フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ

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美しく咲かせるために

回帰者の記憶①

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 十月になって、ララスティはルドルフと共に勉強の息抜きという名目で、遠乗りに出ている。
 本来ならカイルも来るはずだったのだが、あいにく体調を崩して同行できなかったのだ。

「素敵なところですわね。カイル殿下はもったいない事をしましたわ」
「また誘えばいい」

 ルドルフはそう言いながら慎重にララスティの様子を確認する。
 この場所はララスティが事故に遭った場所にとても近い。
 ピクニックができるほど穏やかな場所なのに事故が起きたことを不審に思い、事故後にルドルフが確認に行ったときは、日数が経っていたことや、天候が悪かったことが続き調べても何もわからなかった。

(だが、やはりこんな場所で事故が起きるのはおかしい)

 馭者の話では整備されていない道だったせいで車輪が外れたとあったが、今確認しても車輪が外れるほど荒れているとは思えない。
 むしろ人が良く通るためかちゃんと整備されている方だ。
 しかし、ルドルフが前回確認した時は確かに若干・・荒れている道があった。
 今その部分を見ているのだが、まったくと言っていいほど荒れていない。
 ここから数年かけて荒れる可能性はあるが、今この状況で荒れていないのならそれも疑問に感じてしまう。

「それにしても驚きました。遠乗りなんて、男性がするものだと思っておりましたもの」
「ララスティたちは乗馬に慣れてきただろう? だったらたまにはいいさ」

 そう言って笑うルドルフにつられてララスティも微笑む。
 ララスティは前回の事故について、馬車に乗ってから外の様子を確認する余裕などなかったので、揺れる・・・馬車の中で考え事をしていたら事故に遭ったという感覚だ。
 だから今自分が事故現場の近くにいるとは思っていない。
 そのことが確認できたルドルフは安心したように息を吐きだし、ララスティの隣に立つ。

「この季節はあまり人が来ないが、春や初夏はそこそこ人が来てピクニックを楽しむんだ」
「なるほど。このように景色がいいとわかる気がしますわ」
「春になれば花も咲いて彩りもよくなる」
「まあ!」

 素直に喜ぶララスティは珍しいが、周囲に人気はなく、演技をする必要のないルドルフが隣にいるから気を抜いているのだろう。
 気を許されていることにうれしくなりながら、ルドルフは馬を護衛に任せると「少し歩こう」とララスティを事故現場に誘導する。
 前回のララスティが体験した事故は、車輪が外れて馬車が横転してしまったとなっている。
 確かに調べた結果馬車に細工はなく、悪路で運悪く馬車がダメージを受けたと判断された。
 もっとも、使用された馬車の車体部分が粗末であったのも原因だった。
 そして車輪が外れるほどの運転をした原因は、倒木を避けたときに車輪に負担がかかったとなっていたが、今見る限り倒れるような木は見当たらない。
 事故があった前に天候が悪かったと言う事もなく、その前々日には普通に通行している馬車があったという証言は得ていた。
 だが、ララスティの乗った馬車を追いかけたルドルフが見た時は確かに大きな倒木があり、ララスティが乗った馬車は横転し、壊れたがれきにララスティの足がつぶされていた。
 まずはララスティの身の安全を確保するために救助を優先したが、よくよく考えればあの後に事故現場の検証に行った際、倒木は処理・・されていた。
 話に聞けば駆けつけたアーノルトがまた事故が起きないように現場を修復したと言うが、前回同様に違和感しかない。
 見通しが悪いなかでスピードを出していたのならともかく、視界に問題なく普通のスピードで馬車を走らせていれば、倒木に気づき安全に対処出来ていたはずだ。
 前回では証拠がなくアーノルトを追い詰めることができなかった。
 そもそも、もうララスティを事故に合わせるつもりはない。

「ここら辺には林がありますのね」
「昔から手入れをされているようだ」

 こうして改めて見ても、ちゃんと管理されている林の木がなにもなく倒れるとは思えない。
 それに道との距離もきちんと取られており、倒木してもそこまで影響があるとは思えなかった。

(となれば、やはりあの事故は人為的なものか)

 アーノルトは婚約解消について事前に情報を得ていた。
 それであれば、工作をすることも可能だっただろう。
 のちの現場検証後、早々に証拠になりそうなものを処分したこともそう考えればしっくりくる。

(事故の直後はとにかくララスティの容態に気を取られていたからな)

 一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
 あと少しずれていたら腰から下が完全につぶれていたのだ。
 今思い出してもぞっとしてしまう。

「ルドルフ様、こんな素敵なところを教えて下さりありがとうございます」
「喜んでもらえたようでよかった」

 ララスティの屈託のない笑みに、ルドルフは純粋に嬉しいと笑みを返す。
 前回、抜け殻のようになっていたララスティは、ほとんど感情を浮かべることもなく、話すこともほとんどなかった。
 子供を産んだ際も言われた言葉に、機械的に従っていたように見えた。
 そんなララスティが最後まで願っていたことは、「やり直したい」だった。
 だからこそ、ララスティの命が尽きた時にその願いを叶えたのだ。
 犠牲など、いくらでも支払えた。
 そもそも時間を撒き戻ると言っても、同じ世界を繰り返すのではなく、巻き戻った時点で『分岐した別の世界』が発生してしまうらしい。
 だから正確には同じ世界ではない。
 枝分かれした別の世界だ。
 しかし———

(だからなんだ)

 この世界だってララスティや自分たちが同じ行動をすれば、結局は同じ結末に辿り着く可能性が高い。
 巻き戻った記憶がある時点でずれが生じて、同じ結末の可能性は無くなったかもしれないが、性根は同じなのだ。

「そうだ!」
「うん?」
「その、前回のことをお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろん」

 カイルの血筋について話してから、ララスティとルドルフは王宮でよく話すようになった。
 もちろんカイルの血筋や巻き戻りのことなど話さない。
 本当にささやかな世間話をして別れる。
 それでも周囲には二人の仲の良さが広まっていき、国王にカイルとの仲について相談したり、勉強の内容を聞いたりしていると話せば、ルドルフは周囲からもララスティとカイルの味方だと認識される。
 だからこそ、こうして二人で出かけることになっても違和感を抱かれない。
 そうして二人きりになれるタイミングを待っていた。
 あまりアインバッハ公爵家で鉢合わせるのも疑われるため、なるべくそのカードは切りたくないし、もうすぐクルルシュが秘かに訪問するので、その時に少しでも疑念を抱かれないようにしたい。
 皇帝の代理としてアマリアスにクルルシュが訪問した際、いつものように・・・・・・・ララスティがアインバッハ家に滞在している。
 その時にたまたま用事があってルドルフがアインバッハ公爵家を訪問する。
 外交的な何かを勘繰るものはいるかもしれないが、あくまでも偶然が重なったものという体裁が必要であり、ララスティは部外者でなければならない。

「前回のわたくしとルドルフ様の関係は事実婚とおっしゃっていましたが、その、具体的にはどのような関係だったのでしょうか?」

 介護が必要な体だった、と言っていた。
 そんな役に立たなさそうなララスティを事実婚とはいえ傍に置いたのはなぜなのか。
 愛しているという言葉を信じたいが、カイルの血筋の話を聞いた今、自分の中に流れる血が目的ではないのかと思えてしまう。

「ルドルフ様はわたくしを愛していると言ってくださいますし、わたくしはそれを信じたい。けれど、そこにわたくしの血を求めているという理由がありまして?」
「血は関係しているのかもしれない」

 ルドルフの答えにララスティはツキンと胸が痛む。

「実はわたしは女性の匂いがだめなんだ」
「………………はい?」

 突然の告白にララスティは思わず素で返事をしてしまう。

「だが、昔から君だけは別だった。それもあってずっと気にかけていたんだ。でも、前も言ったように女性としてみたのは前回の十八歳を越えてからだ。今だって愛しているとは思うけど、欲情はしないから安心してくれ」
「よっ……あ、そっそれは、……はい」

 慣れない言葉を向けられてララスティは思わず顔を赤くしてしまう。

「香りが不快にならないのは母だけだったし、正直乳母のマイラでぎりぎりだったんだ。でも君の香りは不快どころか好ましい。それが血筋によるものなのかはわからない。君は僕と同じシングウッド公爵家の血が流れているだろう?」

 言われてララスティは「それなりに遡りますが」、と首をかしげる。
 アマリアスの祖父がシングウッド公爵家の人間なので、確かにそちらを辿っても、かなり遠くなるが親類と言えるかもしれない。
 しかしルドルフは「だから血が関係してるかと言われたら否定できない」と言う。
 王族で言えばルドルフの祖母にあたる前々王妃も匂いはぎりぎりセーフだったらしいので、本当になにが影響しているのかわからないそうだ。

「でも、香り的な意味で血が理由と言うのは、その……わたくしの聞きたい答えと違うといいますか」

 ララスティとしては、ルドルフが自分の子供を王位につけるために自分の血を狙っている。
 そう考えていったのだが、どうも違うらしい。

「ああ、前回は最終的に私たちの子供が王位についたけど、別に王位とかはどうでもいいんだ」

 まるでララスティの考えを見透かしたようなルドルフの言葉に、ララスティは「そうですのね」と頷き、しばらく間をおいて「子供!?」と絶句した。
 その様子が面白くて、ルドルフは思わず声に出して笑ってしまい、ララスティに拗ねられてしまった。
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