多人駁論【たじんばくろん】

紅灯空呼

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十章「霧介の溜息」

44. 辛口批評(仮)

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 ――まあそれも全部、ふっ、ふぃ、ふぃーっくしょーん! ぶるるぅぅー、おお寒ぅ。もしかして、あの世で霧介の奴が吾輩の悪口を云っておるのか?

「おい飛高。何をぶつぶつ抜かしとる?」
「あいやいや一人言だ、まあ今回はこれ位で好いであろう」
「何がじゃ?」
「連載小説の材料集めだ。現代社会を辛口で批評するのが狙いだ。大腸菌、テロ、親子関係、代理出産、少子化、いじめ、女性蔑視発言、交通事故、変質者、エボラ、ヤラセ、性被害、トランスジェンダー、夫婦関係、戦争などなど。挙げれば切りがない程多くの問題が溢れ出ておるからなあ」

 はあ? 此奴が現代社会を批評するだと?
 笑止千万。おヘソハエが湧くわい。

「あのなあ、お前はぐだぐだ文句言ってるか、孫達に無理矢理しゃべらせたり、冗談にしたりしてるだけで、何も批評なんぞやっておらんじゃないか。このペテン師めが!」
「であるから辛口批評(仮)なのだ。と云うか吾輩がちゃんとした批評などできる訳ないであろう。そんなのは批評家がちゃあんとやってくれる事を期待しておるのだ。いや既にやってくれておる筈だ。そうでないならとっくに日本は亡んでしまっておるからな。ふぉふぉふぉ」

 何が辛口批評(仮)だぁバカ者めが。此奴の存在こそが社会問題じゃわい。

「じゃがそれでお前の目的と言うのは達したのか?」
「そうだなあ……おお、一つでかいのがまだ残っておった」
「何じゃ?」
「ふむ。耳を貸せ」

 そう言って飛高がワシの耳に口を近づけてきた。
 あっ、いやん。そんなに息を吹きかけないでぇ。

 ――ごにょごにょごにょごにょ

 あ、いや待て。さすがにそれはまずいじゃろう。ヤバいヤバい超ヤバい。

「やめとけやめとけ。そんなこと声高に言えば脅迫文がくるぞ」
「そうだな。吾輩は怖くはないが、谷沢の会社に迷惑が掛かるといかんからな」

 ふん、何が怖くないだぁ。本当は怖くて怖くて既に漏らしておる癖に。道理で臭い筈じゃ。ちょっとだけ脅してやるとするか。

「そうだぞ、カッターの刃なんぞが送られてくるぞぉ。もしかしたら、裏の爺さんの使用済み入れ歯もくるかもしれん。くれぐれも気を付けろよ」
「ふむ。承知承知。爺いの入れ歯はやめて貰いたいからな」
「そうじゃろ。まあ若い美女の使用済みパンティーなら嬉しいじゃろうがな、しかも生写真付きで。ひゃひゃひゃ」
「あいやいや吾輩は絶対使用済み学校水着だ。できればJSの、まあJKまでは許そう。そこの処は譲れん!」
「さすが変態作家。呆れたわい」
「はははは、塩素の混じったあの生臭さがたまらぬのだ!」
「お前、孫娘のをこっそり嗅いどるじゃろ?」
「そんなの当たり前だ! 判り切った事を聞くな。おお、次の夏が待ち遠しいな」
「おい、ナラオちゃんのに鼻を付けたら、ただじゃ済まさんからなっ!」
「おお怖っ。ふぉふぉふぉ」

 やれやれ。竹子ちゃんも可哀想になあ。

「しかしお前みたいな奴がおるから、JKビジネスとか言うので多くの女生徒達が痛い目に合っておるのじゃぞぉ。反省しろっ反省!」
「何を云っておる。あんなのと一緒にするな。吾輩は個人の趣味であくまで空想して毎日書いておるのだ。現実と虚構はちゃあんと区別しておる」
「ふん、お前の現実と虚構の境界線なんぞあてになるもんか」
「あいやいや十分に正確なのだ。吾輩は女の子を連れてきて嫁にしようなどと考えても、それは虚構にして実現しておるのだ。その辺りが全く判っておらぬ輩とは次元が違う!」
「わかったわかった。今回はそう言うことにしておいてやるわい」

 まあ確かに此奴は、ロリコンはロリコンでも実際に女の子を連れ去る「悪玉・ロリコン」とは違うと言えば全然違うなあ。あえて「非悪玉・ロリコン」と呼ぶべきじゃろう。
 じゃが此奴の書く小説を読んで、現実を見失うバカ者がおるのもまた事実じゃわい。そこをどうにかせねばなあ。あいや此奴の小説など、もはや誰も読んではおらんもぉ。
 まあとにかく現実を見失うのは読んどる時だけにして欲しいなもぉ。それができんのは、この国の国語教育に問題があるからに違いないのぢぁ。
 てあれ、変な口癖が……。
 などと飛高に無理矢理言わされているワシ。これってヤラセじゃなくない?

       ◇ ◇ ◇

 冥王星では良い子にしておれば、一年に一回だけ一時間程度じゃが、魂を地球に戻してもらえる。じゃからこうして地球にやってくることができたのじゃ。
 まあ地球こっちの者達が気付いてくれんかったら、詫びしいものじゃがな。
 じゃから命日だとか法事だとかがチャンス日なのじゃ。
 今日はワシらの命日じゃと言うのに、気付いてくれたのは飛高ただ一人。
 ワラビもスギナもクリオもキノコもけしからん。命日と言うことすら忘れておるわい。
 ふぅ~~、死ぬのは死んでからが寂しいものじゃ。冥王星では近所には、死んだ日が近い者しかおらん。そう言う決まりなので文句は言えんが……。

「なあ母さん」
「そうですね、あなた」
「それじゃあ帰るとするか」
「はい、帰りましょう」
「帰ったらすぐにずっこんばっこんか」
「あらまあ、おてやわらかに。うふふ」

 そうと決まれば冥王星にひとっ飛びじゃ。そしてずっこーんじゃ。

「ところであなた、ずっこんばっこんで思いだしたのですが、さっきのボインボイン枕というのは?」
「あ、いや、あのその……ふんがぁくっくるぅ」
「は? なんですか、それ」
「いや深い意味はない……」

 やれやれ、とんだやぶへびになったわい。
 じゃが、まあこのぶんだと露子は認知症などならずに済みそうじゃな。
 何しろ、ずっこんばっこんで日々鍛えておるのじゃから。

 とまあ今回は最初から最後まで、全部吾輩の一人言だ。ふぉふぉふぉ。
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