多人駁論【たじんばくろん】

紅灯空呼

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四章「ゴマヤの初恋」

17. 谷沢胡麻弥の話(壱)

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『ボクの初恋』
       谷沢胡麻弥

 ボクは、部屋でナラオさんと話している。

「ねえゴマヤ君のお母さんって小説とか書いたりしてるんでしょ? ぼくのお母さんいってたよ」
「うんそうだよ。でも大人が読む雑誌だとかっていって見せてもらえないんだ。でもね、ボクこっそり見たりしたことあるんだよ」
「えっ、もしかして、エッチな本?」
「ちょっとね」
「あーだめだよぉ、小学生がそんなの見たら」
「えへへ」
「あゴマヤ君赤くなってる」
「そうかなぁ」

 学校から帰る道でボクはナラオさんを見かけた。ボクの家でゲームしようかってさそってみた。そしたらOKで、やったーって思ってお母さんに連絡したら、お母さんも買い物から帰る途中だった。それで苺ケーキを買っておいてくれたんだ。
 あとナラオさんもちゃんとナラオさんのお母さんに電話してたよ。

「でもお母さんが小説家とかって、かっこいいよねっ」
「うーん、どうかなあ」

 ホントはボクも、ちょっとそう思っている。

「えー絶対かっこいいよお。ぼくのお母さんなんてもうただのおばさんだよ。ゆうかもう、おばあさんかも」
「あはは。でもナラオさんのお母さんだってきれいだし、いいお母さんだと思うけどなあ」
「ないない、そんなことないよぉ。もうねえ、うるさいんだから。いっつもいっつも、わーわーぎゃーぎゃー」
「あはは。そうなの?」
「そうだよお」

 ボクのお母さんとナラオさんのお母さんは友だち同士なんだ。
 もともとボクのお父さんがナラオさんのお父さんの後輩で、三年くらい前にお父さん同士がお酒を飲む所で偶然再会して、それがきっかけになってお母さん同士も知り合いになったそうだよ。
 ボクがナラオさんと初めて会ったのは二年前。ボクがお母さんと一緒にナラオさんの家に行ったときのこと。そのときボクは四年生で、ナラオさんが六年生だった。学校は違うけどね。

「あでも、ゴマヤ君ももう六年生なんだし、好きな子とかいるんでしょ?」
「えっ」
「ねえねえ写真とか見せてよ。クラス写真とかあるでしょ」
「うん……あるけど」

 ボクはクラスの集合写真とか、修学旅行のときのだとかを見せてあげた。

「あっ、この子かわいいよ。もしかしてこの子?」
「違うよ」
「そっか、じゃあじゃあ、この子?」
「違う」
「う~ん、それじゃあ、こっち?」
「はずれ」
「うぐ~。だめだぉわからないよぉ」

 どの子を選んでもはずれだよ。ナラオさんは写ってないんだから。

「そのなかにはいないよ」
「えっそうなの? それ早くいってよねー。もうしんけんに考えちゃったよ。それじゃあ、もしかして別の学年? それか塾で一緒になる子とか?」
「それはどうでしょう」
「えー、教えて教えてー」

 すぐ近くにナラオさんがいて、ポニーテールの髪がゆれてて、いいニオイがしてきて、ボクはドキドキしていた。

「あのでも、ナラオさんはどうなの? カッコいい先輩とかいるでしょ?」
「へっぼく?」
「うん」
「ええっと、どうだったかな。う~ん、あんま先輩とかって、ぱっとした人なんていないかも」
「ホントかなあ?」
「ほんとほんと。あ、それよりゲームしようよ。ゲームゲーム!」
「うん。そうだね」

 もしかしてナラオさんにはもうつき合ってる人いるのかなあ……。
 このあとは、二人でテレビゲームをして、何回かはわざと負けてあげたりして、とても楽しい時間をすごせた。それで暗くなる前にナラオさんは帰った。ボクは途中まで送るよっていったんだけど、ナラオさんが「いいからいいから」っていったから、それ以上はいわなかった。次に遊ぶ約束もできなかった。
 ボクはあまり強気にはなれない。ナラオさん以外の人に対してもそうなんだ。学校でもあまり目立たないしね。女の子って、ボクみたいなこんな男は好きにはならないんだろうなあ……。
 最近、ボクの成績は下がっている。前はクラスで五位までに入ってたけど、今は十位くらいになってしまっている。
 この前も、国語のテストを返すときに「谷沢タニサワは最近がんばりがたりないんじゃないか」っていわれた。ほかのもっと下の子はいわれないのに、ボクだけがいわれたんだ。みんなのいる教室で。
 ボクの通う四次元学園は、初等部から高等部までの私立一貫校なんだ。これから六年間、ボクらは日本一難しい大学の合格を目指してがんばらないといけない。ボクらもがんばるけど、先生もがんばってるみたいだ。もしかして日本一難しい大学に多く合格させたら、お給料とかボーナスとかが増えるのかなあ?
 それから、国語の授業が終わって休み時間になったとき、ボクよりずっと成績が下の子がボクの席の前までやってきて、こういった。

 ――タニサワはさいきん、がんばりがたりないんじゃないか~

 まわりの何人かが笑っていた。何がおもしろいんだろう? 先生のいったことをマネしてそのままいっただけじゃないか。ボクはガマンして黙って無視して座ったままでいた。
 この次の日の朝、上履きに砂が入ってた。
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