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四章「ゴマヤの初恋」

18. 谷沢胡麻弥の話(弐)

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「――ということがあったんです」
「ふむ。そうか。小学生も大変なのだな」
「はい。いろいろあって……」
「だが男はなあ、時として押しも必要だ」
「おし、ですか?」
「そうだ押しだ。一に押して二に押して、三・四は寝てても、起きたら勃起!」

 意味わかんないし。

       ◇ ◇ ◇

 ボクがナラオさんのことを好きだと思ったのは、今年の夏休みだ。
 ボクの家族とナラオさんの家族とで、合計六人が海に行ったんだ。ボク泳げないんだけどね。でも初めての海だし、ナラオさんとも遊べるから、少しはワクワクしてたよ。
 今では、そのとき行ってホントによかったと思っている。
 立って肩までつかるくらいの深さの所で、ナラオさんが手をつないでくれて、ボクのバタ足の練習を手伝ってくれたんだ。
 その練習中に鼻とノドに海水が入ってむせた。ナラオさんがすぐボクの背中をさすってくれた。波にゆられてナラオさんの体がボクの背中に何度かぶつかったりして、すごくドキドキした。
 それで、そのときボク勃起しちゃったんだ。海水がにごってて、ナラオさんに見られなくてよかったよ。
 結局一日では泳げるようにはならなかった。ボクはべつに泳げなくてもいいと思う。日本一難しい大学のテストに泳ぎは必要ないみたいだし。
 だけど、ナラオさんにカッコ悪い姿を見せるのはイヤなんだけどね……。
 この日は朝早くに出発したんだけど、帰りも早めになった。遅くなると電車も混雑するだろうからってね。午後三時をすぎたくらいに帰る準備をした。
 それで帰り道でね、ちょっと強い風が吹いたんだ。

 ――いやあだあ

 ボクの少し前を歩いてたナラオさんが叫んだ。風でナラオさんのスカートがめくれちゃって、うしろから白いパンツが見えたんだよ。また勃起しそうになったと思う。半分くらい勃起したかもしれない。このときは、一瞬だったから海のなかでのときと違ってはっきりとは覚えていない。
 でもたぶんこのときに、ボクはナラオさんが好きになったんだと思う。
 海のなかのときはドキドキしててわからなかったけど、この帰る途中にはっきりとボクはナラオさんを好きだったんだと思うよ。
 この日は日本一暑い日になったんだ。何しろ最高気温が45℃まであがったんだから。
 ボクはこの日から毎日が、前より明るい気がするようになったよ。夏だったから明るいのはあたりまえのことなんだけどね。
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