とある村での半農半勇てげてげライフ

サチオキ

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種まきの章 ー 落花生と猫娘 ー

銅の剣で枝打ち体験(ハーブ茶おかわり自由)

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 ミャケは、リビングにあがると、男が淹れたハーブ茶にも手を付けず、一気に話し出した。
 子供のころから勇者にあこがれていたこと。誰かに弟子入りをしたかったが、セイート村には勇者がおらず、事情があって村を出ることもできないでいたこと。勇者になった暁には、世界中をめぐってモンスターを討伐し、いずれはどこかの秘宝を見つけて、更にはその冒険譚を自ら執筆して出版し、半猫の冒険王ミャケの名前をこの田舎にまで響かせるんだ云々。
 それらを黙って聞いていた男だったが、ミャケがぬるくなったハーブ茶にようやく口をつけると、尋ねた。
「逆に聞くけど、勇者になるって、どういうことだと思う?」
「えっ?」
 今度はミャケの方が目を丸くした。ネコマタ族は猫と同じで、人間よりも瞳孔が大きい。びっくりしたり興奮したりすると、本人の意思によらず、その大きな瞳孔が開いてしまう。良くも悪くも、感情表現が豊かな種族なのである。
 

「決まってるじゃないですか。剣と呪文を覚えて、勇者ギルドに加入することですよね。噂で聞きました、あなた……えっと、ボッカ……さんも、『4Bsフォービーズギルド』所属ですよね。超大手ギルドじゃないですか! すごい!」
 紹介が遅くなってしまったが、ボッカというのが、この男の名前である。目を爛々と輝かせるミャケに対して、ボッカは自分の話をされているというのに、あまり興味なさげであった。底に残ったハーブ茶のしずくを玩具代わりにして、弄ぶようにカップを傾けながら言った。
「確かに今、勇者を名乗る者のほとんどが、どこかのギルドに入っている。ギルドからの支度金で武器・防具・道具を整え、自分のレベルに応じた依頼クエストの発注をギルドから受ける。仕事ぶりがギルドの基準をクリアすれば依頼達成。報酬を受け取り、それを手に酒場で晩飯。これをコツコツ繰り返すと、ギルドからの評価レベルが上がり、さらに難度の高い依頼を受けることができる。より遠くの、より手間のかかる、より危険で、より実入りのいい依頼。例えば火山の噴煙立ち込める深い谷の奥、皇帝コンドルの産んだ黒タマゴの採取、とか……」
「オワーク谷の皇帝コンドルですよね。と、とりに行ったんですか、ボッカさんも、そのタマゴを……?」
 固唾を呑み込み尋ねるミャケに、意味ありげに含み笑いを見せながら、ボッカはハーブ茶の残りを飲み干し立ち上がった。そして台所の床下収納を開けると、中から一振りの青銅製の剣、いわゆる銅のつるぎを引っ張り出し、ミャケの膝の上に置いた。
「さて、そろそろお勤めの時間だ。それを持って、ついてくるかい?」
「もちろんです!」
 ミャケの緊迫した声に、マメシバがまたもワフッと鳴いた。

 * * *

「あのー、これ、本当にお仕事なんですか?」
 ボッカとミャケ、そしてマメシバの二人と一匹は、ボッカの家の裏の雑木林に来ていた。ミャケが立ち木の張り出した枝に向けて、銅の剣を振り下ろして枝打ちし、地面に散らばったそれをボッカが拾い集めて束を作っていく。
「これ、どう見てもただの枝打ちですよね。これなら私、生まれてこの方、イヤってほど手伝わされてます」
「そうなんだ。道理で手際がいいと思った。剣を入れる角度がコツみたいだね」
「からかわないでください!」
 ふくれっ面をするミャケ。瞳孔がすっかり細くなってしまっている。
「僕の生活ぶりを取材しに来たんでしょう。朝6時に起きて、タマゴと野菜を集めて、朝飯。そのあと10時まで、枝打ちと芝刈り。これが僕の日常だから」
「えー。何ですかそれ。それじゃあ農家じゃないですか」
「そうだよ。僕は半農半勇の勇者だもの」
 半農半勇。全く聞いたことのない単語に、ミャケが小首をかしげた。
「僕が勝手につけた名前なんだけどね。朝と夕方は農作業をして、必要な分だけの食料と燃料を作る。入用なものは基本的に自給するけど、衣服や医薬品みたいに僕にスキルがなくて自給が難しいものは、モンスター討伐その他の報酬でもらったお金で買って済ませる。僕はここで、そういう生活スタイルを送っているのさ」
 ミャケはもう枝打ちする手を止めて、手の甲に生えたふさふさの毛の手入れを始めている。ネコマタ族の女はこの毛の手入れには余念がない。都会の人間で言うネイルケアのようなものだ。
「はあ。ずいぶんてげてげな生活ですね。4Bsギルドみたいな大手が、よくそんな生活を認めてますね」
「うん。だから僕はギルドには入ってないよ」
「うえっ!?」
 ミャケが素っ頓狂な声を出す。声はむなしく山彦となって木霊した。
「半農半勇なんてもっともらしい言い方してるけど、ようするに無職じゃん!? ちきしょー、あの性悪女、また騙しやがったなっ」
 ミャケは持っていた銅の剣を地面に叩きつけると、キーと喚きながら地団駄を踏んだ。遊んでいるものと勘違いしたマメシバが、周りをおちょくるように駆け回る。
「おや。今日はお客さんが多いな」
 その様子を眺めていたボッカだったが、表から足音が近づいてくると、そちらを振り返った。散らばった落ち葉や小枝を踏みながら近づいてくる音のリズムは一定で、なんだか上品な雰囲気である。

 ―続―
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