フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ

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綺麗に並べて

風の噂③

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 街の散策をした翌日、ララスティとカイルはルドルフの誘いで、街にある劇場に訪れる予定となっていた。
 三人が朝食の席でその話をしていると、案の定エミリアが自分も同行すると言い出し、メイド達はエミリアの支度を手伝う事になった。

「観劇なんて、王都に居た時にお父さんとお母さんと一緒に行ったことがあるけど、遠い席から見てもつまらないのよね」

 エミリアはしたく途中でメイドにそんな愚痴を言うが、メイドは特に反応せずに黙々と準備を進めていく。

「お父さんはオペラグラスだっけ? それを使えばいいとか言ったけど、あんなのをずっと持ってたら手が疲れちゃうじゃない? そこまでしてみたいとは思えないわ。どうせなら平民みたいに近くの席に座れたらいいのに、なんであんな遠い席にしなくちゃいけないのかしら」

 そう言ったエミリアは大きくため息をつき、メイドが用意したドレスを確認する。
 ララスティが持ち込んだ、装飾品が多い見栄えする・・・・・ドレス。

「……お姉さまってば、いつの間にこんなドレスを作ったのかしら。別邸には入れなくなっちゃたから知らなかったけど、こういうのをいっぱい隠して・・・るなんてずるいわよね」

 続けてアクセサリーも印象に残る・・・・・ものばかりで、エミリアはララスティが知らないものをいつの間にかそろえていることに眉を寄せた。

「なんだかんだ言って、お姉さまは自分の好きなものをいつでも用意できるのよ。だからあたしにこんな風に簡単になんでも譲って・・・くれるんだわ」

 エミリアはシングウッド公爵領に来る前、ララスティの準備していた衣装類を貸して・・・と言い、ルドルフが「荷物を渡してしまいなさい」と言ったことを忘れている。
 全てララスティの意思でエミリアに譲った・・・と解釈しているのだ。
 エミリアがメイドの反応を得られないまま独り言を続ける間も準備は進んで行き、ドレスを着せ終わりアクセサリーを付け終わったところで大きな姿見で全身を確認する。

「ふーん、なかなかいいじゃない」

 レースやフリルがふんだんにあしらわれたドレスは、どう考えてもララスティの趣味ではなくエミリアの趣味のものだ。
 なぜそんなものをララスティが持ち込んだのかも考えず、エミリアは自分好みのドレスに満足げに笑みを浮かべる。
 この姿でカイルの隣・・・・・に居る自分の姿を想像し、絶対にお似合いの恋人に見えると自信を持つ。

「準備はこれで終わりよね?」

 エミリアの問いにメイドの一人が頷くと、エミリアは「そう」とそっけなく答えてさっさと部屋を出て行った。
 残ったメイド達はエミリアの気配が遠のいたのを確認してから大きく息を吐きだし、「見た目だけ派手で安いドレスやアクセサリーがよく似合う子よね」と笑い合う。

「ララスティ様は、あの子に奪われる・・・・前提で今回の荷物を用意したっていう話よ」
「そりゃそうよね。あんなドレスやアクセサリーはララスティ様にはお似合いにならないもの」
「それよりもあの子、ドレスの見た目だけを気にして、品質はまったく気にしてないみたい。アクセサリーだって見た目が派手で品位の欠片もないのに」
「まるで五歳の社交界デビューしたばかりの幼女が憧れそうなものばかりよね」

 クスクスと笑い合いながら片づけを終えたメイド達は、部屋を出ると何事もなかったようにそれぞれの持ち場に戻っていった。

 メイド達にそんなことを言われているとは知らないエミリアは、玄関ホールに一人で・・・到着すると、そこにはすでにララスティたちが揃っている。
 カイルとルドルフは派手さはないものの品があり、仕立てのいい服だと一目でわかるものを着用しており、ララスティも華美な装飾は控えめながらも、十二歳という若さをしっかりと出すようにフリルとレースを上品に使ったドレスを着用している。
 ララスティのドレスはこちらに来て購入したものだが、カイルと並ぶと揃いで誂えたように見え、揃いのデザインのアクセサリーを身につけている。
 よく見ればルドルフのジャケットの色合いや、裏地の模様など、ララスティのドレスと共通したモチーフを使われているのだが、それに気づくよりも、だれもがカイルとの合わせ・・・に目を引かれる。

「カイル殿下! お待たせしました」

 エミリアはカイルの隣に走って・・・行くと、自分こそが恋人なのだと言うようにカイルの横に並んだ。
 その様子はバランスが全く取れておらす、失笑を買うものであったが、カイルは突き放すことはせずにエミリアの好きにさせている。
 ララスティやルドルフも何か言うこともない。
 ただ、屋敷の一部の使用人を除き、その滑稽さに秘かに笑う。

「見て下さいこのドレス。あたし好みなんですよ! ふふ、こういうドレスはあたしにこそ似合いますよね」

 クルリとその場で回ってドレスを見せるエミリアだが、十二歳が着るにはやはり幼児趣味すぎるものに、カイルは特に誉め言葉を言わずに微笑んだ。

「……そろそろ出発しよう」
「はい、叔父上」

 ルドルフの声に四人は馬車に乗り込むために移動を始める。

「え? 何この馬車……」

 エミリアは玄関を出て用意されている馬車を見て、思わずそんな声を出してしまった。
 用意されている馬車は公爵令嬢であるエミリアが見たこともないほど立派なもので、漆黒の外装に純銀で装飾がなされ、家門には純金が使用されている。
 見ただけでもランバルト公爵家で使用した馬車と比べものにならない大きさだが、中に入ってみればその内装にもエミリアはあんぐりと口を開けた。
 滑らかな曲線を描く壁には全面に皮が張られ、座椅子に座ればその柔らかさに驚いてしまう。
 四人が乗っても狭さを感じず、気づけば動き出していた馬車は揺れをほとんど感じることがない。

「な、なによこの馬車!」

 カイルの隣・・・・・でそう叫んだエミリアに、三人は不思議そうな視線を向ける。

「どうかしたかい? 乗り心地に問題が?」
「問題どころじゃないです! こんなの公爵令嬢の・・・・・あたしですら・・・・・・乗ったことないような豪華さじゃないですか!」

 エミリアの叫びにララスティたちは何とも言えない表情を浮かべるしかない。
 この馬車はあくまでもシングウッド公爵家やアインバッハ公爵家はもとより、王家では権威を見せるための通常基準のもの。
 地位や財力をわかりやすく示すための道具として用いられ、公式な行事では普通に使用される。
 けれども、没落寸前のランバルト公爵家では用意できない。ただそれだけのことだ。
 今回の観劇は、シングウッド公爵家の次期当主であるルドルフが、公的に劇場を訪問して領民に王太子とその婚約者をお披露目するという目的のため、この馬車が使用されている。

「カイル殿下だってこんな馬車は初めてですよね?」
「……いや、公式行事なんかの時はこういう馬車だよ」
「ええ!? あたしの家に来る時は違うじゃないですか! こっちに来る時だって、普通の馬車・・・・・でした! どうしてですか!?」

 たった今、公式行事とカイルが言った言葉を聞かなかったのだろうか、と三人は思ったが、苦笑を崩さないままエミリアを見る。
 エミリアは勘違いしているが、旅程に使用した馬車は通常の長期移動用の馬車よりも格段に品質がいいものだ。
 公的行事でもなく、権威を見せつけながら移動する必要もなかったので、シングウッド公爵家基準の普通の馬車を使用したに過ぎない。
 ただ、エミリアにとってはその普通の馬車が自分の知る最高基準の馬車だっただけだ。
 ランバルト公爵家に残っている馬車は少ない。
 アーノルトは自分の移動はもちろん、クロエやエミリアが移動する際には常に最高の馬車・・・・・を使わせていた。
 だからエミリアにとって、ラインバルト公爵家にある最高の馬車が普通の馬車の基準になってしまっている。
 それを察したルドルフとララスティは内心で笑ってしまう。
 カイルがエミリアを迎えに行ったときに使用した馬車は、確かに普通の馬車・・・・・だった。
 自分たちを示すような装飾もなく、外観に華美なものや特徴的な装飾もない。
 それでも乗り心地や頑丈さは一級品のもの。
 見た目だけで普通・・と思われては困る品物だが、それは一部の裕福で高位の存在だけに許された基準でしかない。
 そのことをエミリアに説明しても理解しないだろう。
 カイルもそれを察しているのか、エミリアに苦笑を向け宥めるように声を掛けてはいるが、言葉を訂正することはしていない。
 エミリアがカイルに宥められながらも、物珍しそうに馬車を堪能している間に目的地に到着する。
 真っ先に馬車を降りたルドルフに続きカイルが降りて中に向かって手を差し出す。
 その様子を見ていただれもが、カイルにエスコートされるのはララスティだと疑わない。
 だが、カイルの手に自分の手を乗せて馬車から降りてきたのはエミリアで、その姿に領民は驚きとともに落胆の色を隠せない。
 だが、エミリアが馬車から降りるのを手伝った後、その場に残ったカイルが続けて中に手を差し伸べ、登場したララスティに領民は感嘆の息を漏らした。

 品のいいドレス、品のいいアクセサリー。
 婚約者同士で揃えたような衣装は二人の仲の良さを表しているように見える。

「あれが、未来の王太子夫妻」

 誰かがそう呟いた声は、小さいものだったにもかかわらず、エミリアの耳に深く突き刺さった。
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