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【第十一幕】烏賊令嬢のお涙頂戴物語
名コンビ・シャーベットとポアソンの診断
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食事を終えてから二十分くらいが経過し、漸く部屋の外でワンと吠える声が響いてきた。二人にとってはベストなタイミングといえよう。
「きたわね♪」
「そうですね」
シャーベットが応対に出る。
「いらっしゃーい♪ あたしは私立探偵のシャーベット‐メープルよ、うふ。そんでもって、あなたはキュウカンバ‐ピクルスさん、ヴェッポン国自衛軍の大佐をしている武器商人の娘さんね?」
「シュアー!」
「そちらの大きなワンさんは、ヴェッポン国自衛軍の軍曹をしているキュウカンバ伯爵家の第三執事カルメイラ‐ザラメさんよ、きっと間違いなく。ふふ♪」
「はい、その通りです!」
「しかも、あなたたちは今から二十三分前のプラス・マイナス三十秒以内に、このアパートの前まで一度は辿り着いていながら、会話に夢中だったため、うっかり通り過ごしたんですよね?」
「ええ、そうですわ。よくお分かりですこと。おほほ」
ピクルスとザラメの素性および行動が悉く正確にいい当てられたのだ。
もっとも、名探偵のシャーベットにしてみれば、この程度の推理なら、DHAの助けなどなくともできる、いわば初歩中の初歩的エクササイズに過ぎない。
「それじゃ中にどうぞ」
「シュアー」
「わおん!」
シャーベットは、一人と一匹を部屋に招き入れた。
応接用テーブルに備えつけられている背もたれつきチェアに、ピクルスがつく。
続いて、ザラメは、テーブルの横に臨時で設置された「大型犬用お座り台」に飛び乗り、文字通り律儀なまでに「お座り」の構えをとる。
そしてピクルスの対面に、シャーベットとポアソンが並んで着席した。
「お初にお目にかかります。私はポアソン‐ジョワです。精神衛生専門医をしています。本日はどのようなお悩みで?」
「わたくしに降りかかってしまった病、突発性烏賊着ぐるみ症が、わたくしの煩悩によるものなのか調べて頂きたく、こうして参りましたわ。今はポピーシードによる効能のお陰で症状が落ち着いておりますの。でも、この先どのように対処すれば良いのかしら?」
「病は気からともいいますから、お気持ちをしっかりなさって」
「あとDHAの豊富なシーフードもいいわよ」
ここぞとばかりに、シャーベットが魚貝類を推してきた。
「わたくしは鮭お握りが大層好きですわ♪」
「ナイスな選択よ。それから、あなたのご先祖の行ないにも、いくつかの問題があったみたいよ」
「どういうことですの?」
「あなたのマザー・アイリスさんが、かつてアルデンテ王国の王子からの求婚を拒んだため、烏賊の呪いをかけられたのだわ。しかも、あなたのグランドマザー・ヒクリスさんにしても、地獄で大暴れした咎が、あなたに圧しかかっているのです」
「なんとまあ、わたくしのお母様とお婆様が!?」
「そうみたいね。でも起きてしまったことは仕方ないわ」
シャーベットが他人事のようにいった。
「ここは一つ、旅行にでも行って、気分のリフレッシュをしてはどう?」
ここぞとばかりに、ポワソンが精神衛生的アドバイスをしてきた。
「シュアー!」
ピクルスは一人でブルーカルパッチョに乗り、旅行することに決めた。
残されるザラメは、エングラン皇国内を観光して待つことになる。
せっかく時空間移動の附帯機能があるので、ピクルスは未来を見たくなり、行き先として、二十年後のトンジル国を選ぶ。アインデイアン暦二千二百二十二年の八月十五日だ。
首都コウジのエアポートに機体を預け、徒歩でキンピラ通りにやってきた。
ここは商業施設が立ち並ぶ繁華街で、最も高い「第一豆腐ビル」の外壁に数本の垂れ幕があり、その中で一際豪華な「フューチャー武器ファーラム」に、ピクルスの目が釘づけとなったのは当然至極といえよう。
だが期待に反して、ファーラムは退屈なものだった。武器の展示など一切なく、単に専門家による堅苦しい理論解説が続き、その後に予定されているパネルディスカッションを前に、欠伸を連発しながらピクルスは早々と退席することにした。
これは大変なことになった。どういう理由であれ、未来にきて涙を流してしまったのだ。
ピクルスは急いでビルの屋上へ向かった。ジェットフットを装着しているので、飛んで逃げようと考えたのだ。タイム監視局員が彼女を追ってきた。このままでは世界の果てまで追跡され、いつか逮捕されてしまうことだろう。
と、この時だった。空中に突如、飛行物体が出現し、アームが伸びてきて、ビルから飛び立とうとしたピクルスの身体を回収したのである。
突発性烏賊着ぐるみ症が悪化したピクルスは気絶した。その間に、二百年間過去へ遡ることになるのだった。
つれてこられてのはアインデイアン暦での二十一世紀の八月、場所はトンジル国の郊外にある「黄瓜時空間解析研究所」だった。
ここでピクルスは、ミネストロウネ‐カペリイニという少年と出会い、真夏の恋に陥る。
だがライバルとなる少女が二人いた。研究所に住む姉妹、緋紅瑠素と藍李酢である。カペリイニを巡る、三つ巴の戦いが始まるのだった。
「きたわね♪」
「そうですね」
シャーベットが応対に出る。
「いらっしゃーい♪ あたしは私立探偵のシャーベット‐メープルよ、うふ。そんでもって、あなたはキュウカンバ‐ピクルスさん、ヴェッポン国自衛軍の大佐をしている武器商人の娘さんね?」
「シュアー!」
「そちらの大きなワンさんは、ヴェッポン国自衛軍の軍曹をしているキュウカンバ伯爵家の第三執事カルメイラ‐ザラメさんよ、きっと間違いなく。ふふ♪」
「はい、その通りです!」
「しかも、あなたたちは今から二十三分前のプラス・マイナス三十秒以内に、このアパートの前まで一度は辿り着いていながら、会話に夢中だったため、うっかり通り過ごしたんですよね?」
「ええ、そうですわ。よくお分かりですこと。おほほ」
ピクルスとザラメの素性および行動が悉く正確にいい当てられたのだ。
もっとも、名探偵のシャーベットにしてみれば、この程度の推理なら、DHAの助けなどなくともできる、いわば初歩中の初歩的エクササイズに過ぎない。
「それじゃ中にどうぞ」
「シュアー」
「わおん!」
シャーベットは、一人と一匹を部屋に招き入れた。
応接用テーブルに備えつけられている背もたれつきチェアに、ピクルスがつく。
続いて、ザラメは、テーブルの横に臨時で設置された「大型犬用お座り台」に飛び乗り、文字通り律儀なまでに「お座り」の構えをとる。
そしてピクルスの対面に、シャーベットとポアソンが並んで着席した。
「お初にお目にかかります。私はポアソン‐ジョワです。精神衛生専門医をしています。本日はどのようなお悩みで?」
「わたくしに降りかかってしまった病、突発性烏賊着ぐるみ症が、わたくしの煩悩によるものなのか調べて頂きたく、こうして参りましたわ。今はポピーシードによる効能のお陰で症状が落ち着いておりますの。でも、この先どのように対処すれば良いのかしら?」
「病は気からともいいますから、お気持ちをしっかりなさって」
「あとDHAの豊富なシーフードもいいわよ」
ここぞとばかりに、シャーベットが魚貝類を推してきた。
「わたくしは鮭お握りが大層好きですわ♪」
「ナイスな選択よ。それから、あなたのご先祖の行ないにも、いくつかの問題があったみたいよ」
「どういうことですの?」
「あなたのマザー・アイリスさんが、かつてアルデンテ王国の王子からの求婚を拒んだため、烏賊の呪いをかけられたのだわ。しかも、あなたのグランドマザー・ヒクリスさんにしても、地獄で大暴れした咎が、あなたに圧しかかっているのです」
「なんとまあ、わたくしのお母様とお婆様が!?」
「そうみたいね。でも起きてしまったことは仕方ないわ」
シャーベットが他人事のようにいった。
「ここは一つ、旅行にでも行って、気分のリフレッシュをしてはどう?」
ここぞとばかりに、ポワソンが精神衛生的アドバイスをしてきた。
「シュアー!」
ピクルスは一人でブルーカルパッチョに乗り、旅行することに決めた。
残されるザラメは、エングラン皇国内を観光して待つことになる。
せっかく時空間移動の附帯機能があるので、ピクルスは未来を見たくなり、行き先として、二十年後のトンジル国を選ぶ。アインデイアン暦二千二百二十二年の八月十五日だ。
首都コウジのエアポートに機体を預け、徒歩でキンピラ通りにやってきた。
ここは商業施設が立ち並ぶ繁華街で、最も高い「第一豆腐ビル」の外壁に数本の垂れ幕があり、その中で一際豪華な「フューチャー武器ファーラム」に、ピクルスの目が釘づけとなったのは当然至極といえよう。
だが期待に反して、ファーラムは退屈なものだった。武器の展示など一切なく、単に専門家による堅苦しい理論解説が続き、その後に予定されているパネルディスカッションを前に、欠伸を連発しながらピクルスは早々と退席することにした。
これは大変なことになった。どういう理由であれ、未来にきて涙を流してしまったのだ。
ピクルスは急いでビルの屋上へ向かった。ジェットフットを装着しているので、飛んで逃げようと考えたのだ。タイム監視局員が彼女を追ってきた。このままでは世界の果てまで追跡され、いつか逮捕されてしまうことだろう。
と、この時だった。空中に突如、飛行物体が出現し、アームが伸びてきて、ビルから飛び立とうとしたピクルスの身体を回収したのである。
突発性烏賊着ぐるみ症が悪化したピクルスは気絶した。その間に、二百年間過去へ遡ることになるのだった。
つれてこられてのはアインデイアン暦での二十一世紀の八月、場所はトンジル国の郊外にある「黄瓜時空間解析研究所」だった。
ここでピクルスは、ミネストロウネ‐カペリイニという少年と出会い、真夏の恋に陥る。
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