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昔話

①昔話

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 村外れの小屋のような小さな家。
 そこに家族で住んでいた。
 父と母、そしてわたし。三人で貧しいながらも、慎ましく幸せに暮らしていた。

 わたしが小さな頃に、天気が悪い日が続き、作物の収穫が少なくなってきた。ギリギリまで両親はやりくりしていたと思う。それも限界がきて、父さんは出稼ぎにいくことになった。

 母さんと二人で働いて、父さんが帰ってくるのを待っている。
 また、仲良く暮らしていけると思うから。

 でも、父さんは帰って来なかった。
 いつまでも待っても……。

 待っている間、苦しい生活でも、いつか父さんは帰ってくるからと、母さんは笑っていた。
 そうして、無理に働いていたせいか、具合が悪くなることが増えてゆき、最後には寝込んでいった。

 最後まで、父さんが帰ってくるからと、信じていた。

 母さんはいなくなった…。
 最後に一人にして、ごめんと言って。

 母さんに言われていた通りに、すべてを終わらせて、いくつか時がたって、父さんの知り合いだという人がきた。
 父さんの形見を持ってきてくれた。聞けば、流行り病でなくなって、ずっとわたし達のことを心配しながら、終わったという。
 受け取ったのは、二つの小さな櫛だった。椿の花模様のある櫛。いつか持って帰るのだと、聞いていたから、わざわざここまで持ってきてくれたのだと。

 言葉でお礼を言うことしかできないけど、ついでがあって持ってきたのだから気にするなと、その人は言って、帰っていった。


 母さんの所に持っていって、二つのうちのひとつを、綺麗に紙に包み直して、埋めてきた。


 誰もいなくなってしまった。

 手元にあるのは、母さんが使っていたものと、小さな櫛。それと家。



 自分一人での日々は、暮らしているだけで精一杯だった。





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