人に負わされた。
(もし、憎しみで人が殺せるなら…)
失意の中帰国し、自暴自棄になっていた彼が紆余曲折を経て、流れ着いたのがレンタル執事という裏稼業だった。
人ではなくものとして、その後の人生を生きてきた。もう人と深く関わるのはたくさんだ…
もう誰も信じないし、もう何も感じない…
温厚で上品な鏑木の外見からは想像もつかぬ闇が彼の心を支配していた。
この洋館に来た時もいつも通りの刹那の仕事。明日になれば、忘れてしまう程度の事だった。
しかし、その洋館の美しき女主人 愛瑠を見た時に、鏑木は彼女の中に自分と同じ闇を見たのだった…見かけは美しく軽やかで何不自由なく育ったお嬢様…のように見えるが、何だろう…?彼女の深層の部分に見え隠れする闇…
鏑木には、それが自分と同じ種類のものに感じたのだ。
だからこそ、愛瑠から専属にならないかと話を持ちかけられた時、断ることが出来なかったのかもしれない…
どうせ、老い先短いこの命だ…残りの人生、この美しい女主人に仕えて終えるのも悪くない…
彼女は彼の素性を詮索しなかった…
住民票の提出も求められず、買い出しからメニューづくりまでの一切の権限を彼に委ねた。
「わたしが貴方にして欲しいことは、美味しい料理やスイーツの提供。ただそれだけよ。」
愛瑠はそう言って微笑んだ。
とっくの昔に心は死んだはずだった…なのに、どうしてだろう…?愛瑠の笑顔を見ていると、自分の中の闇が薄れていくような気がする…
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