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この世界に酷似した乙女ゲームもほどほどに

37 未練などいりませんわ(セイラ視点+ミレーヌ視点)

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「あの、今日からこっちの寮で生活するように言われて…」
「仕事が早いのね」

 再度ノックされてドアを開けてみれば、そこには侍従と侍女に連れられてきたミレーヌ様がいらっしゃった。
 大きな荷物を持っていることから、すでに部屋の片づけと準備は終わっているのでしょうね。
 ついている侍従と侍女は、我が…いえこの分ですと私の養子縁組も終わっていると考えたほうがいいのでしょう、ウィルゴ家の者で私や弟の教育係も務めている者たちですわ。
 短期間に王妃教育を詰め込むためだとはわかりますが、ミレーヌ様にはお辛い生活になるでしょうね。

「セイラ様、本日より私どもは家を移籍し継続してお仕えさせていただきますが、新たに1人ゲミニー家より参っております」
「マリオン様方のお付きが継続ではないのですか?」
「教育もかねているそうです」
「わかりましたわ」

 12公爵家ないとはいえ、家ごとに多少の違いはありますものね、その色に染まるためにはその家の教育家係がやはり必要になってくるのでしょう。
 もともと私についている者には、仕える家を変えさせる手間をかけてしまいましたわね。

「セイラ!僕はまだ納得してない!」
「カイン様申し訳ありませんが、セイラはこれから忙しくなりますので、どうぞ新しい婚約者のミレーヌ様と親睦を深めてください。お2人のなされることなら、カール様もとがめだてるようなことは言いません。そうよね?」
「……ああ、二人の間のことならお好きにどうぞ。目の前で性交を始めたら俺たちが下がりますよ」

 カール様の言葉にミレーヌ様が頬を赤らめたけれど、否定しないところを見るとまんざらでもないのでしょうね。
 幾分、今までのミレーヌ様となんだか印象が違う気も致しますが、元々それほど親しいわけではございませんので気のせいかもしれませんわ。
 今だにエドワード様によりかかった体勢のままだった体を、ここでやっと起こして自分の力で背筋を伸ばしてカイン様を見る。

「納得していなくても受け入れていただきます。本日よりミレーヌ様がカイン様の婚約者であり、私はすでにカイン様にとってはただの12公爵家の一員にすぎません。今後一切、今までのような過度な接触はしないでくださいませ」
「僕はセイラがいいって言ってるんだよ!」
「では以前の予定通り私が王妃になりましょうか?」
「ミレーヌがなればいいんだよ。セイラは僕の傍でずっと愛し合えばいいんだよ!」
「私がカイン様と愛し合う?……クスクス、ありえませんわ。だって私はカイン様に何の感情も抱いておりませんもの。あえて言うなら、手間をかけてくださる方としかおもっておりませんのよ。王族でなければそもそも接触もなかったでしょうし」
「セイラ!じゃあなんで僕にキスされても抵抗しないの?肌に触れればかんじてくれたじゃないか!」

 カイン様の言葉にミレーヌ様が傷ついたような泣きそうな顔になっているけれど、まあ自分だけに手を出していたと思っていたのが、正式な婚約者だった女に手を出していたと知ればそうなるかもしれませんわね。
 もちろん、カイン様がミレーヌ様にお手を付けていらっしゃることは、気の流れからも報告からもわかっていたことですので、そのことについては何も言いませんわ。
 一応最後の一線は超えていなかったようですが、気を流し込まれて肌に触れられるというのは一般の貴族にはさぞかしつらいことなのではないでしょうか?
 私ですら気をへたに流し込まれると滾ってしまい、戦闘本能が押さえにくくなってしまいますもの。

「キスと肌の接触程度、私とでも抵抗しないわよねセイラ」
「そうですわね」

 エドワード様だけじゃなく、この場にいるカール様でもアレックス様でも抵抗はしませんわね。

「ほら」
「ん」

 そう言って唇をふさがれて、ドレスの胸元のボタンが外されて鎖骨に指が触れる。ゆっくり外された唇が鎖骨に触れて舌を這わせられ、そのままさらに開かれた場所を下りて行き、胸の谷間をたどっていく。

「っ…」

 ピクリ、と気を流し込まれているわけでもないのに、体が動いたのをエドワード様も察したのでしょう、触れられた唇の形が笑みの形に変わり、その場できつく吸い上げられ、舌で癒すように舐めとられる。
 僅かに染まった頬とうるんだ目で周囲を見れば、カール様は頭を抱え、アレックス様はエドワード様をいつでも引きはがせるように構えており、カイン様は大きく目を見開いてこちらを凝視し、ミレーヌ様は顔を真っ赤に染まて手で顔を隠しながらも、その指の間からしっかりとこちらを見ている。

「セイラ、このまま食べちゃいたいわ」
「ここのまは駄目ですわよ」
「それもそうね」

 そういってあっさり顔を上げて、エドワード様は開けていた胸元のボタンを閉め直していく。

「カイン様、これでおわかりですよね?セイラは貴方だから抵抗しなかったわけじゃありませんのよ」
「しいて言うのであれば、王族で婚約者でしたのでカイン様の為さりたいことを優先させましたわ。でも、12公爵家のカール様からの言いつけを守って節度は守っておりましたでしょう?まあ、下手に抵抗するとカイン様を殺してしまいますので、大変でしたわね」
「変に刺激されて大変だったわよねえ、可哀そうに」
「その節はお世話になりましたわ」
「いいのよ」
「うそだ!」

 未練など残らないようにきっぱりと言って差し上げたのですが、カイン様は受け入れられないのかそう叫ぶと気を昂らせ、こちらに手を伸ばしてきたところをアレックス様に取り押さえられる。
 ミレーヌ様は状況についていけてないのか、今度は顔を真っ白にしておろおろとカイン様を見ていらっしゃいますわね。先ほどまで赤くなってましたのに、器用ですこと。

「12公爵家の者にとって王妃もしくは王配の座は別に欲しいものではありませんわ。義務だから従うだけですもの。王族とてそれを了承しているではありませんか、だからこそ愛のない結婚をし相手を生贄にできるのですわ」
「カイン様、王族とは12公爵家がなければ成り立たない。12公爵家は王族がいなければこの地に残れない。そういう関係であると学んでいるはずです。そこに共感は発生しても連帯感はないんですよ」
「僕とセイラは違う!愛し合える!」
「無理ですわね」
「セイラ!」
「私が愛しているのは====様をはじめとする神々ですわ。半神でしかないカイン様をどうして愛せますの?そもそも、12公爵家の人間にとって愛とは基本的に同族に向けられるものですわ」
「そう、親子間や兄弟間に愛は発生しやすい。もちろん他に向けられることもあるけれど、血のつながりがそのまま愛になりやすい。そうよね、セイラ」
「ええ、私もエドワード様のことはちゃんと愛しておりますわ。血のつながった方として」
「そうよね、ふふ」
「カイン様はミレーヌ様をお気に召していて、自分の気を流し込んだんだろう?王族にとっちゃ十分な求愛行動じゃねーか。それをただ利用するためだけの行為というには、ミレーヌ様があまりにも気の毒だぞ。もう他の貴族に嫁ぐことはできない、神の加護を得ちまったんだからな」

 満足そうなエドワード様に頭を撫でられていれば、アレックス様が言った言葉にミレーヌ様が驚いたように目を大きくしてカイン様を見つめている。
 ああ、ご存じなかったのでしょうね、お気の毒に。

「カイン様、今のは本当ですか?私を…利用して?いいえ、もう他の貴族には嫁げないって…っどういうことですか?」

 これは、修羅場というものでしょうか?
 まあ、求愛されていたのにそれがただ利用されていただけとわかれば、ショックを受けるのも仕方がないのかもしれませんね。

「そのまんまだよ。君を王妃にするつもりだったんだ」
「王妃に…、私を…それって…それって……最高じゃないですか」

 ふと、ミレーヌ様の気配が変わったような気がした。



******************************

 なによ、王妃になれるんじゃない。利用ってのはよくわかんないけど、それって要するに最高ってことでしょ?
 カイン様がセイラになんか未練を残してるのは気に入らないけど、あれよね、手に入らないと思うと惜しく感じるみたいなものよね。
 手を出してたってのも、まあ男なんだし仕方がないかもしれないじゃない?最後まではしてないみたいだし、これから一つ屋根の下であたしがさせてあげればいいだけだし問題ないわよね。

「あたし、カイン様のためにならなんだってします!利用とかはわかりませんけど、カイン様が望むことなら何でもしてあげたいんです!」
「あなた……、いえなんでもありませんわ。カイン様、ミレーヌ様もこうおっしゃってますし、私どもはこれで失礼させていただきますわね。婚約破棄の件は納得できなくとも受け入れていただくしかございませんので、どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 そう言って立ち上がったセイラとエドワード様を守る様に、カール様が二人の後ろについて部屋を出てからやっとアレックス様が手を離してカイン様を解放してから同じように部屋を出ていく。
 あたしは呆然とするカイン様に近づいて、恐る恐る、といった感じにゆっくりとその頬に手で触れて、こっちを向いたカイン様に泣きそうな笑みを向ける。

「あたしがいます、カイン様」
「っさい」
「え?」
「うるさい!僕のミレーヌじゃないくせに!」
「なにを…」

 もう一つ人格があることがばれてる?まずいわね、誤魔化さなくっちゃ。

「あたしはカイン様のものですよ。この体も心のカイン様の好きにしていいんです。セイラ様にはできなかったことをあたしにしてもいいんです」

 そう言って手を取って胸にあてれば、カイン様はきっとあたしを睨みつけて来たけど手を振り払うことはしない。
 やっぱり男は体で落とすに限るわね。

「神様の加護ももらえて、体自体が丈夫になったって聞きました。だから、今まで気を使ってくれてしなかったことも受け入れられます。あたし、カイン様に触れられるだけで恥ずかしいのもあるけど、嬉しくって気持ちよくなるんです、だから…」
「うるさい、黙ってよ」
「カイン様、いやです黙りません」

 ここで押さなきゃいつ押すのよ!

「あたしをカイン様の好きにしてください。カイン様のものになりたいんです」
「じゃあ今すぐ王妃になってよ」

 マジ!?それこそあたしが望む結果ってやつじゃない!王妃になって贅沢三昧!幸せな生活を送るのよ!

「カイン様がそう言ってくれるなら、あたしはいつでも覚悟はできてます」
「あ、そう」

 つれない返事だけど、照れ隠しかも?王妃になれって言ってるってことは、やっぱりあたしに気持ちが傾いてるってことよね。
 セイラは慣れて日陰の愛人?あたしが子供を産んで安泰になったら、まあ許してやらなくもないかも?
 カイン様がセイラに構ってる間に、寂しくてとかいって他の男であたしが遊ぶこともできるかもしれないじゃない。
 表向きは従順な妻で王妃、でも裏ではつれない夫に悲しさと寂しさを抱えた美貌の王妃。あたしが探さなくっても男どもが放っておかないわね。
 でもその前に、カイン様を完全に落としておかなくっちゃ。
 ゲームでは加護を得るとカイン様の好感度が爆上げして日常イベント以外だと、カイン様の部屋で二人っきりで過ごしたりするのよね。
 って、そうか。あのイベントをどうやって発生させるのかと思ったけど、あたしがこの寮にくれば解決だったのね。これがゲーム補正、主人公補正ってやつよねえ。

「カイン様、とにかくこのままここにいても…お部屋に戻りましょう?お送りします」
「そう」

 二人っきりの部屋で、しかも自分の部屋に彼女を招いた男がすることなんて一つだけよね。今日も脱がしやすいドレスにしてるんだし、準備万端って感じ?
 あの女も自分なりにめかしこんじゃって、こんな脱がしやすそうなドレスにしてる当たり期待してたのかも。
 カイン様がキスしたりドレスを脱がしてくるときだって、恥ずかしがって入るけど抵抗してなかったんだから、あの女も相当よね。何にも知りませーんって態度しておきながら、あれは相当な淫乱ってあたしは思ってんだけどどうなのかな?
 まあ、ここ最近はあっちが表に出てる間も、ちょっとずつ行動っていうか思考誘導?みたいなのが出来るようになってきたし、カイン様がこうしてあたしを選んだのはやっぱりあたしのおかげなのよ。
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