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七章「ナラオの日常」

31. おしゃべり

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「――ところで最近子供への虐待多いよな」
「うん。まああたしら母親いないし父親ともめったに会えないから、ギャクタイとかカンケーないけどね。でもそんなのやる人ってバッカじゃないの?」

 松男君と竹子ちゃんのお父さんは自衛官なんだって。竹子ちゃんのほんとのお父さんじゃないけど。

「そだね。でもそんなことしたら、警察につかまるか、将来しかえしされるかもしれないじゃん。だから、やめときゃいいのにね」
「うん、だよね。けどさあ、なんであたしらこんなこと話してんだっけ?」
「お爺ちゃんからこんな話題で話すようにって言われたからだろ」

 松男君は、お爺さんのこと好きなんだよね。竹子ちゃんの方は、ちょっとうざがってるみたいだけど。

「でもこれってやらせっぽくない?」
「だよだよヤラセだよ。お爺ちゃん、うったえられるよ。そしたらチョーエキになるよ、チョーエキ」
「そだね。そしたら、しっこうよゆう? それつくよ」
「つくつく。シッコウヨユウだよ」
「あのなあ、お前ら……あでもこれ、お爺ちゃん小説のネタだったな。執行余裕のままでいいか。ヤラセっぽいけど」
「えーやだやだ。それって大人のつごうとかってやつ?」
「ねえねえ、お爺ちゃーん、そこんとこどうよ?」

 うん。ここは落花傘先生を追及しないとね。

「はっはっは、その通り。ふむ。御小遣を上げよう。無駄遣いは駄目だぞ」
「やったね。あたしキンケツだったんだ」
「ありがと、お爺ちゃん」
「ありがとございます。落花傘先生」

 でもわいろだね、これは。
 その大きくて飾りがついてる袋には二百円ずつしか入ってなかった。ぼくら中学二年だよ。これって少なくない? 千円くらいはあるって思ったよぉ。

       ◇ ◇ ◇

「えっなにそれ、松男君そんなことしちゃったの?」
「そうだよ。もうあたしその瞬間まともに見ちゃったよ」
「えーおもしろーい」
「おもしろくないよぉ。もうねぇ、ズッピューンだよ。五十センチくらいあがったんだから」
「やだぁすっごい!」
「でね、それが落ちてきてぇ、あたしの髪にかかったんだからねっ」
「えええ、きったなーい。でどうしたの?」
「ふいたよ! そりゃふくよティッシュで。もー超クサいんだよー」
「わぁーやだやだやだやだ」
「で、ダメだと思ってすぐ頭あらったよ。五回あらったよ。もうトラウマだよっ」
「なに話してんだ?」

 うわさをしてたら松男君だね。

「あんたこの前おもいきりぶっ飛ばしたでしょマヨネーズ。その話だよ」
「ああああ、あれねっ。悪かったよ。けどお前がちゃんとフタしてないからだよ」
「あんたが使うと思ってあけておいたんだからねっ。あんたスマホ見ながらマヨネーズにぎるから悪いんだってば」
「いや違う。普通すぐ閉めるだろ使ったらぁ。だからまあじぶんも悪いけど、お前も悪い」
「ちがうちがう。よそ見してたあんただけが悪いぃー」

 あーあ、兄妹げんかになっちゃったよ。

       ・ ・ ・

「でもさあ、マヨネーズで思いだしたんだけど、この前ね、変質者がいきなり女子高生の顔にマヨネーズぶっかけたんだって」
「うわあ、最悪だね」
「うっそぉやだやだ、まじそれっ」
「マジマジ、ニュースニュース!」
「えーまちがってるよそいつ。マヨネーズはふつう食べ物にかけるんだよ。なんで顔にかけんの?」
「さあなあ、変態性欲とかじゃねえの?」
「もしかしてその子の顔がこふきイモに見えたとか」
「あははは、そうかもっ。食欲がそそられたんだぁ」
「そんなわけねえだろっ」

 みんなぁー、マヨネーズは食べ物以外にかけちゃいけないよ。

       ・ ・ ・

「こふきイモの話してたらお腹すいてきちゃった」
「そだね。じゃあじゃあ、こふきいもつくる?」
「いいねいいね、つくろっか」
「おいおい、もうすぐ晩飯だぞっ」
「ヘイキよ。ベツバラベツバラ!」
「そだよ。こふきいもは、べつばらだよう」
「そんなわけねえだろっ、腹一杯なってて粉吹き芋とか食いたくねえよ!」

       ・ ・ ・

「でさあベツバラで思いだしたけど、エボラってヤバくない?」
「ヤバいヤバい、超ヤバいよ。ゆうか、べつばらって聞いたら、すぐエボラ思いだすよね」
「そんなわけねえだろっ、スイーツとかじゃねえし。つうか食べ物ですらねえよ」

       ・ ・ ・

「てゆーかぁ、松男の顔ってエボラウィルスに似てなくない?」
「うん、ちょっとだけ似てるかも」
「そんなわけねえだろっ、どうやったらちょっとだけ似るんだよ」
「さあ? どうすんだろ」
「うーん、ヘアスタイルとか?」
「いねえよぉあんな髪型してるやつ!」
「でも美容院で頼んだらやってくれるんじゃない?」
「そうそう、エボラカットで! てね」
「そんなわけねえだろっ、病院行けって言われるよ!」

       ・ ・ ・

「でさあ、松男ってダレが好きなの? 教えてよ」
「うんうん、ぼくも聞きたい」
「誰でもいいだろっ」
「てことは、やっぱいるんだ?」
「あっ」
「あははは、ずぼしみたいだね」
「ねえ白状してよねっ。お兄ちゃん」
「気持ち悪いなあ、こんなときだけお兄ちゃん言うな」
「あ松男君てれてるてれてる」
「もーお兄ちゃん、ウブなんだから」
「もしかして、昨日うぶ声あげたばかりとか?」
「そんなわけねえだろっ、生後たった一日でしゃべれねーよ! 天才アカンボじゃねえんだし」

       ・ ・ ・

「なんか松男さっきから、そんなわけねえだろばっかだよ」
「そだね。なんかねらってなくない?」
「そんなわけねえだろっ、お前らが言わせてんだよ!」

       ・ ・ ・

「あーつかれた。なんか松男といるとつかれるね?」
「そだね。ぼくもつかれたー。もうやめて」
「それ、こっちのセリフだっちゅうの!」
「かなりフルいし、そのギャク。あたしら生まれる十年以上も昔だから」
「うんうん、もうお年よりだね。松男君って」
「お前らと同じ歳だよ!」
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