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昔話

②昔話

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 あれから、何回か季節が巡り、いつの間にか寂しさにも馴れていった。


 一人になる前は、母さんがいなくなっても、いつか父さんは帰って来てくれるのではないかと、思っていたから。

 本当に一人になったのだと気がついた時は、悲しくて何も考える事ができなかった。
 形見となった櫛を、母さんの所へ持って行き、埋めて、そうして終わった時に、いっぱい泣いた。

 家に帰って、また泣いていた。このまま二人の所にいけたらいいのに……。


 いつ寝たのかわからないけど、目が覚めた。ずっと泣いていたから、のどが渇いて水を飲もうとした時に、外から何かが吠えている音がした。

 よろよろしながら外に出ると、犬がいた。少し小さい犬。黒くて、痩せているけど、かわいらしい犬だった。
「こんな所でどうしたの?」

 久しぶりにしゃべった。小さな犬は、わたしににすぐ懐いてくれた。
「おまえの母さんはいないの?」

 聞いても答えられるはずないのに、つい聞いてしまった。
 親とはぐれると寂しいだろうから。

 わんわんと軽く吠えているけど、怖くはない。
 わたしにじゃれて足元にくっついてきた。
 嬉しくて抱きしめた。暖かくて、ふわふわで……。
 抱きしめている内に、涙がでた。


 それから、一人と一匹で暮らしていった。つらいこともいっぱいあった。けど、楽しいことも少しはあった。
 季節折々に、野辺の花を二人の所にもっていく。
 本当はそこに二人はいないけど、わたしにとって大事な場所。両親を思い出せる、ただひとつの場所に花を手向ける。
 母さんの遺髪と父さんの形見。それを埋めている場所に、一人と一匹で花を持って行き、手を合わせる。

「また、来るから」と声をかけて、家に帰る。
 そうやって、季節は移り変わって、何回も巡っていった。

 ずっとこうやって暮らしていくのだと、思っていた。



 子供の頃からだから、何年もたったと思う。
 また、あの時のように雨が降り始めた。
 長く長く……。

 一人と一匹の暮らしは、なんとかなったけど、
 他の人の暮らしむきは、だんだん苦しくなっていったらしい…。

 わたしには、関係ないと思っていたけど……。


 









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