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2起「追悼・落花傘先生」
50. 遺言状
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先月・一月三十一日夕方のこと。
落花傘先生は、孫娘の竹子ちゃんと一緒に近くのコンビニまで買い物に行く途中、車にはねられてその場でお命を落とされた。
竹子ちゃんの話によると、彼女が落花傘先生と二人で並んで歩いているときに、前方からスピードを出し過ぎた車が近付いてきたため「危ない」と叫んで竹子ちゃんをかばった先生が、犠牲になってしまったそうだ。
竹子ちゃんにケガはなかったが、その事故によるショックはかなり大きなものとなっているに違いない。
そして、逃げた車は今も見つかってはいない……。
その夜になって、落花傘先生の机の引き出しから遺書が見つかった。ご遺族の承諾が得られたので、ここに全文を引用させていただくことにする。
『遺言状』
落花傘飛高
謹賀新年。
吾孫よ、明けて愛でたい、その笑顔。
ふむ。これを読むのは誰であろう。これが開かれたからには、吾輩は既に死んでおる筈だ。どの様な最後となったであろうか。少なくとも車に引き殺される事だけは何としても免れたい物だ。ふぉふぉふぉ。
まあ死んだ今となってはどうにもならん事であり、どの様な死であれ、死は死だ。死が産になる訳ではないからな。死の後の抜かしても始まらぬ。
となると葬式か。ふむ。段取りを話す。好く聞け。否、好く読め。
生臭坊主など呼ぶでない。代わりに吾輩の気に入りの声優さんを誰か一人でも好いから呼んで欲しい。まあ彼女達も忙しいから無理なら止むを得ぬがな。その場合でも決して生臭だけは呼ぶな。有り難くない。同じ生臭でもJSの使用済み学校水着なら大歓迎であるがなあ。ふぉふぉふぉ。
それから線香等も一切不要だ。友引でも構わぬ。黒・白の幕なぞは張るな。桃色と白の縞模様が好い。竹子には、それとお揃いのパンツを是非穿いて貰いたい。他の参列者も赤やら白やら派手な衣装が好い。
花は何でも好いが可愛らしくて様々な色味が欲しい処だ。委細は任せる事とする。近頃温室栽培等で種類も豊富にあろうて。
式場には絶えず、魔女っ娘おちゃっぴぃの主題歌を流す事。
香典は全て、交通事故で苦しんでおる人達の為に使う様に。
これぞ誠に変態作家の最後に相応しいと云える様な葬式を期待しておる。
では御機嫌好う御姉様、て何でやのん!!
〔令和七年・元日〕
落花傘先生は毎年元日に遺言状を清書し直されていたそうだ。そしてこれが、先生がお書きになった文章で世間に発表される最後のものとなった。
もうそろそろ冥王星にお着きになった頃だろうか?
冥王星で、かつての悪友・山林霧介さんとお会いになることができるだろうか?
先生が尊敬されている谷沢準一級の冥王星での著書『文章読本2』を、お読みになることができるだろうか?
落花傘先生、どうぞ安らかにお暮らしください。
今までありがとう。そしてさようなら……。
◇ ◇ ◇
「おいこらぁ谷沢! 吾輩を勝手に殺すなー。吾輩はほれ、この通りぴゅんぴゅんしておる。持病もない。元気よれよれの六十九歳なのだ――なんて怒鳴られたりすることももうないんだな。困った先生だったけど、俺は先生のことが本当に好きだったし、それなりに尊敬もしてたよ」
「そうね。あんな奇抜な告別式の案を考えたり、とっても変態だったけど……ホント残念だわ」
「ああ、残念だな」
昨夜も、主人とこんな会話をしておりました……。
自己紹介が遅くなってしまいましたね。フリーライターの谷沢辛子です。もうこの週刊誌の読者様は、私の名前を覚えてくださったでしょうか? それともまだまだでしょうか? 初めての方、どうも初めまして、よろしくお願いいたします。
えーと、落花傘飛高先生の追悼特集ページはもうお読みになりましたか?
まだですか?
先生の告別式の様子だけでなく、御遺言状の全文までもが掲載されてますよ。ぜひお読みになってくださいね。
さて、明日(この雑誌の発売日の翌日)は、バレンタインデーですね。チョコもらえそうですか?
実は私、主人と息子以外に、もう一つ特別なのを用意してるんです。家族以外に渡すのってもう何年ぶりになるかしら。
えっ、誰にあげるのかって?
そんなの決まってますよぉ。もちろん落花傘先生の御霊前にです。でも、直接手渡すことができなくて、とても残念なのですが……。
しばらくお供えしてから、お孫さんたちに食べてもらうことにします。
えーと、ちょっと湿っぽくなってしまいましたね。いつも愉快だった落花傘先生は、こんなのを望まれていないはずですし、明るくいきますね。でないと先生に怒られちゃうもの。
落花傘先生は、孫娘の竹子ちゃんと一緒に近くのコンビニまで買い物に行く途中、車にはねられてその場でお命を落とされた。
竹子ちゃんの話によると、彼女が落花傘先生と二人で並んで歩いているときに、前方からスピードを出し過ぎた車が近付いてきたため「危ない」と叫んで竹子ちゃんをかばった先生が、犠牲になってしまったそうだ。
竹子ちゃんにケガはなかったが、その事故によるショックはかなり大きなものとなっているに違いない。
そして、逃げた車は今も見つかってはいない……。
その夜になって、落花傘先生の机の引き出しから遺書が見つかった。ご遺族の承諾が得られたので、ここに全文を引用させていただくことにする。
『遺言状』
落花傘飛高
謹賀新年。
吾孫よ、明けて愛でたい、その笑顔。
ふむ。これを読むのは誰であろう。これが開かれたからには、吾輩は既に死んでおる筈だ。どの様な最後となったであろうか。少なくとも車に引き殺される事だけは何としても免れたい物だ。ふぉふぉふぉ。
まあ死んだ今となってはどうにもならん事であり、どの様な死であれ、死は死だ。死が産になる訳ではないからな。死の後の抜かしても始まらぬ。
となると葬式か。ふむ。段取りを話す。好く聞け。否、好く読め。
生臭坊主など呼ぶでない。代わりに吾輩の気に入りの声優さんを誰か一人でも好いから呼んで欲しい。まあ彼女達も忙しいから無理なら止むを得ぬがな。その場合でも決して生臭だけは呼ぶな。有り難くない。同じ生臭でもJSの使用済み学校水着なら大歓迎であるがなあ。ふぉふぉふぉ。
それから線香等も一切不要だ。友引でも構わぬ。黒・白の幕なぞは張るな。桃色と白の縞模様が好い。竹子には、それとお揃いのパンツを是非穿いて貰いたい。他の参列者も赤やら白やら派手な衣装が好い。
花は何でも好いが可愛らしくて様々な色味が欲しい処だ。委細は任せる事とする。近頃温室栽培等で種類も豊富にあろうて。
式場には絶えず、魔女っ娘おちゃっぴぃの主題歌を流す事。
香典は全て、交通事故で苦しんでおる人達の為に使う様に。
これぞ誠に変態作家の最後に相応しいと云える様な葬式を期待しておる。
では御機嫌好う御姉様、て何でやのん!!
〔令和七年・元日〕
落花傘先生は毎年元日に遺言状を清書し直されていたそうだ。そしてこれが、先生がお書きになった文章で世間に発表される最後のものとなった。
もうそろそろ冥王星にお着きになった頃だろうか?
冥王星で、かつての悪友・山林霧介さんとお会いになることができるだろうか?
先生が尊敬されている谷沢準一級の冥王星での著書『文章読本2』を、お読みになることができるだろうか?
落花傘先生、どうぞ安らかにお暮らしください。
今までありがとう。そしてさようなら……。
◇ ◇ ◇
「おいこらぁ谷沢! 吾輩を勝手に殺すなー。吾輩はほれ、この通りぴゅんぴゅんしておる。持病もない。元気よれよれの六十九歳なのだ――なんて怒鳴られたりすることももうないんだな。困った先生だったけど、俺は先生のことが本当に好きだったし、それなりに尊敬もしてたよ」
「そうね。あんな奇抜な告別式の案を考えたり、とっても変態だったけど……ホント残念だわ」
「ああ、残念だな」
昨夜も、主人とこんな会話をしておりました……。
自己紹介が遅くなってしまいましたね。フリーライターの谷沢辛子です。もうこの週刊誌の読者様は、私の名前を覚えてくださったでしょうか? それともまだまだでしょうか? 初めての方、どうも初めまして、よろしくお願いいたします。
えーと、落花傘飛高先生の追悼特集ページはもうお読みになりましたか?
まだですか?
先生の告別式の様子だけでなく、御遺言状の全文までもが掲載されてますよ。ぜひお読みになってくださいね。
さて、明日(この雑誌の発売日の翌日)は、バレンタインデーですね。チョコもらえそうですか?
実は私、主人と息子以外に、もう一つ特別なのを用意してるんです。家族以外に渡すのってもう何年ぶりになるかしら。
えっ、誰にあげるのかって?
そんなの決まってますよぉ。もちろん落花傘先生の御霊前にです。でも、直接手渡すことができなくて、とても残念なのですが……。
しばらくお供えしてから、お孫さんたちに食べてもらうことにします。
えーと、ちょっと湿っぽくなってしまいましたね。いつも愉快だった落花傘先生は、こんなのを望まれていないはずですし、明るくいきますね。でないと先生に怒られちゃうもの。
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