218 / 308
6-5
しおりを挟む
次の日から始まった私達の仕事は、花の水遣り、そして花を増やすための株分けだった。
魔力を流しつつ行う繊細な作業は、私でも中々の重労働だ。
初めの頃は、私の姿を見る度に文句を言っていたエリン達も、日々の疲れからか、段々と絡んでこなくなった。
「お前、良い体力してんな。さすがド田舎育ち。」
「あはは、まあね。カインは大丈夫?」
「俺はな。でもそろそろ限界の奴も出てくると思うぞ。」
「そうだね。僕、男爵様に相談してみるよ。」
今日、一緒に仕事をした子供達の中に、酷く顔色の悪い子がいた。あれでは、いつ倒れてもおかしくない。
「お前、本当にお人好し。」
「ん?何?」
「何でもない。早く行け。」
私は素っ気ないカインを置いて、グレゴール男爵の部屋に向かった。
「駄目だ。それはお前の決める事ではない。これだから孤児は。さっさと仕事へ戻れ。」
男爵に全く取り合ってもらえず、私は仕方なく花園へ戻る。
そしてその途中、廊下でエリン達とばったり出会した。
「うわ、こんな時に最悪。」
「エリン、こんな奴ほっといて早く王妃様の所に行こうよ。」
「そうね。なんだか気分が悪くなったわ。」
私の横をエリンと取り巻きの子達が通り過ぎる。
その瞬間、エリンから酷い魔力の揺らぎを感じた。
「ちょっと待って、エリン!何だか君の魔力がおかしい!」
私は思わず、エリンの手を掴んだ。
エリンの手は異様に冷たく、間近で見た彼女の顔色は血の気がない。
「触らないで!」
勢い良く払われた私の手に、エリンの爪が当たって血が滲む。
「孤児に触られるなんて本当に最悪!しかもエリンって何!?私、貴方なんかに名前を呼ばれたくないんだけど!」
激昂するエリンが、私の胸を強く押した。その拍子に、私は思い切り尻餅をつく。
それでもなお、怒りの収まらないエリンが、私に詰め寄ってきた。
「おい、お前らこんな所にいていいのかよ?」
反撃すべきか迷っているとカインの人を馬鹿にしたような声が聞こえた。
「はいはい。まったく、孤児のせいで時間を無駄にしたわ。エリン、行きましょ!」
黒髪の少女が、まだ納得していないエリンを引っ張って廊下の奥へ消えて行った。
「お前、馬鹿だろ。あれだけ大人しくしてろって言ったのに。ここにいる奴らは魔力だけは高いんだ。孤児のお前は、何されるか分かんねえぞ。」
「うん。ありがとう、カイン。」
私は、カインの少し小さな手を借りて立ち上がる。
「でも、ちょっと気になる事があって。」
「エリンの魔力枯渇か?」
「え!?カイン、分かるの!?」
「ああ、俺は生まれつき目が良いんだ。だから魔力の流れが見えんだよ。」
そう言って指し示すカインの髪と同色の瞳には、星の輝きが浮かんでいた。
「あの花...。あれが、エリンの魔力を吸ってた。」
カインは睨みつけるように、花園がある方をじっと見ていた。
魔力を流しつつ行う繊細な作業は、私でも中々の重労働だ。
初めの頃は、私の姿を見る度に文句を言っていたエリン達も、日々の疲れからか、段々と絡んでこなくなった。
「お前、良い体力してんな。さすがド田舎育ち。」
「あはは、まあね。カインは大丈夫?」
「俺はな。でもそろそろ限界の奴も出てくると思うぞ。」
「そうだね。僕、男爵様に相談してみるよ。」
今日、一緒に仕事をした子供達の中に、酷く顔色の悪い子がいた。あれでは、いつ倒れてもおかしくない。
「お前、本当にお人好し。」
「ん?何?」
「何でもない。早く行け。」
私は素っ気ないカインを置いて、グレゴール男爵の部屋に向かった。
「駄目だ。それはお前の決める事ではない。これだから孤児は。さっさと仕事へ戻れ。」
男爵に全く取り合ってもらえず、私は仕方なく花園へ戻る。
そしてその途中、廊下でエリン達とばったり出会した。
「うわ、こんな時に最悪。」
「エリン、こんな奴ほっといて早く王妃様の所に行こうよ。」
「そうね。なんだか気分が悪くなったわ。」
私の横をエリンと取り巻きの子達が通り過ぎる。
その瞬間、エリンから酷い魔力の揺らぎを感じた。
「ちょっと待って、エリン!何だか君の魔力がおかしい!」
私は思わず、エリンの手を掴んだ。
エリンの手は異様に冷たく、間近で見た彼女の顔色は血の気がない。
「触らないで!」
勢い良く払われた私の手に、エリンの爪が当たって血が滲む。
「孤児に触られるなんて本当に最悪!しかもエリンって何!?私、貴方なんかに名前を呼ばれたくないんだけど!」
激昂するエリンが、私の胸を強く押した。その拍子に、私は思い切り尻餅をつく。
それでもなお、怒りの収まらないエリンが、私に詰め寄ってきた。
「おい、お前らこんな所にいていいのかよ?」
反撃すべきか迷っているとカインの人を馬鹿にしたような声が聞こえた。
「はいはい。まったく、孤児のせいで時間を無駄にしたわ。エリン、行きましょ!」
黒髪の少女が、まだ納得していないエリンを引っ張って廊下の奥へ消えて行った。
「お前、馬鹿だろ。あれだけ大人しくしてろって言ったのに。ここにいる奴らは魔力だけは高いんだ。孤児のお前は、何されるか分かんねえぞ。」
「うん。ありがとう、カイン。」
私は、カインの少し小さな手を借りて立ち上がる。
「でも、ちょっと気になる事があって。」
「エリンの魔力枯渇か?」
「え!?カイン、分かるの!?」
「ああ、俺は生まれつき目が良いんだ。だから魔力の流れが見えんだよ。」
そう言って指し示すカインの髪と同色の瞳には、星の輝きが浮かんでいた。
「あの花...。あれが、エリンの魔力を吸ってた。」
カインは睨みつけるように、花園がある方をじっと見ていた。
2
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。
束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢リーシャは結婚式を直前に控えたある日、婚約者である公爵家長男のクリストファーが、リーシャの友人のシルキーと浮気をしている場面に遭遇してしまう。
その場で浮気を糾弾したリーシャは、クリストファーから婚約の解消を告げられる。
悲しみにくれてやけになって酒場に駆け込んだリーシャは、男たちに絡まれてしまう。
酒場にいた仮面をつけた男性──黒騎士ゼスと呼ばれている有名な冒険者にリーシャは助けられる。
それからしばらくして、誰とも結婚しないで仕官先を探そうと奔走していたリーシャの元に、王家から手紙が届く。
それは、王太子殿下の侍女にならないかという誘いの手紙だった。
城に出向いたリーシャを出迎えてくれたのは、黒騎士ゼス。
黒騎士ゼスの正体は、王太子ゼフィラスであり、彼は言う。
一年前に街で見かけた時から、リーシャのことが好きだったのだと。
もう誰も好きにならないと決めたリーシャにゼフィラスは持ちかける。
「婚約者のふりをしてみないか。もしリーシャが一年以内に俺を好きにならなければ、諦める」と。
後宮の右筆妃
つくも茄子
キャラ文芸
異母姉の入内に伴って「侍女」として後宮入りした杏樹。巽家の三女に生まれた杏樹は炎永国において珍しい赤い髪と翡翠の目を持っていた。杏樹が姉についてきた理由は婚約者をもう一人の異母姉に寝取られたためであった。皇帝には既に数多の妃と大勢に子供がいるが、何故か皇后と皇太子がいない。そのため後宮では日夜女達の争いが勃発していた。しかも女官の変死が相次いでいるという物騒な状況。ある日、書庫で褐色の肌に瑠璃色の目をした失礼な少年と出会った。少年と交友関係を築いていくうちに後宮の事件に巻き込まれていく。杏樹の身を守る措置として彼女には「才人」の位が与えられた。遥か昔に廃止された位を皇帝はわざわざ復活させたのだ。妃でもあり、女官でもある地位。なのに四夫人の次の位に位置付けられ「正二品」となった。杏樹は夜伽をすることが無かったが、周囲から寵妃と思われていた。皇帝は杏樹に多大な権利を与えてゆく中、朝廷と後宮はめまぐるしく動くいていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる