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*ヴェイル視点 31
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どうにもならない衝動に駆られ、ステラを押し倒していたはずが、一瞬の隙に、違う場所へ転移させられた。
先程まで俺を包んでいた芳しい香りが消え、寂しさが募る。
俺は、まだ興奮が冷めない頭を持ち上げて、周りを見渡した。
「団長、やり過ぎですよ。」
「ニルセン…。」
よく知った気配に振り向くと、疲れた顔をしたニルセンが立っていた。
「バレリーさんの貞操の危機でしたから、巫女様に、こちらまで飛ばしてもらいました。頭は冷えましたか?」
「…あんな所で、ステラの初めてを奪ったりはしない。」
「はいはい、そうですか。バレリーさんは、巫女様とすぐにこちらへ来ますから、団長は座ってお待ち下さい。」
ニルセンの棘のある物言いに、イライラしつつも、俺は仕方なく、ソファに飛び乗って、そこに寝そべった。
そんな俺へ、ニルセンは真剣な表情を向けた。
「団長、思った以上に状況は悪いです。」
「レイザルーブ殿が死んだそうだな?」
「はい。仲間を庇って命を落とされました。」
「そうか…。あの方らしいな。」
亡くなったレイザルーブ殿を想って、俺とニルセンは口を閉じる。一時的に部屋の中は、酷く重い沈黙に包まれた。
時を刻む時計の秒針の音だけが響く中、先にニルセンが口を開く。
「魔物の王の一声で、突然、集まった魔物達が、共食いを始めたのです。種類も大きさも関係なく、辺りにいるものを手当たり次第に食らっていました。」
「共食いか…。今までの魔物には、確認されていない行動だな。」
「バルフレア山を脱出する間際に見た魔物は、多数の魔核を持つ禍々しい存在になっていました。現在は、どうなっているか…。監視のため、樹人族と竜人族の異能者が、ガイナイル山脈に留まっています。」
「魔物の王は、魔物を操れるのか。やっかいな…。それで?完全に目覚めたヤツは、ステラを探す素振りを見せたか?」
「はい。魔物の王は…、アイツは!食い散らかされた魔物の残骸の中で、笑っていました。バレリーさんの名前を呼びながら…。思い出すだけでも悍ましいです。」
「ヤツは、間違いなく、次にステラを狙うはずだ。ニルセン、俺に何かあれば、迷わずステラを連れて逃げろ。最優先はステラだ。いいな?任せたぞ?」
「はい。必ず守り抜きます。」
俺の命に替えても、ステラは守る。
絶対に、彼女の未来は奪わせない。
決意を込めた目を向けると、ニルセンもまた覚悟を決めた視線を返してきた。
ニルセンと話をしていると、部屋の外にステラの気配を感じた。
体を持ち上げ、視線を扉に向けると、巫女の後ろに顔を赤くしたステラが見えた。
「あら、短距離転移は上手くいったみたいね。残念だわ。」
「おい…。」
「まったく、ステラにベタベタベタベタと。ステラの真っ白な肌が赤くなっているじゃない。この発情猫!ステラは、危ないからこちらにいらっしゃい。」
巫女は俺を追い払う仕草をすると、ステラを自らの隣に座らせてしまった。
ステラの隣は、俺だけのものだというのに。
イライラし過ぎて、喉から唸り声が漏れる。
巫女は、そんな俺に挑発的な視線を向けた後、テーブルの上の通信機を起動した。
「フェイ、そちらはどう?」
「エレンか?」
通信機から低い男の声が聞こえてきた。
随分と巫女とは親密そうだ。
「魔物の共食いで、魔が凝縮されたようだ。今まで感じたことのない邪悪な魔力が、山脈に漂っている。そのせいで、バルフレア山の毒が強まり、私もこれ以上は近付けなくなった。」
「そう。危ないから、もうそこから離れていいわ。ありがとう。」
「エレン、君も気を付けろ。」
ブツリと切れた通信機を、巫女は深刻な表情で見ていた。
先程まで俺を包んでいた芳しい香りが消え、寂しさが募る。
俺は、まだ興奮が冷めない頭を持ち上げて、周りを見渡した。
「団長、やり過ぎですよ。」
「ニルセン…。」
よく知った気配に振り向くと、疲れた顔をしたニルセンが立っていた。
「バレリーさんの貞操の危機でしたから、巫女様に、こちらまで飛ばしてもらいました。頭は冷えましたか?」
「…あんな所で、ステラの初めてを奪ったりはしない。」
「はいはい、そうですか。バレリーさんは、巫女様とすぐにこちらへ来ますから、団長は座ってお待ち下さい。」
ニルセンの棘のある物言いに、イライラしつつも、俺は仕方なく、ソファに飛び乗って、そこに寝そべった。
そんな俺へ、ニルセンは真剣な表情を向けた。
「団長、思った以上に状況は悪いです。」
「レイザルーブ殿が死んだそうだな?」
「はい。仲間を庇って命を落とされました。」
「そうか…。あの方らしいな。」
亡くなったレイザルーブ殿を想って、俺とニルセンは口を閉じる。一時的に部屋の中は、酷く重い沈黙に包まれた。
時を刻む時計の秒針の音だけが響く中、先にニルセンが口を開く。
「魔物の王の一声で、突然、集まった魔物達が、共食いを始めたのです。種類も大きさも関係なく、辺りにいるものを手当たり次第に食らっていました。」
「共食いか…。今までの魔物には、確認されていない行動だな。」
「バルフレア山を脱出する間際に見た魔物は、多数の魔核を持つ禍々しい存在になっていました。現在は、どうなっているか…。監視のため、樹人族と竜人族の異能者が、ガイナイル山脈に留まっています。」
「魔物の王は、魔物を操れるのか。やっかいな…。それで?完全に目覚めたヤツは、ステラを探す素振りを見せたか?」
「はい。魔物の王は…、アイツは!食い散らかされた魔物の残骸の中で、笑っていました。バレリーさんの名前を呼びながら…。思い出すだけでも悍ましいです。」
「ヤツは、間違いなく、次にステラを狙うはずだ。ニルセン、俺に何かあれば、迷わずステラを連れて逃げろ。最優先はステラだ。いいな?任せたぞ?」
「はい。必ず守り抜きます。」
俺の命に替えても、ステラは守る。
絶対に、彼女の未来は奪わせない。
決意を込めた目を向けると、ニルセンもまた覚悟を決めた視線を返してきた。
ニルセンと話をしていると、部屋の外にステラの気配を感じた。
体を持ち上げ、視線を扉に向けると、巫女の後ろに顔を赤くしたステラが見えた。
「あら、短距離転移は上手くいったみたいね。残念だわ。」
「おい…。」
「まったく、ステラにベタベタベタベタと。ステラの真っ白な肌が赤くなっているじゃない。この発情猫!ステラは、危ないからこちらにいらっしゃい。」
巫女は俺を追い払う仕草をすると、ステラを自らの隣に座らせてしまった。
ステラの隣は、俺だけのものだというのに。
イライラし過ぎて、喉から唸り声が漏れる。
巫女は、そんな俺に挑発的な視線を向けた後、テーブルの上の通信機を起動した。
「フェイ、そちらはどう?」
「エレンか?」
通信機から低い男の声が聞こえてきた。
随分と巫女とは親密そうだ。
「魔物の共食いで、魔が凝縮されたようだ。今まで感じたことのない邪悪な魔力が、山脈に漂っている。そのせいで、バルフレア山の毒が強まり、私もこれ以上は近付けなくなった。」
「そう。危ないから、もうそこから離れていいわ。ありがとう。」
「エレン、君も気を付けろ。」
ブツリと切れた通信機を、巫女は深刻な表情で見ていた。
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